anko4123 賢い野生ゆっくり ※r2 の変更点

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ぽよん!ぽよん!

とある山中に間抜けな音が響く。

「まりさはすごいものをはっけんっしたのぜ!ゆっくりしないでいそぐのぜ!いそいでむれのみんなにしらせるのぜ!」

間抜けなその音とは野性のまりさが懸命に飛び跳ねている音。
このまりさは大いに興奮していた。
よほどすごい物を見つけたのであろうか、一目散に群れのある場所へと向かって跳ねてゆく。


「ゆゆ~~ん!きょうはとってもいいおてんきさんだね!」
「ゆっくりできるね!」
「たいしょうしゃん!ゆっくちしていっちぇにぇえ!」
「みんなでいっぱいゆっくりしようね!」
「ゆっくり~~~~♪」

群れの広場ではすでに午前の狩りを終えたゆっくり達が、それぞれ思い思いにゆっくりしていた。
そしてそんな群れのゆっくり達を目を細めて満足げに見ている一際大きなゆっくり……ドスまりさ。
ここはドスに率いられし賢い野生ゆっくり達の群れ。
ドスまりさの絶大なカリスマ性と優秀な幹部ゆっくりの指揮のもと、
必要以上の餌はとらずに自然と共存し、人間と協定を結んで駆除の危険を回避して群れの安全を確保し、
みんなで協力しあい分不相応なゆっくりは決して欲しがらず、
ほどほどのゆっくりをみんなで共有しているささやかな群れであった。

「どすー!どすー!どこにいるのぜ?おはなしがあるんだぜ!まりさがすごいものをみつけてかえってきたんだぜー!」

……先ほどのまりさが群れの広場に乱入してくるまでは。

「ゆっ……?どうしたのまりさ。なんだかゆっくりしてないよ?」
「そこにいたのかぜ!?まりさはゆっくりしてるのぜぇっ!ゆっくりていせいっするんだぜっ!」
「はいはい、ゆっくりゆっくり……そんなことよりどすにおはなしってなに?すごいものをみつけたとかいってたけど……」
「ゆゆっ!そうなんだぜ!まりさはいだいなはっけんっをしたのぜ!そのことについてどすにそうだんっがあるのぜ!」
「そうだん……?なにかな?ゆっくりどすにはなしてみてね!」
「ゆっふっふっ!よーくきくのぜ!なんとまりさは……おやさいがかってにはえてくるゆっくりぷれいすをみつけたんだぜっ!」
「……っ!?」

ざわざわ……

お野菜が勝手に生えてくるゆっくりプレイス……
その言葉が出た瞬間、群れの広場にいたゆっくり達は一気に静まり返った。
まりさはこれ以上ないほどのドヤ顔でふんぞり返っている。
ドスはこれ以上ないほどの警戒心をあらわにして冷めた視線でまりさを見つめている。
そして他の群れのゆっくり達は「お野菜が勝手に生えてくるゆっくりプレイス」という言葉に微塵も浮かれることなく
緊張の面持ちでそんな二匹を見守っていた。

「ゆふふっ!すごいはっけんっをしたまりさにみんなおどろいたかぜ?みなおしたかぜ?そんけいっしたかぜ?
 さあどす!さっそくれのみんなでおやさいをとりにいくのぜ!」
「いやだよ」
「はやくだぜ!ゆっくりしないでさっさと…………ゆっ?」

まりさは偉大な発見をした自分を、群れのみんなが当然称賛の嵐で迎えてくれるのだと信じきっていた。
ドスはまりさを英ゆん扱いして褒め称えてくれるはずだと確信していた。
だが……現実に返ってきたのは冷ややかな視線と明らかな拒絶であった。

「ど、どぼじで!?どぼじてぞんなごというのぉぉぉぉ!?」
「まりさのいうおやさいがかってにはえてくるゆっくりぷれいすって、にんげんさんのはたけのことでしょ?」
「ゆっ!?」
「ほんとうにかってにおやさいがはえてくるばしょをみつけたのなら、なんでおやさいをもってかえらなかったの?
 ほんとうははたけににんげんさんがいたから、おやさいがとれずにむれにかえってきただけなんでしょ?」

完全にドスの言う通りであった。
まりさはお野菜と共に畑で雑草とりをしている人間も発見したが、まりさは人間をそれほど恐れてはいなかった。
戦えば必ず勝つ……根拠はまるでないがまりさにはその確信があった。
だが人間がひとりだけだとは限らないわけで……複数でこられたらいかな最強のまりさといえど苦戦するであろう。
加えて人間を打倒したとしても、これだけ大量の野菜をまりさ1人では持ち帰れない……そう考えたのだ
要するにまりさは「ドスと群れの全ゆっくり」という武力と運搬力の行使をドスに要求しにきたのだ。

「そ、それがどうしたのぜ?にんげんはおやさいをふとうっにもひとりじめしてるげすなんだぜ!
 いまこそにんげんがひとりじめにしているおやさいさんをとりもどすんだぜ!」
「やっぱりね……まあそんなことだろうとおもってたよ」

「まりさはゆっくりしてないね…」
「ゆゆっ!?」
「にんげんさんがそだてているおやさいさんをひとりじめにするきみたいだよ…」
「おおっごうよくごうよく」
「ひとりじめはゆっくりできないよ……」

とたんに群れのゆっくり達の間で始まるひそひそ話。
みんなまりさを哀れむような、頭が足りないかわいそうな子を見るような目で見つつ呆れていた。
当然、誰一人としてまりさを英ゆん扱いするゆっくりはいなかった。

「な、なんでみんなまりさをそんなゆっくりしてないめでみるんだぜ!」
「まりさ……どすはまりさがおちびちゃんのころからなんども、なんどもおしえたよね?
 おやさいはかってにはえてこないんだよ?
 おやさいはにんげんさんがゆっくりしないでそだてているからはえてくるんだよ?」

まりさは驚愕した。ドスともあろう者がそんな妄言を吐くなんて信じられなかった。

「な、なにいってるのぜぇぇぇぇっ!?おやさいはゆっくりをゆっくりさせるために、
 かってにじめんさんからはえてくるのぜぇぇぇっ!そんなこともしらないのかぜぇぇぇぇぇっ!?
 ばかなの!しぬのぉぉぉっ!?」
「かってになんてはえてこないよ」
「は、はああああああっ!?」
「じゃあまりさはじっさいにみたことがあるの?『おやさいさんがかってにはえてくる』ところを?」
「ゆ、ゆぐぅっ!?」

そう言われるとまりさには返す言葉がない。
ゆっくりの感覚では植物とは「気がついたらいつのまにか勝手に生えている」程度の認識しかないからだ。

「はたけにはいつもにんげんさんがいるでしょ?あれはにんげんさんがおやさいさんのおせわをしてるからなんだよ?
 だからおやさいさんは、にんげんさんのはたけにしかはえてこないんだよ」
「どすぅぅぅぅっ!それはちがうでしょぉぉぉぉぉぉっ?
 おやさいさんがかってにはえてくるゆっくりぷれいすに、にんげんがかってにはたけをつくってるんだぜぇぇぇぇっ!
 じゅんじょがぎゃくっでしょぉぉぉぉぉっ!?」
「ちがわないよ。にんげんさんがはたけをつくるから、そこにおやさいがはえてくるんだよ。ゆっくりりかいしてね」
「ゆがああああっ!りがいなんでできるがぁぁぁぁぁっ!なにをいっでるんだおばえはぁぁぁぁっ!?」

まったくこのドスは何を言っているんだ!?まりさは次第に怒りを感じていた。
お野菜さんは地面から勝手にはえてくるものだ!それがゆっくりの定説なんだ!常識なんだ!真理なんだ!
それを人間が育てているから野菜が生えてくる?まるで人間を擁護するかのような暴言は
群れを率いる者の口から出たとは到底思えない、まさに屁理屈としか言いようがない戯言だ。

「それにもし、かってにおやさいさんがはえているとしても……やっぱりどすたちにはかんけいないことだよ」
「ど、どぼいうごとなんだぜぇぇぇぇっ!?」
「どすたちのゆっくりぷれいすはおやまだよ。にんげんさんのゆっくりぷれいすはおやまのふもとだよ
 にんげんさんのゆっくりぷれいすでなにがはえようが、おやまのどすたちにはまったくかんけいないはなしだよ」
「は、はあああああ?おやさいはゆっくりのものだから、にんげんからとりかえすのはあたりまえでしょぉぉぉぉぉっ!?」
「ふ~ん……つまりおやまのごはんさんだけじゃあきたらず、にんげんさんのおやさいをもひとりじめにしようってこと?
 やっぱりまりさはゆっくりしてないね」
「はああああああああああああっっっ!?」

「ねえまりさ。ゆっくりはおやまにはえてるきのこさんをむーしゃむーしゃしてるよね?
 でもにんげんさんはきのこさんをゆっくりがひとりじめしてるよ!ゆっくりとりかえすよ!なんていわないよね?」
「あ、あったりまえなのぜぇぇぇぇっ!きのこさんはまりさたちのごはんさんなのぜぇぇぇっ!」
「それとおなじで、おやさいさんはにんげんさんのごはんなんだよ」
「はああああっ?なにいってるのぜぇ!おやさいさんもまりさたちのごはんさんなのぜ!だからとりかえしにいくのぜ!」
「ほらやっぱり。まりさはにんげんさんのごはんさんをひとりじめするきだよ」
「ゆうううっ!?」

「……おやまにじゅうぶんなごはんさんがあるのに、にんげんさんのごはんさんもうばうきなのね…」
「にんげんさんがむーしゃむーしゃできなくなってもいいっていうのかみょん?」
「いまじゅうぶん、ゆっくりできてるのにそれでもまんぞくできないなんて、とかいはじゃないわ…」
「おやまもはたけさんもぜんぶひとりじめにしようだなんてゆっくりできないよ……」
「これだから、らんぼうものっのまりさはこまるんだみょん……」

「ゆっ?ゆゆっ?ゆゆゆゆゆゆゆゆっっ!?」

まりさは訳がわからなかった。
いつの間にか自分がお野菜を独り占めにしようとするゲスにされている。
違う!まりさは独り占めにする気なんてない!
お野菜を取り返せば当然、まりさの家族そして群れの全ゆんと仲良く分けてみんなでむーしゃむーしゃするつもりなのだ。
人間?あれこそ今までお野菜を独り占めしてきた本当のゲスでしょ?
泣いて謝ってまりさに土下座すれば特別にまりさのうんうんくらいは食べさせてあげてもいい。ゲスにはそれで充分だ。
それなのに……それなのに……!

「どぼじてみんなぞんなごというのぉぉぉぉぉっ!?
 まりさはみんなのためにおやさいをとりかえそうっていってるんだよぉぉぉぉぉっ!?」

そうだ!群れのみんなの為にまりさは立ち上がろうとしているのだ!なんでそれがわからない?馬鹿なの?し……

「うそつけだみょん。まりさはじぶんのためにおやさいがほしいだけだみょん」
「おやさいをてにいれて、まりさはえいゆんっだといってほしいんでしょ?」
「まりさがおやさいをむーしゃむーしゃしたいだけなのに、ありすたちをだしにつかうなんて……とかいはじゃないわ!」
「ちぇんたちはおやさいなんてのぞんでないんだねー。とりかえしたいならまりさだけでやってねー」
「れいむたちのためなんていわれても、はっきりいってめいわくっだよ!」

「ゆんやあああああああっ!どぼじてっ!?みんなどぼじでぞんなぁぁぁぁっ!?ゆああああああああああっ!?」

まりさの浅はかな企みは群れのゆっくり達にあっさりと看破されていた。
みんなの為というのは自分がいい気になる為の単なる建前。
本当は単にまりさ自身がお野菜を食べたいだけ。ただそれだけの話なのだ。
ドスはしばらく黙ってまりさと群れのゆっくり達との会話を聞いていたが……ふうと溜め息をつくと
泣き喚いているまりさに話しかけた。

「どすもみんなとおなじいけんだよ。むれのみんなをにんげんさんのはたけになんかぜったいにいかないからね」
「どぼじでぞんなごというのぜぇぇぇぇっ!?どずならっ!どずならにんげんなんていちころっなんだぜぇぇぇっ!?」
「ばかなこといわないでね!どすごときがにんげんさんにかてるわけないでしょ!」
「ゆ……ゆはあああああっ!?な、なにいってるのぜ?どすは……っ!どすはっ!」
「にんげんさんよりはるかによわいよ」
「そうなのぜ!どすはよわ……じゃないのぜぇぇぇっ!どすはにんげんなんかよりずっと!ずーっとつよいのぜぇぇぇぇ!」

ゆっくりにとってドスという存在は完全に神格化されてると言っていい。
その巨体、強さ、ドススパーク、ゆっくりっぷり、どれをとっても一般のゆっくりにとっては
すべてが万能であり全能であり絶対のゆっくりの象徴として信仰されている。
一般のゆっくりがなにかにつけてドス頼みをするのは人間の神頼みとどこか似ている。
人間が事あるごとに神を都合よく利用して戦争のダシなどに使ったりするあたり、
今回のドスを利用して人間をこらしめてお野菜を取り戻そう、とまるで同じではないか。
ドスという存在そのものがもはやドス教という一つの宗教と化しているといえるのかもしれない。

ドスへの信仰が盲信を生み、盲信が狂信となり、狂信はやがて暴挙へと発展していく。
しかし暴挙は必ずしも奇跡を起こすとは限らないのだ。

「どすはよわいよ。むかしにんげんさんとたたかったことがあるけど、あっさりまけたもん」
「う……うそだうそだうそだぁぁぁぁっ!どすはつよいのぜぇぇぇぇぇっ!
 どんなげすもどすすぱーくでいちげきっなのぜぇぇぇっ!?」

だがまりさのドス信仰とは裏腹に、当のドスはあっさりと自ら現人神であることを否定する。

「まりさ……うそじゃないよ?どすはにんげんさんよりずっと、ずーっとよわいんだよ」
「うそをつぐなぁぁぁぁっ!どすがくそにんげんなんかにまげるわげないぃぃぃぃっ!」
「うそをついてどすになんのとくがあるの?どすがよわいなんてはじなだけでしょ?うそをつくりゆうがないよ」
「ゆぐぅぐっ!?」
「にんげんさんはつよいんだよ……ほんとうだよ?にんげんさんがほんきだしたら、
 どすどころかこのむれなんてすぐにほろぼされちゃうんだよ。
 だからにんげんさんのおやさいにてをだしておこらせちゃいけないんだよ!ゆっくりりかいしてね!」
「ゆぎぅ……ゆぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

まりさはここまでドスに言われてようやくゆっくり理解した。
……使い勝手のいい神だと思っていた巨大饅頭が実はただのウドの大木であることに。
ドスだ長だといばってても実はただの腰抜けだったわけだ。
そう思うことでまりさの興奮と苛立ちはだんだんと冷めていく。
次にくるのは自らを弱虫だと暴露したドスに対する嘲り。そして冷笑である。

「……ゆふんっ!まったくどすがこんなおくびょうものっだとはおもわなかったのぜぇ……もういいのぜ!
 おやさいはまりさだけでとりかえしにいくのぜ!よわよわなどすなんてもういらないのぜ!
 せいぜいくそにんげんにおびえてここでしーしーもらしてふるえていればいいんだぜぇぇぇぇっ!」

「まりさ!いくらなんでもどすにたいしていいすぎだよ!」
「ゆっくりていせいっしなさい!とかいはじゃないわっ!」
「うるさいんだぜぇぇぇぇっ!よわむしのどすのいうことをはいはいきいてばかりいるうんうんどもが
 さいきょうっのまりささまにいけんするんじゃないんだぜぇぇぇぇっ!」
「わからないよー!どうしてまりさは、いままでおせわになったどすにたいしてそんなぼうげんっがいえるのかなー!?」
「せわになったなんてしらないのぜ!じゃあまりさはもういくのぜ!
 くそにんげんからおやさいをとりかえしても、おまえらなんかにはひとかけらもやらないのぜぇぇぇぇぇっっ!ぺっ!」

まりさはそう言うと唾を地面に吐いて広場から去っていった。
悲しげな目で去りゆくまりさの背中を見守るドスに幹部ぱちゅりーが心配そうな顔をしてドスに話しかけてきた。

「むきゅ……どす…」
「しょうがないよ。にんげんさんやおやさいのことをねんいりにおしえても、ああいうはねっかえりはどうしてもでてくるよ」
「ごめんなさいどす……ぱちゅはむれのきょういくっをまかされてるみなのに……ぱちゅはせんせいしっかくね……」
「それよりもあのまりさはにんげんさんのはたけにいくかな?」
「たぶん…」
「そう……そうだね、どすもそうおもうよ。ならまりさのしょぐうっはいつもどおりでおねがいね」
「わかったわどす」



ところ変わってここはまりさのおうち。
まりさはいらだちが収まらないといった感じで家族に対して気炎を吐いていた。

「どすがあんなにおくびょうっだとはさすがのまりさもけいさんがいっだったのぜ!
 まったく、あんなにたよりがいのないおさだとはおもわなかったのぜ!」
「ゆう……でもまりさ、どすのいうことももっともだよ。にんげんさんのはたけにいくのはおきてできんしされてるし、
 むりにおやさいをとりかえさなくてもいいんじゃないかな……?」
「ゆっ!れいむはおやさいをむーしゃむーしゃしたくないのかぜ!さいきょうっのまりささまにかかれば
 にんげんごときいちころっなのぜぇ!」

「ゆゆっ!おちょうしゃん、おやしゃいをむーちゃむーちゃできりゅにょ?」
「まりちゃもおやしゃいをむーちゃむーちゃしたいのじぇ!」
「おやさいをひとりじめにしているくそにんげんをせいさいっすればいくらでもたべられるのぜ!
 ゆっくりできるおやさいをおなかいっぱい、みんなでむーしゃむーしゃしてゆっくりできるのぜ!」
「ほんちょ!?ゆわーいおやしゃいしゃん!おやしゃいしゃん!」
「まりさ……ほ、ほんとうにだいじょうぶなの?」

「まかせておくのぜ!くそにんげんをせいさいっして、おやさいをとりかえして、くそにんげんをどれいにして……
 そしたらつぎはどすのばんなのぜ!どすをせいさいっしてさいきょうっのまりささまがこのむれのおさになるのぜ!
 ゆふ、ゆふ、ゆふふふふふ………!」

まりさの餡子脳の中ではもう人間に勝つことも、お野菜を取り戻すことも、ドスを倒して群れの長になることも
すべてが決定事項として確定されてるようだ。
バラ色の未来を空想しておもいきり悦に浸るまりさ。それでも番のれいむはまだ心配そうだ。
なぜならこの群れのゆっくりはみんな小さい頃から人間は強くて恐ろしい生き物であり、
お野菜は勝手に生えてこないと厳しく教育されてるからだ。れいむとて例外ではない
だが夫のまりさがこうまで自身満々だと妻としてはついつい信用してみたくなる。
お野菜を食べてみたいという欲もある。結局まりさに賛同して人間の畑へと行くことに同意してしまった。

「さあ!ゆっくりおやまをおりるのぜ!そしてくそにんげんからおやさいをとりもどすのぜぇぇぇぇっ!」
「みんなでおやさいをむーしゃむーしゃしようね!ゆっくりしゅっぱつするよ!」

「「ゆっくちりきゃいちたよ!」」

こうして愚かにもまりさ一家は安住の地である山を自ら捨てて死地へと赴いたのであった……








「……ゆべえぇぇぇぇっ!?」

まりさは奇声を上げながら盛大にふっとんだ。
なぜ?
人間に蹴られたからだ。

「どぼじてごんなごとずるのぉぉぉぉぉっ!?ゆっくじやべでね!?ばりざがいたがっでるよぉぉぉぉっ!」
「おちょーしゃんにひどいこちょしゅるにゃあぁぁぁっ!」
「げしゅなくそにんげんはまりちゃのぷくーっをきゅらえぇぇぇぇ!ぷきゅぅぅぅぅぅっ!」

「やれやれ……最近バカなゆっくりがこなくなったと思っていたのにこれか。
 ドスが畑や野菜のことを群れの連中に教育するようになって、ようやく畑荒らしも減ってきたと思ってたのに……
 いや、教えても事実を理解できない落ちこぼれはどこにでもいるってことかもな……」

畑の持ち主である青年は溜め息まじりに思わず呟いた。
先ほど青年がジャガイモを植えようと畑を耕していたらいきなり
「ここをまりさたちのゆっくりぷれいすにするよ!」という大声が聞こえてきた。
もしかしてまたゆっくりか……?と思い声のした方へと出向いてみればそこには…

「うっめ!このおやさいさんめっちゃうめっ!まじぱねえ!」
「むーちゃむーちゃ!ちあわちぇぇぇぇぇっ!」
「きゃべつしゃんはゆっくちまりちゃにむーしゃむーしゃしゃれてにぇ!いっぱいでいいのじぇ!」
「ゆゆーん!おちびちゃんたちゆっくりしてるよぉ~~♪もっといっぱいたべてもっともっとゆっくりしてね!」

という世にもおぞましい野生ゆっくりの家族団欒の光景が繰り広げられていた。
あのあまりのおぞましさに思わず青年は親まりさの顔面に蹴りを叩き込んだのだった。


「こ、ここはれいむたちのゆっくりぷれいすだよ!まりさとれいむとおちびちゃんとでおうちせんげんっしたんだから
 はたけさんもおやさいさんもぜんぶぜんぶれいむたちのものなんだよ!」
「わかっちゃらゆっくりしないででていっちぇにぇ!そちたらすぐにちんでにぇ!」
「おやさいをけんじょうっちたら、とくべつにさいきょうっのまりちゃのどれいにちてやってもいいんだじぇ!」

ドンッ!

「ゆびゅっ!?」

次の瞬間。青年は思い切り親れいむの脳天を踏んづけた。
青年の足はれいむの身体を中枢餡ごといとも容易く貫通し……瞬く間にれいむは物言わぬ饅頭と化した。

「……ゆっ?」
「おきゃあしゃんどうしたのじ……ゆぶっ!」

休む間もなく次はまりちゃを踏み潰す。最強のまりちゃサマは瞬く間に畑の染みと化した。
そしてここに至ってようやくまりさが蹴られた痛みから立ち直って再起動する。
愛する家族に暴力を振るっている(本当は殺してるのだが)野蛮な人間の姿を認めると、
怒りをあらわにして飛び跳ねていく。

「や、やべろぉぉぉぉっ!いとしのはにーとまりさのおちびたちにひどいごとずるなぁぁぁぁぁっ!」
「じゃあなチビ饅頭。次に生まれてくる時はゆっくり以外の生き物に生まれ変われよ」
「ゆ、ゆああああ……や、やじゃ……れいみゅちにたくな……ゆぴぃっ!」
「ゆ………ゆがあああああああああああああっっっ!?」

最後に残ったれいみゅもいともあっさり。まりさの目の前で踏み潰された。
最愛の家族が、こんなにいとも容易く、まりさの目の前で、ゆっくりできない糞人間に殺された。
まりさはこの現実を認めたくなかった。なんだこれは?糞人間を制裁してお野菜を取り戻すはずだったはずだ。
なのに逆にまりさのれいむが、おちびちゃん達が糞人間に制裁された。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!まりさにこんな理不尽なことがおきるはずがない!なんでこんな……

「おら、ぼーっとしてんじゃねえよ糞饅頭。お前を潰して終わりなんだからよ」
「どぼじてどぼじ……ゆぐぶぅぅぅっ!?」

青年は思考停止状態のまりさを踏み潰そうと、まりさの頭上に足を振り下ろした。

「むっ?さすがに野生のまりさ種ともなると一気には踏み潰せないか……」
「ゆ、ゆぶぶぶぶっ!?や、やべろぉぉぉぉ……ぞのきたないあしをさっさとまりさのあたまがらどけるのぜぇぇぇぇっ!」
「安心しろ。できるだけ苦しまないように一撃でお前も家族の元へと送ってやるから」
「ふ、ふざけ……!ゆぶぉぉぉぉっ!?」
「お前、山の群れのゆっくりだろ?人間の畑に入り込んで農作物を食い荒らすゆっくりは問答無用で殺すのが決まりなんだ。
 そういう協定をドスとしてるからお前もそのことはよーく知ってるだろ?」
「ゆぶぅっ!?」

そういえばおちびちゃんだった頃ドスに、群れの教育係のぱちゅりーに、両親にまりさはさんざん言い聞かされてきた。
人間さんの畑に行ったら永遠にゆっくりさせられるよ。
だから人間さんのお野菜をとっちゃダメだよ。
お山でみんなでゆっくりしようね。賢いおちびちゃんならゆっくり理解できるよね?
そんな教えに当時生意気ざかりの子ゆっくりだったまりさは

「ゆっへーん!しょんにゃのあたりまえなのじぇー!さいきょうっのまりちゃが
 ゆっくちちてないくそにんげんのところへいくなんて、しょんなまにゅけなことするわけないのじぇー!」

と大人たちの言っている意味のほとんど理解してないくせに得意げになって聞き流していた。
大人ゆっくりの熱心な教育にも関わらず、まりさの餡子には掟の意味も人間の怖さもなにも刻まれなかった。
そんな感じで無駄に図体だけが大きくなって……ゆっくり現実を舐めた結果がこれである。

「俺は虐待趣味なんかないしお前らがいると仕事の邪魔なだけだ。だからもうさっさと死んでくれ」
「や、やべろぉぉぉ……ま、まりさをえいえんにゆっくりさせると……ど、どすがだまってないのぜぇぇぇ……!」
「ドス?」
「ぞうなのぜ!おばえはおろかにも、おやまのむれのいちいんっであるまりささまにてをだしたんだぜ!
 このことをどすがしればとうぜんほうふくっに……」
「くるわけないだろバーカ」
「ゆぶぶぶぶぶぅぅぅぅぅぅっっ!?」
「お前はほんとに自分の群れの掟をまるで知らないバカなんだなあ。
 あのさ……俺の畑に入り込んだ時点でお前はすでに群れから追放されてるんだぞ?」
「ゆ……?ゆゆゆゆゆゆゆっっ!?」
「だってそういう協定を俺たちの村とドスとで結んでいるんだもんよ。
 群れの掟を破るようなアホはもう群れの仲間でもなんでもありませんからそっちで好きに制裁してくださいってな
 仮にお前が群れに逃げ帰れたとしてもドスは助けてなんかくれやしない。お前を群れから追い出してそれで終わりさ」
「ぞ、ぞんな!?ぞんなのっで……っ!」

だがよくよく思い出してみると確かに子供の頃にそんな事を繰り返し繰り返し、耳にタコができるほど教え込まれた気がする。
ゆっくりできない嫌な教えだったので、まりさは適当にハイハイ言って聞き流していただけだ。

「ふう、俺らしくないな。ゆっくりごときと長話をするだなんて……じゃあな糞饅頭そろそろ死んでくれや」
「ゆっ……ゆっ……ど、どぼじで……!」
「ああ?」
「どぼじでごんなごとずるのぉぉぉぉぉっ!まりざだっでいきてるんだよぉぉぉぉっ!?
 せかいにたったひとつ!のかけがえのないいのちなんだよぉぉぉぉっ!どぼじてごろずなんていうのぉぉぉぉっ!?」

まりさは全身全霊で吠えた。
世の中の不公平に。己の身に降りかかった理不尽に。
命は大切なんだ!無闇に奪っちゃいけないんだ!いくら野蛮な人間だってそれくらい分かりそうなもんだろ!
そんなまりさの必死な訴えは青年の心を…………動かさなかった。青年は顔色一つ変えなかった。
ただまりさを踏みつけた。さらに力を込めて。

「ゆびびびびびびぃぃぃっ!?」
「……俺だって。本当はゆっくりを殺したくなんてねえよ。
 ゆっくりだって生き物だ……その生き物を無闇に殺すなんてしたくねえよ」
「ゆ……ゆぶぶ……!だ、だったらぁぁぁぁぁ……」
「だけどよ……お前らは優しく畑に入るなよ、野菜を盗み食いするなよと言っても聞かないじゃねえか」
「ゆぶぶっ!?」
「厳しく言えば逆切れして怒るしよ。やはり言うことなんて聞きやしない」
「な、なにをいっでぇぇぇっ!」
「痛めつければその場はさすがに思い知るが、お前らは自分に都合の悪いことはすぐに忘れるだろ。
 結局いくら言い聞かせても痛めつけても無駄ってこった。逃がしたら負けた事実をさっさと忘れてすぐ仕返しにくるしな。
 なら……もう殺すしか他に方法がないじゃねえか」
「ゆぐぅっ!?」

この糞人間はなにを言ってるんだ?それはこっちのセリフだろうが!
善良なゆっくりがいくらお野菜を独り占めするのはやめろ、
みんなで分け合えと優しく厳しく命令して、時には痛めつけて教えても全然聞き入れないじゃないか!
それなのに殺すとはどういうことだ?まりさが殺されるほどの罪を犯したというのか?ふざけるな!

「……なんでお前ら出来の悪いゆっくりは、こりもせずに人間にちょっかいを出しに来るんだろうな?
 人間はただ人間のゆっくりプレイスでゆっくりしているだけだってのに……なんでそれをいちいち奪いにくるんだ?」
「ゆっ!ゆぎいいいいいいいあああああああああああっっ!」

おいやめろバカ!それじゃまるでまりさが糞人間のゆっくりを邪魔しにきたゲスみたいじゃないか!

「ゆっくりは山、人間は山の麓、関わり合いになろうとせずにそれぞれの場所でゆっくりしていれば
 お互い幸せになれただろうに……」
「ゆがああああああああああああああああああっっっっ!」

青年が話している間も徐々に足がまりさの脳天に食い込んでいく。
まりさは肉体的苦痛と精神的苦痛で餡子がどうにかなりそうだった。
この人間はなんでドスと同じことを言うんだ。悪いのは全部糞人間のはずだ。まりさは悪くない絶対に悪くない。
必死に身をよじってまりさは逃げようとした。
だがものすごい力で押し潰されていてとても青年の足を振りほどくことはできない。

「………じゃあな糞饅頭。死ねっ!」
「ゆぎゅぶぅっ!?」

青年は全力で一気にまりさを踏み潰した……まりさ絶命。
次に邪魔なまりさとその家族の亡骸をさっさと始末しようとする青年だったが……
そのとき草を掻き分ける音が聞こえてふとそちらを向いた。
そこには一匹のれいむがいた。

「ゆ、ゆ……に、にんげんさん……」
「……山の群れのゆっくりか?」
「そ、そうだよ!それでその……そのまりさたちの……」
「分かってるよ。ほら」

青年は死んだまりさとその家族からおかざりを取るとそれらをわざわざビニール袋に入れて
入り口を軽く閉めてからかられいむの方へと投げた。

「いつものように持って帰れ。死体はこっちで埋めておくから……」
「ゆ、ゆっくりりかいしたよ!」
「ああそれから……ドスに伝えておけ。こんなバカが村に来ないようにもっと群れの連中を厳しく躾ておけってな」
「は、はいいいいいいっ!ゆっくじりがいじまじだぁぁぁぁぁっ!」
「じゃあさっさと山に帰れ。こっちも忙しいんだよ」
「ゆっくじしつれいっじまじたぁぁぁぁぁっ!ゆんやああああああああああっっ!」

そう言うとれいむはビニール袋を頭に乗せ、全速力で山へと跳ねていった。
やはり群れの教育の成果か人間を極度に恐れている。
だがドスの群れのゆっくりはこれが普通なのだ。先ほどのまりさの方が異常なのである。
そして青年は急いで去っていくれいむの後姿を見送ると……何事もなかったかのように農作業を再開した。



「ゆっくりただいまぁぁぁぁっ!ゆえーんこわかったよぉぉぉぉぉっ!」

再びここは群れの広場。
半泣きで帰ってきたれいむをドスを含む群れのみんなで出迎える。

「ごくろうさまれいむ。それで……まりさたちはどうなったの?」
「れいむがげんばにとうちゃくっしたときにはもう、にんげんさんにゆっくりせいさいっされてたよ……」
「そう……」
「それでどす……これ……」
「……」

ドスは三つ編みでれいむからビニール袋を受け取ると、広場の中央にまりさ達のおかざりをぶちまけた。
とたんにゆっくりにしか感じられないという強烈な「死臭」が広場一面に広がる。

「ゆんやぁぁぁぁっ!これくちゃいぃぃぃぃっ!」
「どぼじてゆっくりできないにおいさんがずるのぉぉぉぉぉっ!?」
「わきゃらにゃい!わきゃらにゃいよぉぉぉぉぉっ!?」

とたんにゆっくりできない死臭に苦しむ群れのゆっくり達。
ドスはわざとみんなに死臭をしばらく嗅がせたあと……大きな声で群れのゆっくり達を一喝した。

「みんな!このゆっくりできないおかざりはさっき、にんげんさんからおやさいをとりもどすといってでていった、
 あのまりさとそのかぞくのおかざりだよ!おかざりのにおいのとおり、
 まりさはにんげんさんにおろかにもたたかいをいどんだあげく、かんたんっにせいさいっされちゃったよ!」

「「「「「ゆゆっ!?」」」」」

「どすがいつもみんなにおしえているとおりになったね!にんげんさんはとてもつよいんだよ!
 ひとりじめにしているおやさいをとりもどすといきがったばかなゆっくりがにんげんさんにいどんだけっかがこれだよ!
 みんなゆっくりりかいしたかな!?」

「「「「「りがいじまじだぁぁぁぁっ!」」」」」

「このまりさたちのようになりたくなかったらみんなむれのおきてをまもって、
 にんげんさんのところにはいかないでね!そうすればみんなゆっくりできるよ!ゆっくりりかいしてねっ!」

「「「「「ゆっくじりがいじまじたぁぁぁぁっ!りがいしたがらこのにおいをどうにかじでぇぇぇ!ゆんやあああああっ!」」」」」

ドスは群れのみんなの反応に満足すると、まりさ一家のおかざりを再びビニール袋に入れて口を閉じた。
こうして臭いは収まったがあまりにも酷い死臭に当てられたのか、
群れの子ゆっくりの中には少量の餡子を吐き出して悶絶している者さえいる。
ドスは治療のために群れで備蓄してある非常用のあまあまの使用を許可、幹部れいむに命じて急いでもってこさせた。
こうして群れのゆっくり達のケアが行われている中。ドスは帽子の唾にビニール袋をのっけると……

「ちょっとどすはでかけてくるよ!みんなのちりょうっにあたっているれいむいがいの
 かんぶゆっくりはみんなどすについてきてね!」

「「「「「わかったよどす!ゆっくりついていくよ!」」」」」

「ゆゆっ?どす!みんなもどこへいくんだぜっ」
「……このおかざりはもうどすのむれとはなんのかんけいもないゆっくりのものだよ。
 こんなものをむれのきょうどうぼちっにまいそうするわけにはいかないよ。
 だからむれのそとにすててくるんだけど……なにかもんだいでもある?」
「ゆっ……」

別に深い考えがあって質問したわけではない群れのまりさだったが。
ドスから感じられる異様な迫力にさらに何も言えなかった。

「べ、べつにもんだいなんてないのぜ……ど、どす、きをつけていくんだぜ……」
「ゆっくりありがとう。じゃあみんないくよ!」

こうしてドスまりさは5~6匹の幹部ゆっくりを連れて群れの外へと出かけていった。
それにしてもいくら掟破りのゲスゆっくりとはいえ群れの墓地にさえ入れてもらえないとは……
ドスの非情さ厳格さに今さらながら感嘆するまりさであった……が、ふと疑問に思った。

(……ゆっ?おかざりをすてにいくだけなら、どすだけむれのそとへいけばいいはずなのぜ?
 なんでかんぶをほとんどつれていくのぜ……?)

だがその疑問も治療を手伝えと幹部れいむに言われて手伝ってるうちに、まりさはきれいさっぱり忘れてしまったのだった。





ザクッザクッ……!

幹部みょんが自慢の枝で大きな石の前の地面に穴を掘っている。
群れのある場所からかなり離れた森の中に……その墓はあった。
ドスの怪力によって大きな石がでんっと地面に突き刺さってるだけの粗末な墓。
掟破りの追放ゆっくりを埋葬するために適当に作った無縁仏である。

「……どす、まりさたちのおかざりをおはかのしたにゆっくりうめたみょん」
「じゃあつちさんをかぶせてね」
「わかったみょん」

墓にまりさ一家のおかざりを埋めて土を被せる。
幹部みょんがこの作業をしている間、ドスまりさと幹部ゆっくりは一言もしゃべらなかった。
ただ黙って幹部みょんの仕事が完了するのを待っていた。
あまりにも不気味な沈黙である。幹部たちはこのゆっくりできない空気によく耐えられるものだ。

「おわったみょん」
「ごくろうさまだよみょん。ちぇん……ちかくにゆっくりはいる?」
「……ちぇんのみみにはなにもきこえないよー。ここにはちぇんたちいがいのゆっくりはいないんだねー」
「そう…………ゆ、ゆぐっ……うっ……!」

なんと今まで冷徹な無表情で通していたドスまりさが突如嗚咽をもらしたではないか。
その瞳のはじにはうっすらと涙が光っている。
そしてその態度の変化はドスだけに終わらなかった。次第に幹部ゆっくり全員が泣き始めたのだ。

「ゆぐぅぅぅ……ま、まりさぁぁぁ……!ごべんね……ごべんねぇぇぇぇ………!」
「いなかもののありすたちをゆるじでちょうだいぃぃぃ……!」
「ごうずるじかながっだんだよぉぉぉ……!わがらないよぉぉぉぉ……!」

泣いている……声を押し殺してドスと幹部ゆっくり達が泣いている。
やはりなんだかんだ言っても群れの一員であるまりさが永遠にゆっくりするのは耐えがたく悲しいのだろうか……?
それもある。
だがそれだけが理由ではない。ドスと幹部ゆっくり達は死んだまりさ達に対してある罪悪感を抱えていたのだ。
その罪悪感とは……

「ご……ごべんねぇぇぇぇっ!ごべんねまりざぁぁぁぁぁっ!
 おやさいはにんげんさんがそだててるなんて『うそ』をおしえてほんどうにごべんねぇぇぇぇぇぇっ!!」


ゆっくりにとって真実とは一体なんだろう?
それは「生まれながらに中枢餡に刻まれた知識」ではないだろうか。
この中枢餡に刻まれた知識という奴が、ゆっくりにとっては絶対の真理であり真実であり現実であり常識である。
お野菜はゆっくりをゆっくりさせる為に地面から勝手に生えてくる……
ゆっくりにとってお決まりであるこの思い込み、いや思想は人間からすれば単なる妄想だが
当のゆっくり達にとってはまさにこの世の真理なのだ。

現実には野菜とはモノにもよるが苦労して土壌作りをして、種をまいて、何ヶ月もかけてようやく生えるものだ。
だがゆっくりにとってそんな現実などまったく受け入れられない。
正しいとか正しくないとかそんなの関係ない。
野菜は勝手に生えるといったら勝手に生えてくるものなのだ。
通常種ゆっくりの中枢餡にそう刻まれたこの思い込みは非常に強力なものである。
だがドスと幹部ゆっくり達は群れのゆっくり達に対して
幼い頃から徹底した思想教育を施すことでこの中枢餡からくる知識を矯正した。

お野菜さんは勝手に生えてこないよ。
人間さんが苦労して育てているからお野菜さんはゆっくり生えてくるんだよ。
ゆっくり以外の生き物がゆっくりをゆっくりさせる為に存在してるなんて嘘だよ。
このようなドスですらまったく信じてないデタラメを群れの……

「ゆぶぶぶっ!?ゆべえええええええっ!」
「どすぅぅぅぅっ!あんごさんはいちゃだめよぉぉぉぉぉっ!」
「だ、だいじょうぶ……だよありず……だけどとまらないんだよ……!きもちわるくてきもちわるくて!
 どうしてもはきけがとまらないんだよぉぉぉぉっ!」

……汚れを知らない純真無垢な群れのおちびちゃん達に「うそ」を教え続ける。
それはなんてゆっくりしてない極悪非道な悪行なのだろう!
こんなデタラメをおちびちゃんに教え続けるドスと幹部ゆっくりは死んだらきっと地獄に落ちる。
その覚悟はみんなすでにできている。できてはいるが……それでもやはり辛い。
群れのみんなを密かに裏切っているというこの事実は果てしなく重い。餡子を吐き出しそうなほどに重すぎる。
でも仕方ないのだ。酷いデタラメだと分かっていてもお野菜と人間に手を出してはダメだとみんなに教えなきゃいけない。

「だ、だって……だってぇぇぇぇ……!どすは……どすはにんげんにどうしてもがてないがらぁぁぁぁっ!
 だがらぁぁぁ……だがらぁぁ!どすはくそにんげんのいうことをきかなきゃいげないんだよぉぉぉぉぉっ!
 ゆ、ゆああああっ………!ゆあああああああんっ!ゆあああああああああああああんっっ!」

「どすぅぅぅっ!な、ながないで……ながないでよぉぉぉぉっ!」
「う、うえええええええん!うええええええええええええんっ!」
「どぼじでぇ!?どぼじでごんなぁぁぁぁっ!ゆんやあああああああああああっっ!!」

そう……人間に勝てないから。ドスの力をもってしても人間にはまるでかなわないから。
だから人間の主張を全面的に受け入れるしかないのだ。
たとえ人間の「お野菜は人間が育てているモノである」という主張が
ゆっくりにとっては荒唐無稽な戯言であるとしても。
人間の考えに従わなくてはならない。その荒唐無稽なデタラメを大真面目で受け入れなければならない。
何故って人間に服従しなければドスも群れもあっという間に駆除されてしまうからだ。

「ゆぐっ!ゆぐっ……!ば、ばりざぁぁぁ……ほんどうはね……ばりざがぜんぶただしかったんだよぉぉ……
 まちがっでるのはくぞにんげんでぇぇぇ……ぞのくぞにんげんのいいなりになっでるどすだったんだよぉぉぉぉ……
 ごべんねぇ……ごべんねぇぇぇ……ひろばでばりざにひどいごといっで、ほんどうにごべんねぇぇぇぇっ!」

麓の村に住む人間達から見れば、野菜に手を出さないように教育されたドスの群れのゆっくりは優秀なゆっくり、
畑を荒らしにきたまりさ達は出来そこないの馬鹿ゆっくりだと見えるだろう。
だがドスまりさ達のとらえ方はまったく違う。
このまりさこそ。どんな目にあっても、たとえ理不尽な暴力によって永遠にゆっくりしたとしても、
ゆっくり本来の思想と真実を見失わずにいつまでも持ち続けているゆっくりの中のゆっくりなのだ。
ドス達が生き延びる為に泣く泣く捨てた宝物をいつまでも持ち続ける真実のゆっくり……
まりさこそがまさにそれだとドスは内心尊敬さえしていた。

だからこそ悲しい。これほどのゆっくりをむざむざ人間に殺されたことが。
だがお野菜を取り戻すと決意した以上まりさはどんな事があってもそれを実行したはずだ。
となればもう掟破りを理由にドスがまりさ一家を制裁するか、人間に制裁されるかのどちらかしかまりさの未来はない。
ドスはどのみち制裁しかありえないのならば、せめてまりさに本懐を遂げさせてやりたかった。
だからあえて畑に向かうまりさ達を邪魔しなかったのだ。

「どすも……どすもおさじゃなかったらまりさのように、にんげんをせいさいっしにいきたかったよ……」

一通り泣き尽くしたからか、落ち着きを取り戻したドスが墓に向かってゆっくりと話しかける。
幹部ゆっくり達もいつのまにか泣き止んでいた。

「でもどすはむれのおさだから……みんなをゆっぐりさぜてあげなきゃいけないんだよ。うそをついてでも……ね。
 ごべんねまりざ……どすたちはもういかなきゃいけないよ。むれのみんながまってるから……
 まりざたちはごごでずっとずっとゆっくりしていってね……!」

「「「「「ゆっぐりじでいっでねっっっっ!!」」」」」

ドスまりさと幹部ゆっくり達はそう言い残すと群れへと帰っていった。
嘘つきゆっくりであるドス達を必要としてくれる群れへと……


ここは人間にとって「賢い」とされる野生ゆっくり達の群れ。
人間に結ばされた不平等条約という名の協定を遵守しつつ、決して人間に迷惑をかけない事で存続を許されている群れ。
彼女らはこれからもドスの元で「うそ」を教えられながらゆっくりし続けるだろう。
そして時々「うそ」に騙されない天然のゆっくりが現れては畑に乱入して人間に制裁されるだろう。
そして残された彼女らのおかざりは群れのはずれのさびれた墓に埋められるだろう。

この墓は群れのゆっくり達には掟を破った馬鹿なゆっくりの末路だと蔑まれているが、
事情をよく知るドスまりさと幹部ゆっくりだけは密かにこの墓をこう呼んでいた。


英ゆんの墓、と。