anko4394 水乞い

Last-modified: Thu, 18 Aug 2016 12:02:55 JST (2820d)
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「おねがいじばずぅぅ!おびずをくだざいぃぃぃ!ひどぐぢでいいんでずぅぅ!あばあばじゃなくでもいいんでずぅぅ!!」

「おみじゅをよこすのじぇー!あまあまなおみずしゃん、いーっぱいよこすのじぇー!!」

自販機の前を通りかかった途端に、足元から不快な泣き声が聞こえてきた。
声の主はぐったりと力なく自販機に寄り掛かりながら、乾いてひび割れた唇を震わせてガラガラ声を張り上げていた。

「お、お、お、びずでいいんでずぅぅ!あばあばよごぜとか、ぜいだぐはいいばぜんがらぁぁぁ!おびずをひどぐちのまぜでくだざいぃぃ!!」

「あまあまなおみずしゃんを、たーくしゃんよこすのじぇー!どれーのくしょにんげんは、さっさとゆっくちうごくのじぇー!!」

今にも死んでしまいそうなほどに干からびかかった声の主は、ゆっくりと呼ばれる不思議饅頭。
突然この世に沸いて出た、人類の不愉快な隣人、いや隣饅頭である。
真っ黒な帽子にすすけた金髪の持ち主は、確かまりさとか言う種類の公害饅頭。
ごみを漁ったり、公園に勝手に住み着いたりして、町の美観を損ねる迷惑な饅頭だ。
たまにペットとして飼われたりする事もあるそうだが、あれだけ汚れているのは野良で間違いないだろう。
この暑い日差しを吸収してくれる真っ黒な帽子をかぶり、その体はさぞ熱い事だろう。
そんなの帽子の陰に隠れて涼しそうな顔をしているのは、同じ造詣の小さな泥饅頭。
今にも死にそうな大饅頭とは対照的に、得意そうに眉毛を吊り上げてこちらを見下すようにヘラヘラと笑っている。
おそらくこれは親子で、この子饅頭が元気そうにしているのは、親の帽子と自分の帽子の影に隠れているおかげだろう。
だがこの泥饅頭はそんな事も理解していないだろう。

こいつ等は最近噂の「水乞いゆっくり」という奴だ。
ゆっくりも一応生き物らしく、水がないと干からびて死んでしまう。
特に夏場は路上で干からびて死んでいるのを、ミミズ以上に見かける事もある程だ。

だがここ最近、公園等が野良ゆっくり対策のため、池や噴水の水をゆっくりが飲めないように柵を設けたり、ゆっくりでは飛び越えられない程度の段差を設けている。
川に水を求めようにも、フェンスがしてあったり、たどり着くまでの道がアスファルトで舗装されてあったりなどと、ゆっくりにとってはハードルが高い。
このまま放っておけば、いずれは干からびて死んでしまうと悟った野良ゆっくり達がとった行動が「水乞いゆっくり」。
人間が自販機から飲料水等を入手している事をどこかで学習したらしく、自販機の日陰で人間を待ち構えては、喧しい声で人に飲料水等を強請るのだ。
時にはプール周辺に現れては水を乞う野良ゆっくりもいるが、それらは大抵遊びに来た子供らに捕まり、川に流されたりと子供らのおもちゃになっているが、まあそれは別の話。

この野良親子もそれに習い、こうしてここで水乞いをしていたのだろう。
だがこの水乞いも、当然人間の反感を買う事になった。
ただ騒いでいるだけならまだしも、時には人の足に体当たりをしたり、擦り寄ってきたりと、絡まれた者は大変不快極まりない思いをする。
そういった野良ゆっくりはその場で潰されるか、蹴り飛ばされたりするのだが、それでも水乞いが後を経たないのは、小数のゆっくり愛護派が飲み物を与えたりしているからである。

一向に減ることの無い水乞いゆっくり。
そこでゆっくり加工所が、本格的に対策に乗り出した。
それがこの親子が寄り添っている自販機である。
いや、正確には自販機ではなく、ゆっくり回収箱なのだ。
ただ、その高さが本来の自販機の半分ほどの大きさで、箱の側面には自販機そっくりな絵が描かれている。
子供だましにもならないといった程度の粗末な造形なのだが、ゆっくりはこれで十分騙せる。

ゆっくりは高さを正確に出来ないらしく、少し高く持ち上げられただけで、まるで浮遊しているかのような感覚になれるらしい。
人間を馬鹿にするのも、人間の顔が高い位置にあるせいで小さく見えるからだそうだ。
「体(顔面)」の大きさで優劣を判断するゆっくりは、「体(顔面)」の小さい人間を馬鹿にするのだ。
そういう訳で、高さの足りないこの自販機風ゆっくり回収箱を、野良ゆっくり達は本物の自販機と勘違いして集まってくるのだ。

「お、お、おお、おびずをくだざいぃぃ!おねがいじばずぅぅぅ!」

「あまあまよこしゅのじぇー!それから、まりちゃのどれーになるのじぇー!ゆっくちー!!」

俺が回収箱に近づくと、まるで土下座をするかのごとく額を地面に擦り付ける親まりさ。
ブルブルと小刻みに痙攣しながら、時々様子を伺うようにチラッとこちらを見てくる。
子まりさは何故か得意そうにふんぞり返ると、底部をこちらに向けて一発屁をこいた。
俺は回収箱に備え付けられているゆっくり用マジックハンド、通称「あいあんくろー」を手に取り、まずは干からびかかった親まりさを捕獲する。

「ゆあ?おびずくれるんでず…?………ゆっぎゃぁぁぁ!いっだいぃぃぃ!なにごれぇぇぇ?!あだまがわれるぅぅぅぅ!!じぬぅぅ!じんじゃうよぉぉぉぉ!!」

大きく開かれたかマジックハンドの指が、親まりさの頭に食い込んでいく。
親まりさは両目を飛び出さんばかりに見開き、薄汚れた底部をブリブリと振りながら必死にもがく。
だがゆっくり捕獲用に作られたこのマジックハンドは、捕らえたゆっくりが痛がりはするが、皮は破らないといった絶妙な力加減で親まりさを掴んで放さない。

ゆっくり捕獲用に作られたこのマジックハンドは、汚らしい野良ゆっくりを素手で触りたくない地域住民に配慮して、回収箱とセットで配備されている。
これにより、野良ゆっくりの回収率が飛躍的に上がったそうだが、それでも野良ゆっくりはなかなか数を減らさない。

「はなぜぇぇぇ!いだいぃぃぃぃ!はなじでぇぇぇぇぇぇ!じんじゃ… 『ゴベチャ!』 ゆぎぃ!いだ………」

俺は回収箱のペダルを踏んで箱の蓋を開けると、持ち上げられてジタバタと暴れまわる親まりさを回収箱の中に捨てた。
親まりさは何やらブツブツといろいろ喋っていたが、回収箱の蓋を閉めた途端に何も聞こえなくなった。
俺は続けて、ポカンと口を開けたまま固まっている子まりさを、マジックハンドで手際よく捕獲する。

「ゆ?…ゆっぎぃぃぃ!おぞらをとんでいっだぃぃぃぃ!ゆぎぃぃぃ!ひびぃぃぃぃぃ!ゆがぎぃ! 『ゴジュ!』 び!………」

マジックハンドで掴まれた途端、底部をぶりんぶりんと大きく震わせ、両目から涙をダラダラと流す子まりさ。
だが突然、一瞬大きく身を震わせると暴れていた底部の動きが止まり、だらしなく体をぶら下げながら小便をダラダラと溢し始める。
このマジックハンドは、成体の体のサイズに合わせて作られているので、こうした小さなゆっくりを捕獲すると、大抵中身を潰してしまう。
だから小さな赤ゆっくり、子ゆっくりは、皮は破れないものの、その殆どが捕獲時に中身を潰されて息絶える。
俺は汁の漏れる水風船のような子まりさを、回収箱の中に落とした。

ブチャ!

「ゆっひぃぃ!おちびちゃ………」

蓋を開た時に先に入っていた親まりさが何かを呟いたが、すぐに蓋を閉めたのでその言葉は途中で途切れた。
親まりさはどうやら無事我が子と再会出来たらしい。
だがこの箱の中は日中はかなりの温度になるそうだ。
大抵の野良ゆっくりは、回収される頃には暑さで死んでいるらしい。
俺はセミの声を聞きながら、静かになった回収箱の前を後にした。

徒然あき


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