anko4093 群れは三代 の変更点
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「このげす!げすやろうっ!」 「ゆっくりできないやつはしんでねっ!いますぐでいいよ!」 「ゆええええん!ゆええええええええええんっっ!」 ここは人間もめったに来ないとある山中……にある野性ゆっくりの群れ。 その群れの広場でいま甲高い叫び声と泣き声が響き渡っていた。 勇敢で心やさしいまりさが顔をまっ赤にして怒鳴っている。 普段温厚で優しいれいむがあからさなま嫌悪の視線で睨んでいる。 子ゆっくりたちはわんわん泣き叫んでいる。 そして怒鳴られている当の本人は……ニヤニヤ笑いつつ軽く受け流していた。 「ゆっへっへっ……な~にがげすなのぜぇ?まりさはただ、あきやでおうちせんげんっをしただけなのぜ?」 「あきやじゃないでしょぉぉぉぉっ?ここはれいむたちのおうちっでしょぉぉぉぉぉっ!?」 「おやぁ~~そうだったのかぜ?けっかいっがはってなかったから、てっきりあきやかとおもったのぜ」 「わがったらさっさとおうちかえぜぇぇぇっ!そこはまりさとれいむとおちびたちのおうちなのぜぇぇぇぇっ!」 「ゆふん~……でもゆっくりおことわりするのぜ!」 「は……はああああああああっ!?」 どうやらこの右の頬に大きな傷跡があるがあるまりさ……傷まりさとでも呼ぼうか、 その傷まりさが群れのゆっくりの巣でおうち宣言をかましたようである。 となれば怒鳴っているのはこの巣の持ち主たちという事になるが…… 「まりさはせいしきなてじゅんっにもとづいて、きちんとおうちせんげんっをしたのぜ! おうちせんげんっしたときもんくをいうゆっくりはいなかったのぜ?だからここはもうまりさのおうちなのぜ!」 「きょうれいぶたちはみんなでぴくにっくにいってたんだよぉぉぉぉっ!だれもいなくてとうぜんっでしょぉぉぉぉっ!?」 「それがなんだというのぜ?ぴくにっくにいってたらおうちせんげんっはむこうなんてるーるさんはないのぜ!」 「ゆ、ゆぐぅっ!?で、でもおうちをとるなんてかわいそうだとおもわないのぜっ!まりさにはおちびちゃんもいるのぜ?」 「そうだよ!れいぶたちにはおちびちゃんがいるんだよ!おうちをとるなんてかわいそうでしょぉぉぉぉっ!」 「ゆえーんゆえーん!おうちがないのはいやなのじぇぇぇぇっ!」 「しゃっしゃとおうちをかえちてにぇえっ!きゃわいいれいみゅがこまっちぇるんだよぉぉぉぉぉっ!?」 「はあ?べつにまりさのしったこっちゃないんだぜ!べつのおうちをさがすなり、のじゅくするなりすればいいんだぜ!」 「ゆ、ゆ……ゆがああああああああああっっっ!」 「ご、ごのどげすやろうがぁぁぁぁぁっ!」 おうち宣言成立を盾にとり頑として巣を持ち主に返さない傷まりさ。 その態度にさらに激高する家族たち、そしてその様子を遠巻きに見守っている群れのゆっくり達。 普通こういう場合は仲裁に入ろうというゆっくりが一匹くらいはいてもよさそうなものだ。 だが何故かだれも助け舟を出そうとはしなかった。 その理由は2つ、ひとつめは確かに傷まりさのおうち宣言は正当にそして正式な手順で完璧に行われたということ。 その場に偶然居合わせた何匹かの群れのゆっくり達はみなその場にいたから当然そのことを知っている。 唐突に傷まりさの宣言が行われたので誰も阻止できなかったが。 そしてふたつ目の理由は…… 「ゆ、ゆっくち……ちにぇぇぇぇっ!」 「ごろず!ごろじでやるのじぇぇぇぇっ!まりちゃのおうちをよこどりしゅるげしゅはちにぇぇぇぇぇっ!」 さして長くもない堪忍袋の緒が切れた子ゆっくり達が傷まりさに体当たりを食らわせた。 二匹とも本気でそして全力で傷まりさを殺しにかかっている。 ゆっくりが殺すと言った以上、冗談ではなく本気で殺すつもりで攻撃するのが当たり前なのだ。 「ゆっ!ゆっ!ちにぇえ!しゃっしゃとちんでおうちかえしぇ!きょのげしゅやろうぅぅぅぅっ!」 「くらうのじぇ!さいきょうっのまりちゃのさいきょうっのたいあたりしゃんっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ! もうすこしなのじぇ!もうすこしでげしゅをころせるのじぇ!まりちゃさいきょうっでごめんにゃしゃいっ!」 「……」 「おちびちゃんたちそのちょうしだよ!げすはやせがまんしてるよ!」 「さすがまりさのおちびちゃんたちなのぜ!げすをころしてみんなでゆっくりするんだぜ!」 このとき傷まりさをよくよく観察すれば 調子こいてぽよんぽよんと攻撃を繰り返している子ゆっくり達を見る傷まりさの目が 底冷えがしそうなくらいに冷めきっているのがわかったはずだ。 そしてしばらくは子ゆっくり達の攻撃を無防備で受けていた傷まりさであったが……不意に軽く体当たりをし返した。 「ゆふんっ!」 「ゆ、ゆべぇぇぇっ!?」 「ゆびぃぃぃぃぃっ!?」 ほんの少しつついただけ。たったそれだけで子ゆっくり達は30cmくらい跳ね飛ばされる。 成体ゆっくりと子ゆっくりの越えられない力の差だ。 「ゆ、ゆんやあああああっ!れいぶのかわいいおちびちゃんだちがぁぁぁぁぁぁっ!?」 「なにずるんだぁぁぁぁこのげすぅぅぅぅぅっ!まりざがじきじきにせいさいっじでやるんだぜぇぇぇぇぇっ!」 「……ゆんっ!」 「ゆっぐじじ……ゆべろぉぉぉぉぉぉっ!?」 「ま、まりざぁぁぁぁっ!?どぼじでごんなひどいごとずるのぉぉぉぉぉぉっ!?」 子ゆっくりを痛めつけられたことに逆上してつっかかってきた親まりさを、 今度はやや本気の体当たりで再びはね飛ばす傷まりさ。 カウンターで攻撃を返されてたまらずふっとばされる親まりさ……ゆっくりにしては圧倒的な強さである。 なぜ傷まりさは成体ゆっくりが殺気丸出しで繰り出してくる本気の体当たりをいとも簡単に跳ね返せるのか? 実はこの傷まりさ、生まれつき面の皮が厚い。 いや比喩表現ではなく……実際に傷まりさの皮は生まれつきめーりん並に厚いのだ。 ゆえに成体ゆっくりが5~6体くらい束になって体当たりしてもその攻撃はほとんど効かないという鈍感さをもつ。 おまけにまりさ種特有の運動能力も高い。枝など武器の取り扱いにも精通していた。 そうこれが群れのゆっくりが関わり合いになろうとしないふたつめの理由である。 傷まりさはこの群れで一番強いのだ。それも圧倒的に…… その強さは周辺に住むれみりゃやふらんといった捕食種ですら傷まりさを恐れて群れに手を出さないほどである。 「……なんでってなんだぜ?まりさはいま、このちびとまりさにころされるところだったのぜ? じぶんでじぶんのみをまもるのはとうぜんっなんだぜ?」 「おばえがれいぶたちのおうちをとるからせいさいっされてたんでしょぉぉぉぉぉっ!? おとなしくせいさいっざれるのがとうぜんっでしょぉぉぉぉぉっ!」 「ゆへぇ?ちゃんとおうちせんげんっしたのに、なんでまりさがせいさいっされなきゃいけないのぜ?」 「ゆっ!?ぞ、ぞれは……」 「おうちせんげんっというゆっくりでんとうのるーるをうけいれずに、ぎゃくぎれしてほごにしようとするほうこそ せいさいっされるべきだとまりさはおもうんだぜ?…………いっそれいむもせいさいっしてやるかぜ?」 「ゆ、ゆひぃぃぃぃぃっ!」 傷まりさの冷たすぎる眼光に親れいむは心底怯えてガタガタ震えだす。 おそろしーしーを壊れた蛇口のごとく噴出して泣いている親れいむをくだらなそうに一瞥すると、 傷まりさはいまだに痛がって泣いている子ゆっくり達の方へと振り向いた。 「どぼじでごんなごとしゅるにょぉぉぉ……?きゃわいいれいみゅにはやさしくちなきゃいけないにょにぃぃぃぃ……!」 「まりちゃはさいきょうっのはずにゃのに……どぼじでぇぇ……?」 「おいくそちびども」 「ゆっ……!」 「おまえらはさっきまりさにたいして『ゆっくりしね』とはっきりいったのぜ。 ゆっくりごろしはゆっくりできないってしらないのぜ?おまえらはばかなのぜ?しぬのぜ?」 「ゆ……ゆううううっ!まりちゃはばかじゃにゃいぃぃぃぃぃっ!」 「ゆっくちごろちはたしかにゆっくちできにゃいよ!でにょげしゅをころしゅのはれいがいっなんだよ! ゆっくちりきゃいちてぇ!」 「はあ?そんなれいがいっはないのぜ?げすだろうとぜんりょうだろうと、ゆっくりごろしはゆっくりごろしなのぜ? ゆっくりごろしはどこまでいってもゆっくりできないげすなのぜ?」 「ゆゆっ?しょんなこちょな…」 「やっかましいのぜこのくずどもっ!おまえらがそのばでおもいついたじぶんにつごうのいいじぶんるーるを かってにおしつけるんじゃないのぜっ!」 「ゆ、ゆぴぃぃぃぃっ!?」 「きょわいぃぃぃぃぃっ!?」 「おぼえておくのぜくそちびども!まりさをころすといったいじょう、ちびとまりさのかんぜんっなころしあいなのぜ! ころしあいってことはおまえらがまりさにころされることもあるってことなのぜ! 『ゆっくりしね』というのはそれほどおもいことばなのぜ!きがるにいっていいことばじゃないのぜっ! ころすきでたいあたりしてきたくせに、じぶんがやられたからってひがいしゃするんじゃないのぜっっっっ!」 「ゆひぃっ……!ゆひぃぃぃぃ……!」 「も、もうやらぁぁぁ……!まりちゃもうおうちかえるのじぇぇぇぇ………!」 傷まりさに一喝された子ゆっくり達はもはや泣き叫ぶ元気もなく、ただその場で泣き崩れるばかり。 ようやく立ち直った親まりさと親れいむを、傷まりさはつまらないものを見るような冷めた目で見ている。 「まったく……いっちゃいけないことばひとつちびにおしえてないのぜ?おやがきいてあきれるのぜ」 「ゆ、ゆぎぐっ!?」 「ゆっくりのるーるであるおうちせんげんをむししておうちをあけわたさない、、ゆっくりごろしをへいきでしようとする、 これじゃどっちがげすなのかわからないのぜ」 「ゆ、ゆぎ……ゆぎいいいいいいいい………っ!」 「み……みんなぁぁぁっ!なにだまってみでるのぉぉぉぉっ!かわいくてかわいそうなれいぶたちを みんなでたすけなきゃだめでしょぉぉぉぉぉぉっ!?」 「ゆ、ゆゆっ?」 「そ、そんなこといわれても……」 「とかいはじゃないわ…」 傷まりさの正論と力の差にさすがに根を上げた親れいむが群れのゆっくり達に助けを求めてきた。 だが遠巻きに見ているだけの群れのゆっくり達は互いに困ったような顔をしているだけで誰も動こうとはしない。 それだけ傷まりさの底知れぬ強さを恐れているのだ。それに…… 「むきゅ……まりさ、またあなたなの?」 「お、おさぁぁぁぁぁっ!いいところにきたよ!はやくかわいそうなれいぶをたすけてね!すぐでいいよ!」 と、その場に一匹のぱちゅりーが現れた。 親れいむの言うとおりこのぱちゅりーは群れの長である。 「おさ!まりさたちをいじめるこのげすをせいさいっするのぜ!いますぐでいいのぜ!」 「むきゅ……で?そのげすはいったいなにをしたというの?」 「かわいいれいむたちのおうちをとっちゃったんだよ!とんだげすだよっ」 「おうちせんげんは?」 「ゆっ?」 「そのげすはおうちせんげんをしないでおうちをよこどりしたの?ときいてるの」 「そ、それは……」 「おうちせんげんは……した……らしいのぜ……」 「そうなの?ならもんだいは…」 「で、でも!このげすはなんのつみもないかわいいおちびちゃんとまりさにぼうりょくっをふるったんだよ!」 「そ、そうなのぜ!ぼうりょくっはぜったいにゆるせないのぜっ!」 「むきゅ……なんでそのげすはぼうりょくっをふるったの?」 「ゆっ?」 「ぼうりょくっをふるうにはそれそうとうのりゆうさんがあるはずよ。なんでげすはあなたたちをこうげきっしたの?」 「……そ、それは」 「ゆ……ゆうぅぅぅぅ……」 「ぱちゅはさっきからみていたからこたえてくれなくてもしってるわ」 「ゆぐぅ!?」 「あなたたちがそのまりさをえいえんにゆっくりさせようと、さきにぼうりょくっをふるったから はんげきされた……そうよね?」 「ゆ、ゆぅぅぅ……」 「う、うるざぁぁぁぁいっ!おうちをとられたられいぶたちがかわいそうでしょぉぉぉぉっ!? おうちをとるげすはきよくただしいれいむたちにせいさいっされるべきでしょぉぉぉぉぉっ!? げすなんかしんでもだれもこまらないよ!だからさっさとせいさいっしろぉぉぉっこのくずぅぅぅぅぅぅぅっ!」 もはや反論できずにまっ青になっている親まりさと、逆ギレして怒鳴りまくる親れいむ。 やれやれと言いたそう呆れ顔で長ぱちゅりーは溜め息をつくと、ぱちゅりーはいつもの台詞を口にした。 「むきゅ……ざんねんだけどこのまりさは、ゆっくりのるーるもむれのおきてもなにもやぶってないわ よってむれによるせいさいっはできないわ。ゆっくりりかいしてね」 「り……っ!りがいなんででぎるがぁぁぁぁぁっ!ゆがあああああっ!おうちがえぜぇぇぇっ!れいぶのおうちぃぃぃっ!」 「ゆっへっへ。まりさはなにもわるいことはしていないんだからあたりまえのはんだんっなのぜ?!むーしゃむーしゃ…」 「お…おいぃぃぃぃぃっ!なにをたべてるんだおばえぇぇぇぇっ!?」 「なにって、おうちにおいてあったごはんさんをむーしゃむーしゃしているだけだぜ? ここはもうまりさのおうちなんだから,おうちにおいてあるごはんさんもとうぜんまりさのものなのぜ?」 「ふ、ふざげるなぁぁぁぁぁっ!ぞれはれいぶだちのごはんざんだろぉぉぉぉっ!」 「まりざがまいにちまいにち、かりをしてひっしにためたごはんざんがぁぁぁぁぁっ!?」 「ゆえぇぇぇぇん!まりちゃのいもむししゃんたべちゃっだぁぁぁぁぁっ!」 「もうやらっ!もうやらぁぁぁぁっ!れいみゅおうちかえるっ!おうちにかえるぅぅぅぅぅっ!」 「ああ、どこにでもかってにかえればいいのぜ?けどここはもうまりさのおうちだから、 ほかにおうちをみつけてそこにかえるんだぜ!げーらげーら!うめっ!これめちゃうっめ!」 「ゆぐああああああああああああっっっ!げす!このげすやろうっっっ!げすはしね!いますぐくるじんでじねぇぇぇぇっ!!」 「ゆぷぷぷっ!まけいぬのとおぼえでめしうまっ!めっちゃめしうまっ!まじぱねぇ~~~~♪」 「「「「ゆぐがああああああっ!」」」」 もはや群れの広場は阿鼻叫喚である。 この群れにおいて傷まりさが関わるトラブルはいつもこんな感じだ。 トラブルを起こすわりには傷まりさは決してゆっくりのルールや群れの掟を破るようなことはしない。 むしろ破るのは相手の方だ。ゆえに罰することはできない。罰を与えようにも名分がないのだ。 その上で群れのゆっくり達から見れば傷まりさは耐え難い悪事を働く。 巧みに法の網を潜り抜けてのさばる札付きの悪党……傷まりさの印象はそんな感じであった。 長ぱちゅりーは深い溜め息をつくと、長としてこの場を収めるべく傷まりさに命令する。 「まりさ話があるわ。今すぐぱちゅのおうちにきてちょうだい」 「ゆっへぇ……?へいへい、おさのごめいれいとあればまりさはどこへでもついていくのぜ」 「みんな、れいむたちのことをたのむわね。ぱちゅはまりさとはなしがあるからしつれいするわ」 「おさ!そのくそまりさをせいさいっしてね!」 「こっぴどくしかってね!いっぱいでいいんだぜっ!」 後の事を群れのゆっくり達に頼むと長ぱちゅりーは傷まりさを連れておうちへと去っていった. 広場に残された意気消沈の親まりさ、激高しまくっている親れいむ、そして泣きじゃくっている子ゆっくり達に 群れのゆっくり達はようやく近づいて一家を慰める。 「たいへんだったわね……あんないなかものにおうちをとられちゃうなんて」 「ゆ、ゆぐ……どぼじて?どぼじてれいむばかりこんなめにあわなきゃいけないのぉぉぉ……?」 「れいむたちだけじゃないみょん。みょんたちもあのまりさにはいつもひどいめにあってるみょん!」 「あいつはすきがあれば、いつでもおうちをよこどりしようとかんがえてるんだよー!わからないよー!」 「なんであんなげすがこのむれにいるの?ゆっくりしねばいいのに!」 「わかるんだぜそのきもち!げすなまりさはゆっくりしね!」 「「「「「ゆっくりしねっ!」」」」」 そんな罵詈雑言が広場で飛び交ってた頃……長の家で長ぱちゅりーと傷まりさが対峙していた。 どこかへらへらした顔の傷まりさとは対照的に、長ぱちゅりーの顔は真剣そのものだ。 しばしの沈黙の後……長ぱちゅりーは意を決して傷まりさに言い放った。 「まりさ。あなたをむれからついほうっするわ」 「ゆへぇっ!それはそれは……」 普通こんな場合のゆっくりは「どぼじでそんなごというのおおおおっ!?ばりさはなにもわるくないでしょぉぉぉ!?」 とか言って泣き叫ぶものだ。だがこの傷まりさはそんな事はまったく言わない。 いやそれどころか顔は笑っていたが目は全然笑っていなかった。 恐らくいま傷まりさの頭の中はものすごい勢いでフル回転しているのだろう。 一言もしゃべらずただ長ぱちゅりーの言葉の意味を必死に解析し続けた。そして…… 「ゆっ……!もしかしておさ……もう…ながくないのぜ?」 「むきゅ。さすがねまりさ、ぱちゅのひとことでそこまでりかいするなんて。やはりあなたはゆうしゅうっだわ」 「そんなことはどうでもいいのぜ!じかんさんはあと……どれくらいのこされているぜ?」 「わからないわ。もっとさきかもしれないし、もしかしたらあしたかもしれない…」 「……」 「ほんとうはねまりさ。どのみちきょうはまりさとはなしをしたいとおもってたの」 「ゆっ?」 「ぱちゅがえいえんにゆっくりしたら、つぎのおさをやってほしいってたのむつもりだった……」 「ゆへっ!そんなのおことわりにきまってるんだぜ!ふだつきのきらわれものまりさがおさになったって、 だれもいうこときかないにきまってるのぜっ!」 「それはわかってるわ。わかってるんだけど…………むきゅ」 「………ゆっ。まりさにたのまなければいけないほど、つぎのおさをまかせられるあとつぎっこうほがいないのぜ?」 「ぱちゅもむれのきょういくっにはちからをいれてたつもりだったんだけど……しょうじき、ろくなこうほがいないわ」 「かんぶのありすはどうなのぜ?れいむは?ちぇんは?みょんだって…」 「みんなにたりよったりよ。みんなゆっくりしたいだけ……ぱちゅがしんでほかのだれかがおさになったら すぐにすっきりー!せいげんはかいじょされるでしょうね。むれのびちくもつぎつぎときりくずされていくとおもうわ なぜってむれのみんながそれをのぞんでいるから。おさとしてはこたえないわけにはいかないでしょうね」 「そんなことしてたら……いつかむれはほろびてしまうのぜ」 「そのまえにまりさ、あなたがむれのみんなにころされるわ」 「ゆっ……!」 「あなたはむれのはなつまみものよ。いままではぱちゅがおきてをやぶってないから…というりゆうでかばってたけど あたらしいおさは……むれのみんなはきにいらない、ゆっくりできないやつというりゆうだけで まりさをようしゃなくせいさいっするでしょうね。もんどうむようというやつかしら」 「……」 「だからいま、ぱちゅがおさとしてまりさをむれからついほうっしておくわ。あなたがむれからいなくなれば あたらしいおさもみんなも、まりさをせいさいっしようがないものね?」 「ゆふんっ!べつにきをつかってもらわなくてもけっこうなのぜ?おさにじゅんしっするとでもおもえば せいさいっされてえいえんにゆっくりするのもべつにわるくな…」 「ふざけないでっ!ぱちゅはそんなのまっぴらよ!このよでたったひとりのいもうとをみちづれにしにたくないわっ!」 「ゆうっ!?」 そう長ぱちゅりーと傷まりさは姉妹である。それも先代の長まりさの子たちであった。 長まりさが永遠にゆっくりしたとき長女ぱちゅりーは父親の跡をついで長となった。 次女まりさは幹部の座すら辞退して、すべてを姉に譲りそのまま普通に群れの一員となった。 その後なぜか二匹の交流はほとんどない。傷まりさの方から交流を断っていた。 おかげで群れの若いゆっくりは長ぱちゅりーと傷まりさが姉妹だと知らない者も多い。 そしてぱちゅりーは長としてよく群れをまとめて尊敬され、傷まりさはみんなが嫌がることばかりをする鼻つまみ者になった。 「ゆへっゆへへへ……そういえばそうだったのぜ。まりさすっかりわすれてたのぜ!」 「ぱちゅはね……いままでまりさにはめいわくのかけどおしだったわ。だからしんでまでおいめをつくりたくないの」 「めいわく?それはぎゃくなのぜ!まりさがおさにめいわくをかけっぱなしだったのぜ?」 「むきゅっそれはうそね。おぼえてるでしょ……?おとうさんのゆいごんっを……」 「……わすれるわけないのぜ。『むれのみんなのもはんとなれ』……だぜ」 「まりさはおとうさんのゆいごんっをまもってる。ぱちゅはいまでもそうおもってるわ」 「ゆ、ゆへぇ?そんなこと…」 「まりさ。さっきのおうちせんげん……ほんとうはれいむたちのおうちをよこどりしたくて あんなまねをしたわけじゃないんでしょう?」 「ゆ……っ」 「まりさがりゆうもなく、むれのゆっくりのおうちをとるわけないわ。ぱちゅにはわかってるのよ?」 「……べつに。りゆうなんて……ないのぜ。ただあのおやこがきにいらなかっただけ……なのぜ」 傷まりさは今日あの親子が木の根元にある巣穴から出てピクニックに向かうところを偶然目撃した。 それだけなら別にどうという事はなかったのだが……一家が出かけたあとの巣を見て思わず唖然となってしまった。 なぜならその巣には他のゆっくりや野生動物避けの為の結界がなにも張られていなかったのだ。 人間の家で言えばドアを開けっぱなしにして出かけるに等しい。 あまりにも不用心すぎるこの有様を見ている内に傷まりさの心中にふつふつと怒りが湧いてきた…… 「……まりさはただ、きにいらなかっただけなのぜ。 あのおうちはまりさたちの……むれのみんなのおとうさんやおじいさんたちが いっしょうけんめい、えださんでつちさんをほりおこして、ようやくつくったものなのぜ。 そんなだいじなものをうけついでいるというのに、あのおやこはあまりにもぶようじんすぎたのぜ…… ほんとうのげすゆっくりや、どうぶつさんにおうちをとられたらごせんぞさんにかおむけができないのぜ? なのにのうてんきなかおしてへらへらへらへら……まりさはむかっぱらがたったのぜ! おうちをちっともだいじにしないあいつらがきにくわなかったのぜ!ただ……ただそれだけなのぜ……」 傷まりさと長ぱちゅりーは子ゆっくりの時から父親である先代長まりさに この群れを作り上げるまでにどれほどの苦労があったのかをよく聞かされていた。 だから許せなかった。親や祖母たちの遺産をないがしろにするあの親子を。 だったら痛い目にあわせて思い知らせてやろう、そう思い実行した。 そこまでやらないと能天気で餡子脳なゆっくりは決して思い知ることはない。傷まりさはそれを身に染みて思い知っていた。 「まりさはわかいころ、おとうさんのゆいごんっどおり『もはん』になろうとしたのぜ。 でもむれのみんなからかえってくることばはいつも『ゆっくりりかいしたよ』なのぜ…… そしてけっきょくなにもかわらなかったのぜ。みんなまりさのことばのほんとうのいみをりかいしてないんだぜ ことばのうわっつらだけわかったきになって『りかいしたよ』といってるだけなのぜ もしくは……まりさがみみざわりないやなことをいうから、てきとうにはいはいいってるだけなのぜ」 「……そのきもち、おさをずっとやってきたぱちゅにはわかるわ」 「だから……まりさはげすになることにしたのぜ。じっさいにおうちをげすにとられなきゃ おうちのありがたみも、きまりのほんとうのいみもりかいなんてできるわけないのぜ……」 「それよまりさ」 「ゆ…?」 「長であるぱちゅもおなじことをずっとおもってたわ。でもおさのみでそんなげすなまねはできない…… そんなぱちゅのかわりにまりさがよごれやくをしてくれてる。だからめいわくをかけっぱなしだといったのよ」 「……おたがいさまなのぜ。おさがまりさのやることをきちんとりかいしてくれてなかったら まりさはとっくのむかしにむれのみんなにせいさいっされてたはずなのぜ」 長ぱちゅりーはこんな不器用で優しくて誰よりも責任感が強い妹、傷まりさが誇らしかった。 群れのみんなからはゲスと呼ばれていても傷まりさの誇り高い精神は今も昔も変わってないと確信していた。 だから……長ぱちゅりーは傷まりさを生かす命令をあえてするのだ。 「むきゅ……さあまりさ、おしゃべりはおしまいよ。さっさとむれをでていきなさい。 これはおさとしてのさいごのめいれいよ」 「まりさをつういほうっしたあとむれはどうするつもりなのぜ?」 「それは……むきゅ。あなたのしったことではないわ」 「……そうかぜ」 短くそう答えた傷まりさは、長ぱちゅりーの背を向けておうちの入り口へと跳ねていった。 そして入り口で立ち止まると長ぱちゅりーの方へは振り向かずに… 「じゃあ……えいえんにさよならなんだぜ…………おねえちゃん」 「げんきでねいもうと……むきゅ。ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね……だぜ」 その会話を最後に傷まりさは何処かへと跳ねていった。 そして翌日、長ぱちゅりーから傷まりさ追放処分が発表されると群れのゆっくり達はみんな一様に喜んだのだった。 「げすがいなくなったよ!これでゆっくりできるね!」 「げすやろうがきえてせいせいしたよ!」 「いいきみだね!でもせいさいっできればもっとよかったのにね!まったくおさはきがきかないよ!」 「くそまりさはどこかでみじめにのたれしんでね!」 「ちんでにぇえ!」 ゆっくり達の歓喜……その様子を見た長ぱちゅりーは思わず深い深い溜め息をついた。 そしてそれから5日後、長ぱちゅりーは自宅で静かに息を引き取った。 この瞬間、長に就任してから冬を越えること実に2回……2年と7ヶ月という ゆっくりにしては驚異的に長い期間群れを治め続けたぱちゅりーの治世はここに幕を閉じたのであった。 ぱちゅりーは己の死期のことを傷まりさ以外の誰にも教えず、次の長の指名もしなかった。 後継ぎを選ぼうにもろくな人材がいないし、もう死んだ後のことなど知らない勝手にやれという思いもあったのだろう。 よって次の長は群れのみんなの多数決で選出した。次の長は傷まりさにおうちを奪われたあの親まりさだ。 そして新しい長のもと、群れはさらなるゆっくりを望んだ。 子供が多ければそれだけゆっくりできるという群れのゆっくり達の要請ですっきりー制限はすぐに解除された。 群れの食料庫にたくさんごはんがあるんだから、少しくらい狩りをしなくてもいいじゃないかと言い出した。 非常用の備蓄が日々切り崩され……しまいには誰も狩りにいかなくなった。 さらには捕食種の襲撃もあった。 今まで傷まりさの強さを恐れて群れに手出さなかったれみりゃやふらんが群れを襲うようになったのだ。 群れのゆっくり達は知らないが、実は傷まりさは群れの自衛も一手に引き受けていたのだ。 本当のゲスや捕食種が群れにこないのはひとえに陰でそれらを追い払っていた傷まりさのおかげである。 だがそんな事情を知らない群れのゆっくり達はなぜ急に自分たちが攻撃されるようになったのかわからなかった。 やり場のない怒りといらだちはやがてもういない傷まりさに向けられた。 あいつが捕食種やゲスに群れを襲わせているんだと言うゆっくりまで現れた。 もちろんまったくの事実無根であるが傷まりさは群れを去ってもなお罵倒の対象であり続けた。 そして数ヵ月後、群れは滅んだ。 理由は越冬の失敗である。 子供を作りすぎ、食料の備蓄をおろそかにした結果……群れは冬の訪れと共に実にあっさりと自滅したのだ。 頼りの成体ゆっくりが越冬前にほとんど捕食種に殺されたのも大きい。 後に残されたのは狩りが出来ないれいむ種や子ゆっくりのみ。越冬失敗は必然であった。 …………そう、あれはいつの事だったか。 長になったばかりのぱちゅりーと傷まりさとで他愛のない話をしたことがあった。 今思えば傷まりさのその後のゆん生はそのとき決定したようなものだった…… 「むきゅ。ねえまりさ『むれはさんだい』ということばをしってる?」 「ゆゆっ?まりさはしらないのぜ……どういういみなのぜ?」 「おかあさんからむかしきいたのよ。なんでもむかしたびのゆっくりからきいたことわざらしいわ……こういういみよ むれをつくったさいしょのせだいはみんないっしょうけんめいはたらくから、むれはさかえるの」 「ゆ~ん……?」 「つぎのせだいはくろうをしらないぶん、ややのんきだけど さいしょのせだいからいろいろなことをおそわってるから……まあだいじょうぶね。むれはさかえつづけるわ」 「そういうもんかぜ」 「もんだいはさんだいめいこうのせだいよ。くろうをしらずゆっくりすることだけをもとめる、へいわぼけのせだいになるの くろうしたまえのせだいは、そのころにはみんなえいえんにゆっくりしているばあいがおおいから…… やせいのゆっくりのむれは、たいていさんだいめのおさのじだいでほろびるばあいがおおい……ということね」 「ゆっ……だからむれはさんだい、というのかぜ?」 「がんちくっがあることわざさんだとおもわない?ぱちゅはちょうどさんだいめのおさよ。 このことわざどおりなら……むれはぱちゅのだいでおわるでしょうね」 「ゆっ!そんなことにはさせないのぜ!このむれはず~っとさかえつづけるのぜ!みんなでゆっくりしていくのぜっ!」 「むきゅ、そうね。そうなれるようにぱちゅもおさとしてがんばるわ」 「まりさもおよばずながらてつだうのぜ!おとうさんのいうようなみんなのもはんっになるのぜ!」 「ゆふふ……そうね。みんなでいつまでもゆっくりできるようにふたりでがんばりましょまりさ」 「がんばるのぜ!」 「なつかしいのぜ。むれはさんだい……かぜ」 新たな春の訪れとともに、無事に冬を越えられた傷まりさは誰もいない群れへと帰ってきた。 いや……群れの跡地にというべきか。 「まりさはおねえちゃんやみんなといつまでもゆっくりしたかったのぜ…… むれをさんだいでおわらせたくなかったのぜ……でもしかたないのぜ。 このけっかは……むれのみんながじぶんでえらんだことなのぜ」 傷まりさは寂しそうに群れ中を見てまわる。 当然この地に生き残っているゆっくりは一匹もいなかった。 だがそれでも傷まりさは思い出がつまった群れの跡地をいつまでもいつまでも飽きることなく眺め続けた。 国破れて山河ありとでも言うのだろうか、ゆっくりが一匹もいなくてもそこは愛すべき傷まりさの故郷であった。 「さいごにここにこれておもいのこすことはもうないのぜ。まんぞくっなゆんせいだったのぜ……おねえちゃん……」 ……数日後、すでに老齢であった傷まりさは姉であるぱちゅりーのおうちで思い出に包まれながら静かに息を引き取った。 ゲスと呼ばれたそのゆっくりの死に顔は実に安らかであったという。