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「おさぁ!ちょっときてほしいんだよー!!おさぁぁ!!」
「むきゅう……またあのおちびちゃん……?」

うんざりした表情でぱちゅりーは顔を上げる。傍らの串まりさがちっちっと串を鳴らした。
駆け込んできたちぇんはぜいぜい息をつきながらぱちゅりーに訴える。

「あのおちびちゃんたちが、にんげんさんにあまあまをおねだりしてるんだよー!!」
「むきゅうぅ!!れいむとありすはなにをやってるのっ!?」
「なにもしないでみてるよー!!」
「……っとにもうっ!いまいくわ。まりさ、おねがい!」
「やれやれなのぜ」

公園掃除のスケジュール調整の会合は中断され、長のぱちゅりーと副長格の串まりさは家を出た。
あの一家が公園に来てから三日になるが、彼らのためにぱちゅりーが駆り出される事態はすでに十回を超えていた。
しかもそのすべてがおちびちゃん絡みである。


見ると、確かに公園の中心にある噴水のそばにれいむ一家はいた。
ベンチに腰掛けているサラリーマン風の青年が頬張っている菓子パンを見て、二匹の子供がぴょんぴょん跳ねてわめいている。

「ちょうだいにぇ!!ちょうだいにぇ!!きゃわいいれいみゅにあみゃあみゃちょうだいにぇ!!」
「ときゃいは!!ときゃいは!!ほちい!!ほちい!!しょれほちいいぃ!!」
「ちょうだい!!ちょうだい!!ねぇ!!ねぇ!!ちょうだいちょうだいちょうだいちょうだい!!」

体中に涎と泥をこびりつかせた子ゆっくり二匹が、あとからあとから流れる涎にぬらぬらと光沢を帯びて蠢く姿に、
青年はあきらかに顔をしかめ、今にも立ち上がらんばかりである。
親のれいむとありすはといえば、にこにこ微笑を浮かべて子供たちの姿を見守っているだけだった。

「なにやってるんだぜぇぇ!!」
「ゆべえぇぇ!!?」

駆け寄りざま、串まりさがれいむとありすの横っ面に体当たりを喰わした。
悲鳴を漏らして転がる二匹を尻目に、串まりさは舌を子ゆっくり二匹に添えてから、
勢いよく振り抜いて親のほうに放ってよこした。

「ゆびぇっ!!ゆっびぇええええええん!!」
「ゆばあああぁぁぁあ!!いっぢぁああいよおおぉぉぉぉ!!」
「ゆゆっ!!おちびちゃん!!おちびちゃあああぁん!!」

自分の痛みを忘れて子供たちにぺーろぺーろするれいむとありす。串まりさが「ちっ」と串を鳴らす。
そこでぱちゅりーが青年の前に歩み出て、深々と頭を下げて詫びた。

「ほんとうにごめんなさい、おにいさん。あのこたちはまだむれにはいったばかりなんです。
にどとしないようにいいきかせますから……」
「あーいいよ、別に……」

すっかり興を殺がれた風で青年は立ち上がると、さっさと立ち去ってしまった。

「ゆふううううぅぅぅぅ~~~~~~…………」

ぶわっと顔に噴き出た汗をもみあげでぬぐい、ぱちゅりーは深い深い吐息をつく。
虐待趣味の人間でなくて本当によかった。
しかし、目の前の危機は脱したとはいえ、こういうことが積み重なれば「公園のゆっくりは害獣だ」との評判が立ち、
恐ろしい一斉駆除を呼び込むきっかけにもなりかねない。

ゆっくりという生き物はいくら駆除してもすぐにわいてくるためにきりがないが、
その代わり死亡率も高いため、、放っておいても不思議と頭打ちになり頭数がほどほどで安定する傾向にある。
そのため、コストと人員を割いて駆除に乗り出すよりも、目に余らないかぎりは野良は黙認するのが人間社会での一般的な風潮だ。
人に迷惑をかけないように息をひそめ、目立ちさえしなければ、この公園はそれなりのゆっくりプレイスなのである。
しかるに、あの一家であった。

「びゃああああああ!!ゆ゛びゃああああああぁぁ!!おじぢゃんがいじべちゃあああ!!」
「あびゃあびゃぁぁ!!ありじゅのあびゃあびゃあああぁぁぁ!!がえじぢぇよおおおぉぉ!!」
「なんでおちびちゃんをいじべるのおおぉぉぉ!!?ひどすぎるよおおおぉぉ!!」
「ちいさいおちびちゃんにてをだしてはずかしくないのっ!!?ゆっくりあやまりなさいっ!!このいなかものっ!!」
「ちっちっちっちっ」

抗議をしてくる家族に冷めた視線を向け、串まりさはせわしく串を鳴らす。

「こたえてねっ!!おちびちゃんがなにをしたっていうのおおぉぉ!!」
「おさ、せつめいおねがいなんだぜ」
「むきゅ。ひとつ、じぶんからにんげんさんにちかづかない。
ひとつ、にんげんさんのものをねだらない。
ひとつ、おちびちゃんをかってにこうどうさせない。
とりあえず、すくなくともみっつのおきてさんをあなたたちはやぶっているわ。
まりさはゆっくりできないゆっくりをとめただけよ」
「おちびちゃんのやることでしょおおぉぉ!!?おとなげなさすぎるでしょおおぉぉ!!」
「こどものめんどうをちゃんとみられないいじょうにおとなげないことってのはそうそうないわよ」
「じゃ、おさ、せいっさいっするのぜ?」
「むきゅ。そうしてちょうだい」

群れの掟を破ったゆっくりできない仲間に『せいっさいっ』を加えるのは串まりさの仕事である。
群れの警察役として、串まりさは腕っ節を生かして働き、仲間たちに恐れられていた。
帽子の中から太く長い木の枝を取り出し、まりさはれいむとありすの前に立つ。
すでに群れの大半が集まってきてれいむ一家を取り囲んでおり、逃げ場はなかった。

「ほんとはおちびをせいっさいっしてやりたいけど、こどものふしまつはおやがせきにんをとるのがおきてなのぜ」
「ゆゆぅぅ!?やめてね!!やめてね!!」
「ありすたちをいじめてなにがたのしいのよおぉ!!?なんていなかものなむれなのおぉ!!」
「もうなんかいもせいさいされてるのに、まだじぶんたちのやってることがわかってないのぜ?」
「いっつもおちびちゃんのすることにけちをつけてえぇ!!
おちびちゃんがおぎょうぎわるいのはあたりまえでしょおおぉ!?」
「だからしつけるのがおやのつとめなのぜ。あたりまえのしつけをなんでやらないのぜ?」
「ちゃんとやってるよっ!!おちびちゃんはかしこいけど、ちょっとおぼえるのにじかんがかかるだけだよっ!!
おちびちゃんのことをしらないくせにかってにきめつけないでねぇぇ!!」
「しったこっちゃないのぜ。こっちはけっかだけではんだんするのぜ」

そう言い、串まりさは顎をしゃくる。
串まりさの部下にあたるちぇんとみょんがれいむとありすの後頭部をそれぞれ押さえ、底部をさらす格好にした。
その底部に、串まりさはしたたかにもみあげに握った木の枝を振り下ろした。

「「ゆぎゃああああぁぁっ!!」」
「ゆ゛ぁあああああん!!ゆ゛ぁああああ゛あ゛ん!!ぺーろぺーろぢでよおおぉぉ!!」
「あびゃあびゃたべちゃいよおおぉぉ!!あびゃあびゃ!!あびゃあびゃーーーー!!」

底部を打擲されて叫ぶ親にすり寄って泣き叫んでいる子供たちを、群れ仲間たちはおぞましいものを見る目で見ていた。

破られた掟一つにつき三つ、合計九回ずつ打たれたれいむとありすは、
地面に伏してゆぐゆぐと泣きじゃくりながらなお抗議の声をあげた。

「だんでぇぇ……?だんでなのぉぉ………?」
「どがいばじゃないいいぃぃ…………」
「なんかいもいっているじゃない。あなたたちがむれのおきてをまもらないからよ、むきゅ」
「まもってるよ………!!おきてはちゃんと………!!」
「ええ、おちびちゃんのことさえのぞけば、あなたたちはりっぱにむれになじんでるわ。
それなのに、おちびちゃんのことになると、なんでそんなにゆっくりできないことをするの?」
「おちびちゃんはゆっくりするのがしごとなんだよおぉ………!!
おちびちゃんがゆっくりしているから、みんなゆっくりできるんでしょおおぉ……!?」
「そんなくそきったないなまごみをみてゆっくりするやつは、このこうっえんにはひとりもいないんだぜ」
「ゆ゛ぎぃっ………!!!」

れいむとありすが歯噛みをする。
言下に切り捨てる串まりさの言葉はさすがにゆっくりできない言い様だったが、
あまりにも的確に群れ一同の心情を言い表しているために、串まりさをたしなめる者はいなかった。

「この、まりさぁっ……おとなのしっとはみっともないわよぉぉ……!!
おちびちゃんはなまごみなんかじゃないっ………ていっせいしなさいぃ!!」
「なまごみがきにいらなきゃうんうんなのぜ」
「ゆがああぁ!!おちびちゃんがかわいいからってしっとしてえぇ!!」
「だれがそんなのにしっとするのぜ。あかちゃんことばもぬけてない、しーしーとうんうんたれながし。
よくまあそんなおちびにそだてられたのぜ、ぎゃくにかんしんするのぜ。
なまごみをかわいがるのはそっちのかってだけど、むれにめいっわくをかけるならいつでもつぶしてやるのぜ」

そう言い捨て、串まりさは背を向けて群れの本部となるダンボールハウスに戻っていった。
ぱちゅりーもその後につき、遠巻きに見守っていた群れ仲間たちも三々五々散らばってゆく。
ただ一匹、頭のリボンにブローチを留めたれいむだけが泣きじゃくるれいむ達に近づいていって声をかけた。

「ゆっ………れいむ、だいじょうぶ……?」
「ゆ゛ぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!でいぶ、でいぶううぅぅ!!
びんながおぢびぢゃんをいじべるんだよおおぉぉ!!」
「ゆ、でも、それはおきてさんをやぶったからだよ……おきてさんがだいじなのはわかってるでしょ?」
「おぢびぢゃんにぞんなむずがじいごどわがるわげだいでじょおおぉぉ!?」
「だからおとながみてなくちゃいけないし、そもそもそれくらいのおちびちゃんならふつうはわかるよ……。
ね、れいむのおうちでやすまない?」
「あじがどおおおおお」

ブローチれいむがれいむ一家を自分の家に誘い、一家はずりずりとその後についていった。
それを遠巻きに眺めながら、ぱちゅりーはふう、とまた息をついた。
振り返ると、やはり見ていた串まりさがちっちっと串を鳴らしている。

「いつもありがとう、まりさ」
「ゆん、これがまりさのしごとなのぜ。すけじゅーるのそうっだんをつづけるのぜ」
「ええ……」

先に本部に潜り込んでゆく串まりさ。
口は悪すぎるが、実際、気性の穏やかなぱちゅりーではあの一家にそう強くは出られなかっただろう。
こういう時はつくづく串まりさの存在がありがたかった。

腕っ節が強いのが串まりさの持ち味だったが、その実、頭のほうもそうとう回る。
こうして群れの行政を相談していても、その気配りや先見の明において決してぱちゅりーに劣るものではない。
ぱちゅりーは自分よりもむしろ串まりさのほうが長の器にふさわしいのではないかと思い、
そう持ちかけてみたことがあったが、串まりさは首を振って断った。

「まりさのしごとは、みんなにこわがられることなのぜ。こわがられなきゃ、けいっさつはできないのぜ。
でも、おさがみんなにこわがられてたらむれがまとまらないし、みんなゆっくりできないのぜ。
からだはよわいけどやさしくてあたまのいい、ぱちゅりーみたいなゆっくりがおさをやるのがいちばんなのぜ。
まりさはきらわれやくがしょうにあってるし、ぱちゅりーがおさでまんぞくしてるのぜ」

そういう事で、串まりさには劣る器と自分で思いながらもぱちゅりーが長を務めているのだった。


――――――――


「ゆっ、ゆっくりどうぞ、おちびちゃんたち」
「「ゆっくりいただきます!!」」

ブローチれいむの家で、一家はおやつに招かれていた。
ブローチれいむが育てている二匹の子まりさが噛み砕かれたどんぐりに口をつける。

「さ、おちびちゃんたちも……ゆゆっ」
「「むーちゃむーちゃ!!むーちゃむーちゃ!!ぱにぇっ!!うみぇっ!!」」

客の子れいむと子まりさにブローチれいむが促そうとしたが、言われる前に二匹はどんぐりに口を突っ込んでいた。
子まりさ達を押しのけんばかりに顔を突っ込み、はぐはぐくちゃくちゃと食べカスを撒き散らす。
飼いゆっくりと違い、食べカスを気にしない食べ方をするのが野良では普通だが、
それにしても子れいむ達の汚さは際立っていた。
一か所に落ち着いて食事をする子まりさ達に対し、
必要以上に涎を撒き散らし、尻をぶりんぶりんと振りながら食べる子れいむと子ありすはいかにも汚い。
外見的にも、よその子ゆっくりと並ぶことでその汚れはますます際立った。

「ゆふふ、れいむのおちびちゃんとぉ~ってもゆっくりしてるよぉ……」
「そ、そうだね……」
「ゆっ、とかいはなてぃーたいむにごしょうたいかんしゃするわ、れいむ」
「ゆん、どういたしまして」

大人たちは一歩引いて、おやつを貪る子供たちを眺めていた。


ブローチれいむも、飼いゆっくりから野良になった、いわゆる『ぷれいすおち』組である。
奇遇なことに、野良になった理由はれいむ達と同じであった。
飼われている間、帰りの遅い飼い主を待ちながら一日中ぽつねんと過ごす寂しさに耐えきれず、
飼いゆっくりが欲しいと飼い主に強くねだったのだ。

ありふれたケースだった。
ゆっくりが最も嫌うのは孤独である。
甘いお菓子も、ふかふかした寝床も、愉快なテレビも、
「しあわせー!」と楽しさを共有する仲間がいなければ、その喜びは半減以下なのだ。
これから死ぬまで一生一人ぼっちなのか、とある日想像したゆっくりが恐慌をきたし、番をねだるケースは多い。
最初に去勢を施しておかないかぎり、六割以上の確率でぶち当たる問題だと言っていい。

ブローチれいむの場合、ゆっくりの側も飼い主の側も頑として譲らなかった。
駄々をこね続けた結果、ブローチれいむはラムネで眠らされ、去勢された。
一生子供を作れない身体になったと知ったブローチれいむは深く絶望し、ほとんど廃ゆっくりになった。
不貞腐れているというレベルをはるかに越え、飼い主が話しかけてもほとんど反応せず、食事もほとんど摂らず、
いもしないおちびちゃんの幻影にぶつぶつと話しかけるだけの置物になり果てた。

「飼い主をゆっくりさせる」という行為は、通常のゆっくりにとっては見返りを期待しての仕事であり、
決してそれ自体が目的になるようなものではないのである。
母性が強く寂しがり屋だったブローチれいむにとって、子供を作り家族とゆっくりするという夢、生き甲斐が奪われた時点で、
飼い主に奉仕する動機は完全に失われたのだ。
死ぬまで永遠に人間に奉仕し続けるだけというゆん生は、彼女のゆん格を崩壊させるに充分な展望だった。

飼い主に媚びることをしなくなり、ただうんうんを垂れ流すだけのポンコツになったブローチれいむを飼い主は持て余し、
ほどなくバッジをむしり取られて道端に捨てられることになった。
殺すに忍びなかったのか、後始末を面倒くさがったのか、潰されなかったのは不幸中の幸いと言えた。
その後、野良生活の中で公園の群れに迎え入れられることで友達ができ、
子供を作れないブローチれいむと番になろうとする者こそいなかったが、
親が死んで孤児になった子ゆっくりの育て親を申し出ることで、念願の家族を手に入れることができたのだから。
おちびちゃん達と一緒に「しあわせー」と叫びながら食べる木の実は、飼い主の監視下で黙々とつつくケーキにはるかに勝った。
今になってみれば、なんで飼いゆっくりなんかやっていたんだろうと思うぐらいのものだった。

そんな彼女にとって、れいむとありすの番はとても他人事とは思えず、
群れでは疎んじられるこの一家と唯一積極的に接触していた。


「ゆーん、ねえ、れいむ、ありす……」
「なあに、れいむ?」
「そろそろ、おちびちゃんにおといれをおぼえさせたらどうかしら……?」

途端に番の表情が険しくなり、ブローチれいむはしまったと思った。
毎日群れの仲間に、おちびちゃんをなんとかしろ躾をちゃんとしろと責められている番は神経質になっていた。

「なにっ!?れいむまでおちびちゃんをいじめるのっ!?」
「とかいはじゃないわ!!れいむだけはおちびちゃんのみかただとおもっていたのに!!」
「ゆ……お、おちびちゃんのみかただからいうんだよっ!!」

しかし子供たちのことを思うと引き下がるわけにはいかなかった。

「おといれをおぼえさせるのが、なんでいじめなの?
このままじゃ、いっしょうおといれのできないうんうんゆっくりになっちゃうよ」
「ゆっ!!れいむはしんぱいしょうだね!!いくらなんでも、いっしょうこのままなわけないでしょ?」
「おちびちゃんたちはたいきばんせいがたなのよ。
ありすたちおとながあせってせかしてもぎゃくこうかなの。ながいめでみてあげなきゃね」
「ながいめって……いくらなんでも、こんなにおおきくなっておといれできないのはへんでしょ?」
「れいむのおぢびぢゃんはべんなんがじゃだいいいいい!!!」

怒鳴るれいむに、ブローチれいむはたじろいでしまう。
おちびちゃんの話さえしなければ、本当に素直で話のできるゆっくりなのに。

「なんでっ!?なんでみんなみんな、おちびちゃんをいじめるのおおぉ!?
おちびちゃんがいちばんゆっくりしてるのにっ!!みんなのほうがゆっくりしてないのにっ!!」
「しんじつのゆっくりをりかいするのはのらにはむずかしいのかしら……」
「「ゆっゆっちゅっきりーっ!!」」
「「ゆげぇっ!?」」

子れいむ達がさっさと食べ尽くし、まだ子まりさ達が食卓から離れないうちからうんうんをひり出した。
鼻先にうんうんを盛られた子まりさ達がぎょっとして飛びのく。

「「ゆふふ、ごめんね、まりさのおちびちゃんたち!!」」
「「おかーさん、れいむたち、きたないのぜー!!」」
「ゆ、おちびちゃんたち……ゆっくりゆるしてあげてね」
「「ゆうー……」」

(なんでこれがしんじつのゆっくりなんだろうね……)

ブローチれいむは疑問である。
群れのおちびちゃんを見ても、れいむ達は全く焦る様子がない。
むしろ、自分のおちびちゃんは特別ゆっくりしているといよいよ自信を深めている節すらあった。
一体どうしたものか、ブローチれいむには見当がつかない。


――――――――


「で、どうするのぜ?」
「むきゅ?」
「あのいっかのことなのぜ」

群れの中での公園掃除の分担を決め終えたところで、串まりさは目下の大問題を持ち出した。

「むきゅう……」
「わかってるはずなのぜ。あのつがい、なんかいいってもおちびをしつけようとしないのぜ。
きょうみたいなことがこれからもつづくなら、むれがくじょされないともかぎらないのぜ」
「むきゅ、わかってるわ……」
「まったく、かいゆっくりのときはすなおなれいむかとおもってたけど、とんだやっかいものだったのぜ。
あのつがいはげすじゃないから、おさもなかなかふんぎりがつかないのはわかるのぜ。
そういうときはむれのみんなのかおをおもいうかべるのぜ」
「わかってるってばっ、むきゅっ」

串まりさを遮り、ぱちゅりーはもみあげを振る。

ゆっくりというものは、ほぼ例外なく親バカである。
自分のおちびちゃんが世界一かわいいと信じて疑わない。
しかしそれにしても、あの番は異常だった。

「べつにあたまのわるいふうふにはみえないけど……あのおちびちゃんをみてて、ふあんにならないのかしら?
あれじゃ、ぜったいにじりつできないわ。いっしょうめんどうをみるきなのかしら」
「ちっちっ。はんっどうじゃないのかぜ?」
「はんっどう?」
「ことわっておくけど、まりさがかってにかんがえたことなんだぜ。
たぶん、あのつがいはもともとかいゆっくりにはむいてなかったのぜ。
かいゆっくりはたいへんなのぜ、むーしゃむーしゃしあわせーもできないし、ともだちもじゆうにつくれないし、
おちびもじゆうにつくらせてもらえないのぜ。
かいゆっくりにあこがれるのは、かりがへたでおなかをすかせてる、よゆうのないやつだけなんだぜ。
そりゃあのらもゆっくりできないけど、しあわせーきんし、ともだちきんし、おちびきんしのかいゆっくりなんて、
たべものさえとれていれば、うらやましがるゆっくりはいないのぜ。
にんげんなんかのごきげんをうかがいながら、あまあまだけでまんぞくしなきゃいけないゆんせいじゃ、わりにあわないのぜ」
「ええ……」

人間の目に映る野良ゆっくりとは、あまあまを求めて物乞いや恫喝をしてくる手合いばかりである。
そのために人間は、ゆっくりにはあまあまさえ与えていれば満足するという偏見を持っているが、
その実、ゆっくりにとっては、おちびちゃんや家族が作れず友達もいない人生(ゆん生)というものは、
想像しただけでぞっとする、死んだほうがましだ、と思えるようなものなのだ。
別に家族や友達などいらない、あまあまさえあればいい、という嗜好の個体や、
共同体からはじかれた厄介者で狩りをする能力もなく明日にも死にそうなほど逼迫した個体、
あとは人間を奴隷にしてあまあまを献上させようとする極端なゲスばかりが人間の目につくが、
飼いゆっくりの実情が知られた都会では、そうではないゆっくりが大部分なのである。

「そんなかいゆっくりせいかつをつづけてきたけど、あのとおり、ぼせいのつよすぎるれいむたちなのぜ。
〝おちびをつくるな〟とずっとかいぬしにいわれていたのを、かってにつくったのぜ」
「むきゅ、そういっていたわね」
「はんっどうなのぜ。
あれもするなこれもするな、ともだちをつくるなおちびをつくるな。
きゅうっくつでさびしいかいゆっくりのしめつけにずっとはんかんをかんじていたのぜ。
そのはんっどうで、おちびはしつけなんかしないでじゆうにふるまわせてる。
きゅうっくつなしつけなんかいらない、そんなものなくてもゆっくりできる、いや、むしろないほうがゆっくりできる。
じぶんでそうおもいこんでるから、あんなおちびでもゆっくりしてるようにみえるんじゃないのかぜ?」
「………なるほどねぇ、むきゅう……」
「いや、まりさがかってにかんがえたおくそくなんだぜ。
とにかく、あのつがいはきけんなのぜ。じきをみて、おいだしたほうがむれのためなのぜ」
「むきゅ、そう、そうだけど………」

ぱちゅりーの脳裏に、純真な瞳であまあまを持ってきてくれた飼いゆっくり時代のれいむの姿がちらつく。

「もうすこしじかんさんをちょうだい。なんとか、ぱちゅりーからもはなしてみるし……」
「ちっちっ、おさはぱちゅりーなのぜ。まりさは、おさのけっていにしたがうだけだぜ。
じゃ、みまわりにでもいってくるのぜ」
「いってらっしゃい」

串を鳴らしながら、串まりさは本部を出ていった。
ぱちゅりーはまた吐息をついた。


――――――――


「ゆっくち!!ゆっくち!!」
「ときゃいは!!ときゃいは!!」
「ゆゆっ、うんうんれいむがきたよ!!」
「ゆげーっ、みんなあっちでゆっくりするのぜ!!」

公園の砂場近く、ゆっくりの子供たちが遊んでいるところに、新入りの子れいむと子ありすが寄ってくる。
それまでどんぐりを転がして遊んでいた群れの子ゆっくりたちが露骨に不快感を現して離れていこうとした。
その前に子れいむ達の両親が立ちはだかる。

「ゆゆっ、おちびちゃんたち、れいむのおちびちゃんとあそんであげてねっ!!」
「ゆふふ、なかまはずれはとかいはじゃないわよ?」
「「「ゆええええぇぇ………」」」

子れいむと子ありすは、群れの子供達から全力で嫌われていた。
まず、まるで赤ゆっくりのように涎と糞便を撒き散らして汚い。
それでも最初は、大人たちの「なかはまずれはゆっくりできない」との苦言に従い、
素直な子ゆっくりがなんとか仲間に入れて遊ぼうと試みた。
しかし二人の子ゆっくりには周囲への気配りというものがまったくなく、
みんなで遊んでいたオモチャを独占してゆきゃゆきゃはしゃぎ、
他の子ゆっくりがそれに触ろうとしたらゆぎゃあゆぎゃあと泣き喚く。
子ゆっくり達がうんざりして遊ぼうとしなくなるのも当然だった。

そしてもう一つ、子れいむと子ありすが嫌われる大きな要因として、
この二人には常に両親がぴったりと寄り添っている事実があった。
この大きさの子ゆっくりなら、ひとまず遠目でも大人の目につく範囲であれば好きに動いていいのが群れの慣例だが、
この二人はいつも背後に両親がくっついている。
両親は子供たちの遊ぶ姿を微笑ましく見守っているつもりでゆふふと微笑を浮かべているが、
子供たちにしてみれば常に監視されているようでゆっくりできない。
実際に、自分たちの子供が少しでも爪弾きにされているとみれば、
「なかまはずれはゆっくりできないよ」という良識ただひとつを楯にして子供たちに説教をたれ、
自分の子供と遊ばせようとするのだ。
子供にも増して、この夫婦はもはや蛇蝎のごとく忌み嫌われていた。

「さ、みんなでなかよくあそぼうね!!」
「ゆううぅ………いやだよおぉ……」
「あのれいむとありすはゆっくりできないよおぉぉ……」

大人ゆっくりの言うことをよく聞く素直な子ゆっくりのグループではあったが、
そんな彼らでさえ、子れいむ達と遊ぶことに難色を示した。

「もうっ!!おとなのいうことをきいてねっ!!」
「ききわけがないのはとかいはじゃないわよ?すなおになってあそべば、とってもゆっくりできるこたちなのよ」

子供たちの冷めきってうんざりした視線にこたえる様子もなく、ぷりぷりと諭す夫婦。

「ゆ、れいむ、ありす……むりじいはゆっくりできないよ」
「「「ゆえええぇぇん!!おばちゃああぁん!!!」」」

その時、ブローチれいむがやってきて夫婦に苦言を呈した。
助けがきたことに安堵し、子供たちがブローチれいむの足元に駆け寄ってその背後に隠れる。

「ゆゆっ!!れいむ、おちびちゃんたちのおゆうぎをじゃましないでねっ!!」
「おゆうぎになってないよ。ねえ、おちびちゃんたちだって、せいっかくがあわないこともあるよ。
いやがるのをむりにあそばせるのはゆっくりできないよ」
「そーだ、そーだ!!」
「れいむおばちゃんにさんせいー!!」

ブローチれいむの尻馬に乗って声を上げる子ゆっくり達に「ゆぐぐぐぐ……」と歯軋りをするれいむ達。

「おとなにむかって、そんなはなしかたをするのはゆっくりできないよ!!おちびちゃん!!」
「まったく、おやはどんなそだてかたをしてるのかしら……」

お前たちだけには言われたくない、とれいむ一家以外の全員が思う。

子供たちが去っていってしまったあとで、ブローチれいむの養子の子まりさ二匹がおずおずと前に出てきた。

「ゆー、れいむ、ありす、いっしょにあそぶのぜ?」
「「ゆゆーっ!!」」

殊勝な子達なのであった。
育ての親のブローチれいむを深く慕う二匹は、普段から「あのこたちとできるだけあそんであげてね」と言われており、
大変とは思いつつも母親を喜ばせるために子れいむ達と遊ぶよう努力していた。
子供ながらにボランティア感覚である。

「ゆゆーっ、おちびちゃんたちはゆっくりしてるねっ!!」
「みんなでなかよくあそんでね!!とかいはよっ!!」

呑気に喜んでいる両親。
ブローチれいむは、他人の子供に無理強いしてはいけないと言った矢先に、
我慢しながら遊び相手を申し出る我が子たちに申し訳なく思いつつも感謝していた。
この両親のもとでは、この子たちはまともに育たない。
なんとか両親以外のゆっくりと接触させ、社会性を育む助けになればとブローチれいむは思っていた。

ブローチれいむが焦るのは、この両親に自分の姿を重ね合わせていたからである。
彼女から見てもれいむ達の育て方はひどすぎた、いや、育てているとさえ言えなかった。
しかし、飼いゆっくり時代に自分が子供を作れていたらどうなっていたのか、彼女にはわからなかった。
今なら、群れの別の子ゆっくりと比較して、あの子たちはひどいと思える。
だが他に比べる相手がいない状況下で子供を産んだらどうなっていただろう?
狩りを教える必要もない環境下で、子供可愛さにただむやみに甘やかしていたのだろうか?
自分がいま育てている子まりさ達を引き取ったのも、赤ゆっくりをとっくに脱したあとだった。
同じ元飼いとして、どうしてもこの両親を責める気にはなれなかった。他のことではまともなだけに。


「ゆっ、それじゃ、かけっこしてあそぶのぜ!!」
「まりさたちはしゅんっそくなんだぜ!!」
「ゆーっ!!ゆっくりおいかけっこ!!」
「ときゃいは!!ゆっくちー!!」

子供達は競争をして遊ぶことにしたようだ。
50センチほど離れた石を目印にして、誰が一番速く着けるかの競争である。

「おかーさん、あいずをおねがいなのぜ!!」
「ゆっ、わかったよ!!ゆーい……ゆゆっ?」
「ゆっくち!!ゆっくち!!」
「ときゃいは!!ときゃいは!!」

合図を待つことなく、子れいむと子ありすは先に駆け出していた。

「ゆゆ……ゆーい、どん!!」

戸惑い気味のブローチれいむの合図に合わせ、苦笑しながら子まりさたちが駆け出す。
れいむとありすはといえば、無邪気に「おちびちゃん、がんばってね!!」ともみあげをふりふり声援を送っている。

おなじ「駆け出す」とは言っても、子まりさ達はぴょんぴょん跳ねているのに対し、
子れいむと子ありすはずーりずーりと地面を這っている。人間でいえば、四つん這いで這っているのと同じだ。
フライングしたとはいえ当然速度の違いは歴然たるもので、半分もいかないうちに子まりさ達が追い抜いてしまった。

「ゆゆっ、おいぬいたのぜー」「まりさたちのかちなのぜー」
「ゆびいぃぃいっ!!」「ときゃいは!!ときゃいはぁぁ!!」

少し挑発すると、すぐに子れいむ達が半泣きでわめき始めた。
やれやれといった調子で子まりさ達がスピードを落とす。
一足ごとに1センチも進まないようなゆっくりした速度で跳ねる子まりさ達の横を、やがて子れいむ達が追い抜く。
その時にはもうゴール直前になっており、子れいむが一等でゴールした。
ちなみに子ありすは道半ばでしーしーをしていた。

「ゆーっ!!ゆゆーっ!!れいみゅがいちびゃん!!いちびゃーん!!」
「ゆゆー、まけちゃったのぜ~」
「れいむははやいのぜ~」

当然、負けたとたんに癇癪を起して泣き喚く子れいむのために、わざと負けてやったのだ。
しかし、れいむは石の上によじ登り、勝ち誇って叫び続けた。

「のりょまのまりちゃなんかよりれいみゅのほうがはやいんだよっ!!」
「「……!!」」
「れいみゅしゅんっそくっでごめんにぇ~♪きゃわいくってごめんにぇ~~♪さいっきょうっでごめんにぇ~~♪」
「………さ、さいっきょうっかはわからないのぜ……?」
「ゆ、まりさはけんかがつよいんだぜ!!」

劣ってもいない足を馬鹿にされた上に、まりさ種が敏感に反応する『さいっきょう』の単語を持ちだされ、
プライドを逆撫でされた子まりさ達はムキになって反撥した。しかし子れいむの態度は増長するばかり。

「ゆきゃきゃきゃきゃっ!!まけいにゅまりちゃ~~♪くやちいまりちゃ~~♪ゆんゆんゆ~~ん♪」
「「ゆぎぎぎぎぎぃ………!!」」

子供じみているように見えるが、この時点で跳びかからないだけ立派なものである。子まりさ達は耐えていた。
親れいむ達は「ゆーん、おちびちゃんったら!!ゆふふっ」などと呑気に微笑んでいる。
おろおろと見ていたブローチれいむがなんとか空気を変えようと口を挟もうとした矢先、信じられないことが起こった。

「れいみゅのさいっきょうっあたっくだよっ!!」
「ゆべえっ!!?」
「お、おにぇーしゃんっ!!?」

増長しきった子れいむが、最強を証明しようとしてか、石の上から子まりさの頭上に飛び降りたのである。
通常、子ゆっくり同士の喧嘩はぽふぽふと横から体当たりする程度で大怪我には至りにくい。
しかし、自重と同じ程度の(実際には子れいむの方が少し大きかった)相手が頭上から全体重を落としてきたら大怪我は必至だ。
普通に育った子ゆっくりの神経ならやらないような危険な行為であった。

「ゆっぶぶぶぶげげげげ………!!!」
「おにぇーしゃん!!おにぇーしゃあああん!!!」

子まりさはひしゃげ、口から餡子を漏らし、舌を半分近く噛み切り、右の目玉は飛び出して転がっていた。

「「「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おぢびぢゃあああああん!!!」」」

親たちが我が子の元へ駆け寄った。
そう、親れいむ達が駆け寄ったのは自分の子供、子れいむの元であった。
子れいむは子まりさの頭上でバランスを崩して落ち、後頭部をしたたかに地面に打って泣き喚いていたのだった。

「ゆびぇえええーーん!!いぢゃいよおおおおぉぉ!!」
「おぢびぢゃんっ!!おぢびぢゃん!!ゆっぐりじでねっ!!ぺーろぺーろぉぉ!!」
「ゆっくりしてちょうだいっ!!とかいは!!どがいばあああ!!」
「……………!!!!」

目玉を飛び出させ、泣き叫ぶことすらできない子まりさを介抱しながら、ブローチれいむは涙を讃えた目で、
初めて憎しみをこめた視線をれいむ達に向けた。




〔続〕

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