anko4385 弱く儚い物達

Last-modified: Thu, 18 Aug 2016 12:03:55 JST (2801d)
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「ここはとってもすてきなところなんだぜ!きにいったぜ!ここをまりさたちの…」

『おうちにするんだぜ!(よ!)のじぇ!』

蒸し暑い日に窓を開けて網戸にしておいたら、外から何やら良からぬ声が聞こえてきた。
こんなあほな事を人の家の庭で堂々と宣言する者は他でもない。
この世に突然沸いて出て、生命体を主張する不愉快極まりない生饅頭のゆっくりという奴だ。
奴らは人間の言葉を話すが理解はしていないそうで、基本的に人間との会話は成立しないそうだ。
そんな鬱陶しい害饅頭が、我が家の庭に湧いて出たようだ。
強い日差しにも負けないくらいの鬱陶しい大声を張り上げ、人様の庭先で何かは知らないが大盛り上がりの様子だ。
ゆっくり被害は色々聞いているので、慌てて庭の様子を見に行くと、そこには薄汚れた大小の塊4つがニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。

「ゆゆぅ?!くそにんげんがでてきたんだぜ!ざんねんだったんだぜ!たったいまからここは、まりさたちのおうちになったんだぜ!」

「くそにんげんは、ほかのおうちをさがしてね!はやいものがちで、ごめんね!!」

『ゆわぁぁい!ゆっくちー!ゆっくちー!!』

小汚い黒帽子のゆっくりと、薄汚れた赤リボンのゆっくりが、何故か俺を見下すように軽く笑いながら得意そうに踏ん反り返る。
その周りでは、見るからに臭そうな二つの泥団子が、ゆんゆんキャッキャと耳障りな鳴き声を発しながら、二匹のゴミ袋の周りを飛び跳ね回っている。

「何言ってんだ?駆除されたくなかったら、さっさと失せろ!ここは俺の家だ!」

「ゆっはぁ?!やっぱり、そういうとおもったんだぜ!これだからくそにんげんは、じょうしきをしらなくてこまるんだぜ!!」

「さっきのおうちせんげんを、きいてなかったのぉ?!ここはれいむたちのものになったんだよ!くそにんげんにも、わかりやすくいってみたよ!!」

「ゆゆぅ?くしょにんげんは、おうちしぇんげんのるーるもしらないのじぇ?ばかなのじぇー?」

「ゆっぷっぷ!しょんなの、あかちゃんゆっくちでもしってるよ!れーみゅ、かしこくってごめーんにぇ!!」

どうやら聞いていた通りらしい。
ゆっくりはここが自分の家だと宣言すれば、その土地や家屋が自分達の所有物になると本気で考えているそうだ。
こうなると、いくら説明しても無駄らしい。
仕方ないので駆除しようかとサンダルを履いて庭に出ると、汚い塊が俺の足に体当たりをしてきた。

「ゆっせい!ゆっせい!どうなんだぜ?!いたいんだぜ?!しんじゃうかもだぜ?!くちでいってもわからない、おろかなくそにんげんは、まりささまのせいぎのたいあたりで、かいしんするんだぜ!!」

「ゆゆぅ!さすが、かわいいれいむのだんなさまだよ!てんちをゆるがす、きょうれつなたいあたりさんだよ!くそにんげんは、うんうんもらしてきぜつしてるよ!!」

『ゆぉぉぉぉぉ!おとーしゃん!かっこいいーー!!つよぉぉぉい!!』

ゆっくり達はあほみたいに盛り上がっているが、俺には肉体的ダメージはまったく無い。
だが生ごみの入った様な薄汚い体で体当たりされるのは、大変不快極まりない。
必死なのかは知らないが、変な汁を全身から垂らしながら体当たりしてくるのでズボンがどんどん汚れていく。
その上仲間のゴミ袋達が、何故か勝ち誇ったように仰け反ってニヤニヤしているもの腹立たしい。
すぐに踏み潰してやろうかとも考えたが、何とかこの勘違いゴミ袋に惨めな思いをさせてやりたくなってきた。
そしてふと思いついた俺は、体当たりを続けるゴミ袋に蹴りを入れると家の中に戻っていく。

ゆっぎゃぁぁ!いっだいぃぃぃ!までぃざのおがおがぁぁぁぁぁ!!

背後から何か聞こえるが、あえて気にしないでおく。

「ゆゆぅ!さっきはよくもやったんだぜ!ないてにげだしたかとおもったけど、またまりさにやっつけられにきたんだぜ?!」

頬の辺りを大きくへこませた黒帽子のゴミ袋が、両目に涙を溜めながら何故か強がっている。
俺はあえて汚れた黒帽子を無視して、子泥団子を一匹つまみ上げて、熱せられた砂利の上に移動させた。
そして家から持ってきたガラス製の透明なサラダボールを、薄汚いリボンの小さな泥団子に被せて砂利地帯から脱出出来ないようにしてやった。
これはちょうど俺が昼飯にそうめんを入れておいた器で、洗う前にいたずらに使ってみようと思った代物だ。

「ゆゆぅ…?………あっちゅい!あっちゅい!あんよがあっちゅいよぉぉぉぉぉ!!」

しばらく不思議そうに目を丸くしていた汚れ子リボンが、サラダボールのドームの中を泣きながら飛び跳ね回る。
今日は雲ひとつない晴天。
そんな太陽に日差しに暖められた砂利は、さぞ熱いことだろう。

「ど、どうしたんだぜぇ?おちびちゃん!いまたすけにいくんだぜ!!」

涙を流して不細工に踊り跳ねる泥団子を見て、大慌てでサラダボールに向かって跳ねていく汚れ黒帽子。
本当に助けに行く気があるのかと問いたくなる程のんびりとした移動速度だが、汚れ帽子の表情はいたって真剣である。
全身をだぶんだぶんと醜く震わせながら、眉間にしわを寄せて跳ねていくその姿は、安物のホラー映画を見ているような不気味さと不安さを感じる。
今すぐ蹴り飛ばしてしまいたい衝動を抑えて少し様子を見ていると、その必死な汚れ帽子を小汚い泥家族が応援しだした。

「ゆゆぅぅ!まりざぁぁ!いそいでね!れいむにのかわいいおちびちゃんが、たいへんなことになってるよ!だいじょうぶ!まりさなら、かんたんにたすけられるよぉぉ!!」

「ゆぉぉぉ!おとーしゃん、はっやいのじぇぇ!すっごいのじぇぇ!かっこいいのじぇぇぇ!しびれるのじぇぇ!あこがれるのじぇぇぇ!!」

泥家族は汚れ帽子の能力を高く評価しているらしく、過剰なまでに汚れ帽子を褒め称え賞賛している。
汚れ帽子も泥家族の声援を背に受けニヤニヤと笑うと、得意そうに少し仰け反りながら体を大きく振るように這いずり出す。
本当にこの汚れ帽子は、自分の子を助ける気はあるのだろうかと疑ってしまう。

「おどぉぉぉぢゃぁぁぁぁ!あんよがあっぢゅいよぉぉぉぉ!はやぐごごがらだじでよぉぉぉ!!」

一方、汚れ子りぼんは、苦悶の表情を浮かべながら盛大に涙を流している。
力なく飛び跳ねたかと思えば、気持悪い揉み上げの様な物を器用に動かしてコロコロと転がったりして、必死に暑さから逃れようとしている。
だがそのせいで、体の底部以外にも赤く変色している部分が目に見えて増えている。

「あっぢゅい!あっぢゅい!おがおがあっぢゅい!せなががあっちゅい!からだがあっぢゅいよぉぉぉぉ!!」

「ゆゆぅ!おちびちゃん、つよくてたくましいおとーさんがきたから、もうあんしんだぜ!いますぐたすけてあげ………あっぢぃぃぃ!あっぢぃぃ!なにごれぇぇぇ?!」

「まりざぁぁ!どーしたのぉぉぉ?!なにがあったのぉぉぉ?!」

勇ましく眉毛を吊り上げた汚れ帽子が、サラダボールの置かれた砂利場に降り立つ。
少し身を仰け反らしてりりしく眉毛を吊り上げ、サラダボールをキリっと睨みつける。
だが1秒と経たない内に、汚れ帽子が顔を歪めて涙をこぼす。
体が大きくても、日光で暖められた砂利はやはり熱く感じるようだ。
汚れ帽子は大慌てで飛び跳ね雑草地帯に戻ると、恨めしそうにサラダボールを眺める。

「ゆふー…ゆふー…よくもやったんだぜぇぇ!ゆるさないんだぜぇぇぇ!!かくごするんだぜぇぇ!!」

汚れ帽子は唾を飛ばしながら大声を張り上げると、鬼のような形相でサラダボールに向かって跳ねだした。
だがその速度は、先ほど跳ねていたより少し早いかも知れないといった程度。
ナメクジ程の速度が芋虫程の速度に変わったかも知れないと言った微妙な変化で、明確には解りにくい。
それでも先ほどより気合が入った事には違いないのだろう。
汚れ帽子はそのままの勢いを保ったまま、サラダボールに向かって豪快に体当たりをした。

「くらうんだぜぇぇ!すーぱー!まりさすたーあたっくぅぅ 『ごべちゃ!』 ゆんべぇぇ?!…ぎぎ…ぎ…ゆっぎゃぁぁ!おがおがいだいぃぃぃ!!」

当たり所が悪かったのだろうか。
汚れ帽子は頬を真っ赤に腫らし、ポロポロと涙をこぼして泣き始めた。
ぎゃーぎゃーと騒ぐ大きく開かれた口から、ボロボロになった歯が見え隠れする。
よく見ると汚れ饅頭の底部付近には、欠けた歯と思われる黄ばんだ物体が数個転がっている。
自信たっぷりだった小生意気な姿がまるで嘘のように、目の前のサラダボール内の汚れ子りぼん同様に、情けない顔で泣き崩れている汚れ帽子。

「おどーぢゃぁぁぁ!あっぢゅいぃぃ!ここがらだじでよぉぉぉぉぉぉ!でいぶじんじゃうよぉぉぉぉぉ!!ゆっぢゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ゆっぐぅぅ!おどーざんだって、いだいんだぜぇぇぇ!わがばばいうんじゃないんだzぇぇぇ!!ゆっぐぢがばんずるんだぜぇぇぇ!!」

唾を飛ばしながら、目の前でゆんゆんと泣く汚れ子リボンを怒鳴る汚れ帽子。
怒鳴られた汚れ子リボンはびくっと大きく体を震わせると、なにやら尿のようなものを漏らし始めた。
そんな我が子の姿を見てもまだ怒りは収まらないのか、汚れ帽子は両頬に空気を溜めると大きく膨れ上がった。

「ゆっびゃぁぁぁ!ごばいよぉぉぉぉ!どぼじでれーみゅに、ぷくーしゅるのぉぉぉぉ?!」

「そ、そうだよ!まりさ、なにやってるのぉぉぉぉ?そんなことより、さっさとおちびちゃんをたすけでねぇぇぇぇ!!」

オタフクのような面で我が子を睨む汚れ帽子。
面白顔で凄まれても恐怖を感じる事はないと思うのだが、何故か汚れ子リボンは脱糞までして震え上がっている。
そんなやり取りを見ていた親の汚れリボンが、間抜けな番を嗜める。
汚れ帽子はハッと我に返ると、何故かりりしく眉毛を吊り上げげ、汚らしく泣き喚く我が子を見据える。

「ゆっ?はっ!そ、そうだったんだぜ!ゆっくりたすけるんだぜ!…あっづぃぃぃ!かだいぃぃぃぃ!!」

使命を思い出したと言わんばかりの汚れ帽子だったが、砂利の熱さに体をよじり、不恰好に飛び跳ねて再びサラダボールにぶつかる。
汚れ帽子はそのまま涙と涎を撒き散らしながらゴロゴロと転がり、砂利地帯から大慌てで逃げ出した。

「ゆはー…ゆはー…こ、こいつはきょうてきさんなんだ…ぜ…ぜ…までぃざと…ここまでたたかえたやつは…ひさしぶりなんだ…ぜ…ぜ…」

まるで肩で息でもするかのような荒い呼吸をする汚れ帽子。
涙と涎と尿で全身が汚れた姿をしているが、それでも「カッコいい自分」を貫いているつもりらしい。
だがそんな事をしている間にも、汚れ子リボンはどんどん弱っていく。

「くっしゃい…あっちゅい…ぎ…ぎぼちわる……ゆっぐぢ…できな…げぼっ、ゆごぼっ、ゆっげぇぇぇぇぇぇ?!」

そしてついに劣悪な環境に耐え切れなくなった汚れ子リボンは、口から真っ黒なゲロを吐き出し始めた。
汚れ子リボンはゲロを吐き出す度に体が萎んでいき、ついには苦しそうな表情を貼り付けた萎れた一枚の皮になってしまう。

「ゆっぎゃぁぁぁぁぁ?!いもーぢょぉぉぉぉ!どぼじでぇぇぇぇぇぇ?!ゆびゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ゆっぎゃぁぁぁぁぁぁ!!でいぶにの、どーっでもがわいいおちびちゃんがぁぁぁぁぁぁ!!」

「ゆっびぃぃぃぃ!おちびがぁぁぁぁぁ!!どーなっでいるんだぜぇぇぇぇ?!」

目の前で息絶えた汚れ子リボンを見て、涙を流しながら絶叫する汚れ親子。
汚れた体に負けぬくらい大変汚い醜い表情を浮かべ、体をグネグネと動かして家族を失った悲しみを表現している。
俺はあまりにも五月蝿く汚いその声を、少し黙らせようと思い汚れ家族に近づいていった。

「ゆっがぁぁぁぁ?!おばえがぁぁぁ?!おばえがおちびをころじだのがぁぁぁぁぁ?!よわいくそにんげんのくぜにぃぃぃ!!ゆるざないんだぜぇぇぇぇぇ!!」

「までぃざぁぁぁ!おちびちゃんのかだきをうってねぇぇぇ!そのくそにんげんを、ゆっくりじごくにおとしてあげでねぇぇぇ!!」

俺の姿が目に入った途端に、怒りのすべてを俺にぶつけるべく汚れ帽子がこちらに向かって飛び跳ねてきた。
俺はそんな汚れ帽子を軽く足で転がして逆さまにしてやると、体勢を立て直す前にナメクジのようにうねうねと動く底部を靴で軽く踏みつけた。

「おいおい?何言ってるんだ?俺が仇?ちょっと待て、この糞ちびを助けなかったのはこいつだろ?」

「ゆっぎぃぃぃ!なにいっでるんだぜぇぇ!それよりも、までぃざをおごぜぇぇぇ!ゆるざないんだぜぇぇぇ!!」

「ほらこれ、こんなに簡単に動かせるだろ?」

『ゆっ?!』

俺は怒り狂う汚れ帽子をクッションでも踏むかのように足で揉み解してやると、汚れ子リボンを閉じ込めていた、少し暖かいサラダボールをそっと持ち上げた。
それを見ていた汚れ帽子を含む汚れ家族は、何が起きたのか理解出来ないのかしばらく固まる。

「………ゆっ…ゆっがぁぁぁぁ?!どぼじでぇぇぇ?!までぃざがあんなにくせんしだのにぃぃぃぃ?!」

「苦戦?…あぁ、それはこの汚れ子リボンを助けたくないから演技してたんだろ?弱いはずの俺が簡単に動かせるものを、強いはずのお前が動かせないわけないだろ?」

「ゆっ…?…ど、どういうことなの、までぃざぁぁぁぁぁ?!」

「ゆがぁぁぁぁん!おどーしゃん、れーみゅのこと、きらいだったのじぇ…?どぼじて…」

驚いた汚れ帽子に変わって、俺が汚れ家族にそれらしい嘘を吹き込むと、汚れ家族は両目をまん丸に見開いて驚く。
実際のところはこの汚れ帽子が非力すぎて、サラダボールを動かせなかったのだろう。
だが汚れ帽子を何よりも強いと認識しているこいつ等は、あっさりと俺の嘘を信じてしまったようだ。

「ち、ちがうんだぜぇぇ!まりさはとーってもつよいけど、ほんとうにくせんしてたんだぜぇぇぇ!!」

「で、でも、くそにんげんが、かんたんにあのいじわるさんを、うごかしたよぉぉ?!」

「ゆぅぅ…やっぱち…おとーしゃ…ゆえぇぇぇ!…」

「ゆっぅぅぅぅぅ!やい、くそにんげん!どーしてまでぃざのらいばるさんを、そんなにかんたんにうごかしたんだぜぇぇぇ?!きっとひきょうなてをつかったんだぜぇぇ?!」

「ん?だからそれは、お前が助けなかっただけだろう?よく見ておけよクソの饅頭達、コイツは絶対にこの汚れ子帽子を助けないぞ」

俺は唾を飛ばしながら怒る汚れ帽子を再び足で軽く転がしてやると、困惑顔の汚れ子帽子を捕まえて死んだ汚れ子リボンの隣に置き、先ほどと同じようにサラダボールのドームを被せてやった。

「ゆわーい!おそらをとんで………ゆゆぅ?…れーみゅ………ゆっぎゃぁぁぁ!くっしゃいぃぃ!あっちゅいぃぃぃ!だちてぇぇぇ!ここからだちてよぉぉぉぉ!!」

最初の内は、何故かキャッキャと喜んでいた汚れ子帽子だったが、しばらくして置かれた状況を理解したらしく、狂ったように飛び跳ねてサラダボールに体当たりをはじめる。
だが親が動かせなかった物が小さな汚れ子帽子に動かせるはずもなく、サラダボールにぶつかっては、空気が少し抜けて弾まなくなったボールの様にぺちょっと砂利に顔を埋める。

「ゆぶぶぅぅ…いちゃい………ゆぇぇぇぇ…くしょにんげんが、かんたんにうごかせちゃのにぃぃ…ゆぐぐぅ…ゆ?…ゆっびゃぁぁぁぁ!あっちゅい!いっちゃい!あっちゅぃぃぃ!くっしゃいぃぃぃぃ!!」

悔しそうに涙を浮かべながら唇を噛み、ブツブツと何かを呟く汚れ子帽子。
しばらくそのまま悔し泣きをしていたが、やはり熱さに耐え切れなくなったらしく、ブサイクな変顔で彼方此方飛び跳ねまわる。

「ほら、本当に助ける気があるなら、早く助けてやれよ。まあ、助けないんだろうけどな」

「ゆっぐぐぅぅ!!くそにんげんがぁぁぁ!おちび、まってるんだぜぇぇ!いまたすけるんだぜぇぇぇ!!」

俺の挑発にあっさりと乗った汚れ帽子が、何故か凛々しく眉毛を釣り上げてサラダボールに向かって跳ねて行く。
だがやはり砂利は熱かったのか、顔をしかめながらあっさり雑草地帯に戻ってきてしまう。

「あっつい!あっつい!ゆぎぃぃぃぃ!までぃざのあんよがぼろぼろだぜぇぇぇぇ!!ゆぐぅぅぅ!ゆるさないんだぜ!!」

そして改めてサラダボールに向き直ると、何を思ったのか両頬に空気を貯めて膨れ上がった。

「いじわるなじゃりさん!とうめいなかべさん、まりさのおそろしさに、きょうふするんだぜぇぇぇ!!ぷくぅぅぅぅぅぅ!!」

突然大声を張り上げて、砂利とサラダボールを威嚇している汚れ帽子。
ただ膨れ上がっているその行為に、何か意味がある訳がない。
と、思っていたのだが、思わぬ所で効果があったようだ。

「ゆっぴぃぃぃぃ!ごわいよぉぉぉぉ!おとーしゃ、どーちてまりちゃにぷくーしゅるのじぇぇぇぇぇぇ?!まりちゃのことがきらいなのじぇぇぇ?!」

あんな面白おたふく顔を怖がる者がいるものかと思っていたが、普通に居た。
汚れ子帽子は、親が向けた敵意が自分に向いていると勘違いし、その場でガタガタと震えながら小便を漏らし始める。

「ぷくぅぅぅぅぅ!じゃりさん、とうめいなかべさんもびびって、しーしーもらしてるんだぜ!…ゆ?…ゆわぁぁぁぁ!おちびちゃん、どうしたんだぜぇぇぇ?!」

「までぃざぁぁぁぁ?!なにやっでるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!おちびちゃんが、おぞろじーじーじでるでしょぉぉぉぉ?!」

「おどーじゃ…どぼじで…どぼじで…どぼじ…で…?………ゆぅぅ…あっちゅい…くっしゃい…ゆぶっ!…ゆぶぶぶぶ!ゆっげぇぇぇぇ!げぼっ!ごぼぼぉ!」

何故か得意げに勝ち誇ていた汚れ帽子も、我が子の異変に気がつき慌て出す。
だが時すでに遅く、最愛の親にから向けられた敵意と、劣悪な環境に耐え切れなくなった汚れ帽子は、先に死んでいった汚れ子リボンと同じように痙攣しながら黒いゲロを吐き出した。

「ゆわぁぁぁぁ!おちびちゃん、あんこさんをはいちゃだめなんだぜぇぇぇ!ゆっくり!ゆっくりするんだぜぇぇぇぇ!!」

「ゆっぎゃぁぁぁぁ!おちびちゃぁぁぁぁぁぁん!おちびちゃぁぁぁぁぁぁ!!………ゆぎぎぃぃぃ!までぃざぁぁぁぁ!どーじでおちびちゃんをごろじだのぉぉぉぉぉ?!」

「ゆっひ?ご、ごかいなんだぜぇぇぇ!これは、なにかのまちがいなんだぜぇぇ!こ、このくそにんげんの、いんぼうなんだぜぇぇぇぇ!!」

真っ青な顔で番に必死に言い訳をする汚れ帽子。
まさにコイツの言う通りなのだが、すっかり俺の作にはまり、番を疑いの目で見ている汚れリボンにその声は届いていない。

「までぃざぁぁぁ!いいわげはゆるざないぃぃ!ゆるざないよぉぉぉぉぉ!!ぜいざいだよぉぉぉ!くらぇぇぇぇぇ!!」

「ゆっひぃ?………ゆっぎぃぃぃ!いだいぃぃぃぃ!までぃざのだんでぃなおかおがぁぁぁぁぁ!!」

激昂した汚れリボンが、突然汚れ帽子に体当たりをした。
汚れ帽子は不意を突かれたのか、ド派手に転がると涙を流して騒ぎ出した。
だがそんな情けない番を見ても、汚れリボンの怒りは少しも収まらないらしい。
汚れリボンはワサワサと動く、気色悪い揉み上げのような物で汚れ帽子の頬を叩いた。

「ゆっびぃ!いだぃぃぃ!おどーざんにもぶだれたこどないのぃぃぃぃ!どーじでこんなこどずるんだぜぇぇぇ?!」

「だまってねぇぇ!しつもんしていいのは、でいぶだけだよぉぉぉぉ!どーじでおちびをごろじだぁぁぁ?!だずけながっだんだぁぁぁ?!ゆがぁぁぁぁぁ!!」

鬼のような形相で、汚れ帽子に連続ビンタを叩き込む汚れリボン。
先ほどの汚れ帽子の威嚇とは比べ物にならないほど凄みのある形相で、番を執拗に攻撃する。
気迫で完全に押されてしまった汚れ帽子では、もはや太刀打ち出来ないだろう。
このまま放っておくと、汚れ帽子が殺されてしまうと思った俺は、汚れリボンの頭を軽く踏みつけた。

「ゆげぇ?!ゆっ、ぶぇぇぇ!な、なにずるのぉぉぉ!?でいぶはいま、いぞがじいんだよぉぉぉ!!までぃざをぜいざ…ゆっぐぇぇぇ?!」

「ゆっひぃ!!…れ、れい、む?………ゆっぎゃぁぁぁぁ?!れいぶがつぶれでるよぉぉぉぉぉ?!どーなっでるのぜぇぇぇぇ?!」

「あぁっと…ちょっと強く踏みすぎたか…」

軽く踏んでいたつもりだったのだが、うっかり加減を間違えたらしく、俺は汚れリボンをそのまま踏み潰してしまった。
汚れリボンは両目を飛び出させて、黒い物を体外に放出させてあっさりと死んでしまった。
潰れた番を見た汚れ帽子は、両目を飛び出さんばかりに見開いて驚き、小便と一緒に脱糞までしてしまったようだ。
それにしても、物理的にも精神的にも弱いこんなものが、どうやったら生きていけるか不思議でならない。

「ゆあぁぁぁ…ご、ご、ご、ごんなのうぞなんだ…ぜ…あ、あのおぞろしいがっだでいぶが、がが…あっどういばに…ゆぅぅぅぅぅ?…」

「おい、ゴミ帽子!これで解ったか?お前がどれだけ弱いか。お前達がどれだけ無力で汚いか理解できたか?」

「ゆ、ゆっぐぅぅぅ?!なにいっでるんだぜぇぇ!なにをみでだんだぜぇぇ?!までぃざは、つよいんだぜぇぇ!ざいぎょうなんだぜぇぇぇ!」

涙目でゆぐゆぐと泣いてた汚れ帽子だが、俺の声を聞いて急に仰け反り強がり出す。
だがその目はどう見ても怯えており、ブルブルと震えながら悔しそうに唇を噛んでいる。
俺はそんな汚れ帽子を軽く足を乗せ、感触を確かめるように何度も弱く踏みつけてやった。

「ゆんぶぅぅ?!ゆっげぇぇぇ!ゆぶじゃぁぁ!ゆごぉぉぉ!やべぇぇ!どぼじべぇぇ!ごべんなざぁぁ!ゆぼべぇぇぇ!」

「お前、本当に弱いな。ちょっと加減を間違えただけで踏み潰しそうだよ。これだけ弱いのに、今までどうやって生きて来れたんだ?」

「なにいっぐえぇ!までざぼあぁぁ!つよぎぃぃ!ざいぎょぼあぁぁ!ざいびょぉぉぉ!!ゆげぼぉぉ!ゆげろぉぉぉぉ!!」

先程まで誤っていた様に聞こえたはずの汚れ帽子の声が、俺の問いかけに反応して再び虚勢を張る。
だが涙目で口からゲロを吐き出しながらでは、全く説得力がない。
俺は涙とゲロに塗れてなお強がる汚れ帽子を足で転がし逆さにすると、そこにサラダボールを被せてやった。

「ゆぅぅ!なにずるんだぜぇぇぇ!これをどれぇぇ!までぃざ、ほんぎでおごるんだぜぇぇ?!」

汚れ帽子はぴったりと底部にはまったサラダボールを深いそうな表情で眺めると、器用に動く気色悪いおさげでペシペシと叩き始めた。
ゆんゆんと唸ってみたりお下げを振り回し、大声で俺に罵声を浴びせる汚れ帽子。
どうやら汚れ帽子は、サラダボールの重さで体がろくに動かせないらしく、恨めしそうに俺を睨んでいる。

「お前強いんだろ?それなら自分で何とか出来るだろ?じゃあ、俺は部屋に戻ってるからな。あぁ、そうだ。寂しいだろうから、お前の家族も側に置いてやるよ」

「ゆぅぅ?!なにいっでるんだぜぇぇ!までぃざざまのめいれいを………ゆぅ?………ゆっひぃぃ!おちびちゃん!でいぶぅぅ?!ゆびゃぁぁぁぁぁ!!」

俺は醜く死んでいった汚れの家族を、汚れ帽子の目の前に移動させてから家に戻った。
威勢の良かった汚れ帽子は、変わり果てた家族を見て今までの事を思い出したのか、不細工な顔でゆんゆんと泣き始めた。

「ゆびゃぁぁぁ!ぐっざいぃぃぃ!どーじでじんでるのぉぉぉぉぉ?!ゆびゃぁぁぁぁ!ゆびゃぁぁぁぁ!くざいぃぃぃ!あづぃぃぃぃ!だずえでぇぇぇぇ!ゆっぐぢじだいぃぃ!………?!…ゆぶぶっ!ゆげぇ!ゆげぇぇぇぇ!!」

やはりうす汚れた家族は臭いのか、子供のように泣き喚く汚れ帽子。
そんな汚れ帽子に容赦なく照りつける太陽の日差し。
どんなに強がっても、自らの強さを変えられるわけではない。
汚れ帽子は熱気と臭気に当てられ、苦しそうに涙をこぼすと黒いゲロを吐きだした。

ゴキブリのように嫌われているゆっくり。
だがゴキブリより遥かに弱いなぞの生物。
俺は最後の時を迎えた弱く汚い生物を、涼しい部屋の中から眺めならが冷たい麦茶を一杯飲む。
やがてセミに負けじと鳴いていた汚れ帽子の鳴き声も聞こえなくなり、庭からはセミの声だけが聞こえてくるのだった。
醜く舌を垂らしてゲロに塗れて死んだ汚れ帽子は、最後まで醜悪な姿を晒していた。

徒然あき


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