anko2603 ゆっくり退化していってね!10
「ゆひょっほおおおおおおおお!すごくいいわああ!やっぱりおとうさんまりさはさいこうよ!さ!い!こ!う!よおおおおおおおおおお!」
「ゆっ……ゆぐぅ…………ゆぎっ…………ゆぎぃいぃ!…………」
「はいとっかいはっ!ほいとっかいはっ!それとっかいはっ!まりさあああ!あなたのあにゃるはさいこうのとかいはっよっほっほっほっほっおおおおおおおおお!」
「ゆがっ……ゆがぁっ………ゆ゙っ…ゆ゙っ……ゆ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙………………!!」
奇しくもそこは、使われなくなったラブホテルだった。
ゆっくりたちに人間の文字は読めないし、仕事という感覚はまだ一般化していない。
餌を集める狩りと、給料をもらう仕事とはあまりにも異なるのだ。
だから、今飼いありすが野良まりさに熱中している行為と、ここが元ラブホテルであることとは偶然の一致だった。
まりさの上に、二回りも大きなありすがのしかかっている。
薄汚れて帽子も歪んだ片目のまりさに対し、ありすは髪の毛もサラサラででっぷりと太り、飼いゆっくりであるのが一目で分かる。
そもそも、ありすのカチューシャには目立つ位置に銀バッジが付けてある。
これさえあれば、人間に邪険にされることはない。あらゆる野良にとって、バッジとは人間からの最高の贈り物だ。
それは飼いゆっくりにのみ与えられ、野良には未来永劫与えられない。
埃をかぶり、ネズミにあちこちを囓られたソファは、人間ならば座る気になれない粗大ゴミだ。
しかし、二匹にとってそこはベッドだった。
ありすの下半身からは、ぺにぺにが図体にふさわしい極太になって伸びている。
巨大なそれが、なぜかまりさのまむまむではなくあにゃるを貫いていた。
普通あにゃるは排泄をする場所であって、ぺにぺにを挿入する場所ではない。そのためには穴が小さすぎる。
そこにぺにぺにを突き立てられ、まりさは歯を食いしばって痛みと異物感に耐える。
このありすは異端の性癖の持ち主だった。
両性であるゆっくりだが、まりさ種、それもだぜまりさはすっきりや子育てにおいて男性的な役割を果たすことが多い。
少なくともこの片目のまりさは、自分を「おとうさん」だと思っている。植物型にせよ動物型にせよ、妊娠させる方であり妊娠する方ではない。
普通、このようなまりさとすっきりしたいと願うゆっくりは、すりすりしたり自分のまむまむを使うなどしてすっきりする。
しかし、今まりさのあにゃるですっきりしているありすは違った。
ありすは、♂まりさでなければすっきりできないありすなのだ。
それも、♂まりさのまむまむにぺにぺにを挿入する方法では駄目だ。それでは♀まりさとすっきりすることになってしまう。
あくまでも、♂まりさとしてすっきりしたい。♂まりさを自分のまむまむではなくぺにぺにで豪快に犯したい。
ありすの非常にマニアックな欲望は、今こうして叶えられている。
ぶちぶちっと音を立てて、まりさのあにゃるが裂ける。
「ゆ゙ぶぎびぃいぃぃいいぃいい……………………!!」
片目のまりさの食いしばった歯の間から、抑えきれない苦痛の呻きが聞こえた。
痛いなんてものではない。餡子を尻から串刺しにされているのだ。
あまりの痛みにまりさは脱糞するが、それさえも潤滑剤としてありすは動きを止めない。
既に五回もこのありすによって犯されたまりさだが、その度にあにゃるを裂かれて苦痛にのたうち回った。
これが「客」でなければ、大声でわめき抵抗し、逃げ出せるのだが。
少なくとも、もう止めてくれるように哀願することくらいはできる。
まりさには、抵抗することも逃げることも許されていない。哀願は聞き流される。
売ゆん婦となったまりさは、唯々諾々と客の飼いゆっくりのオーダーに答えてあにゃるを差し出すよりほかない。
あまりにも惨めになった自分の姿に、片目のまりさの無事な方の目から涙がこぼれてソファに染み込んだ。
かつての自分と今の自分のギャップは、まりさの心に深い傷を作っていた。
「ぶひょっ!ぶほぅっ!ひょぶっ!いっぐぅ!ゆっぐりいぐわはっは!ぞろぞろいぐわあああああ!ずっぎりいいいいいいいい゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!」
存分にまりさの狭いあにゃるを堪能してから、ありすは大量のカスタードをまりさの中に噴射した。
「ゆげぅ!………ずっ!ずぅ!ずっぎりぃいいいいいいいい!」
カスタードの量と熱さに、まりさの不快感は最高潮に達する。
体内の餡子をぎゅうぎゅうと押し込むカスタードに、必然的にまりさは口を開いて嘔吐しそうになった。
しかし、今吐いてしまっては命に関わる。
まりさは口を閉じ、粗末なぺにぺにから餡子をぼたぼたソファにこぼしてすっきりした。
最初の時とは違い、使い込まれたまりさのあにゃるはまむまむのようにまりさをすっきりへと導く。
「ゆははっ!ゆほほっ!ゆっひゅー!まりさあああ!すっかりいんらんになったわねえええええ!あにゃるですっきりするなんてとかいはでへんたいよおおおお!」
馴染みの売ゆん婦の痴態に、ぺにぺにをあにゃるに差し込んだありすは大口を開けてげらげらと笑った。
ドSの飼いありすは、まりさが堕ちていく様子さえも楽しんでいる。
一回目はあにゃるの痛みですすり泣くだけだった。それでも初物ということでかなり楽しめた。
二回目は子どものように涙を流して慈悲を請うていた。泣き声が実に好みで時間を延長してしまった。
三回目は少々やり過ぎてしまい、しばらく虚ろな目で歌っていたため、治療費として追加料金を取られた。
四回目でようやくあにゃるですっきりできる体にされたことを理解し、泣きながらぺにぺにから出た餡子を舐めていた。
そして今日は五回目。
どれくらい売ゆんが板に付いてきたか、ありすは確かめる。
ぺにぺにを引き抜き、自分の放出した餡子に顔を濡らしている放心状態のまりさにありすは問いかけた。
「まりさぁ!?あなたはどんなゆっくりなの?さあ、おきゃくさまにいってみなさぁい!?」
「は……はい…………。まりざは……ゆぐっ……まりざは……あにゃるで…ずっぎりずる……へんだい…ばいゆん…ふ…でず………」
まりさは律儀にも、ありすの前で頭をソファにすりつけてそう言った。
「ゆっふふぅ!そうよ!そうよおおおお!まりさはへんたいなの!あにゃるですっきりすることしかかんがえない、ありすせんようのすっきりおもちゃなのよおおおお!」
最高だった。
これほどの逸材はそうは見つからないだろう。
飼いゆっくりと野良ゆっくりが、今のような関係になって本当に良かった。
ありすは満足感でいっぱいになって、ソファから降りドアに向かった。
もう、まりさの方に振り向くことさえしない。
「おーなー、ありすのりくえすとにこたえてくれてうれしいわ。そろそろかえるわね」
ドアをくぐると、そこには一匹のまりさがいた。
頭に一本の釘が深々と刺さっている痛々しい姿のまりさだが、本ゆんは痛みを感じていないようだ。
荒れ狂った性欲をすべて処理し、ありすは普段の都会派なゆっくりに戻っていた。
ありすは一匹だけで飼われているわけではない。
家に帰れば、ちぇんとまりさが一匹ずついる。
どちらも、ありすからすれば「とってもおとこまえでとかいは」なゆっくりだ。
二匹のあにゃるを自前のぺにぺにで貫通させまいと、ありすは週に一度ここにきてまりさを買う。
ここで徹底的にリビドーを発散しておかないと、ありすはやがて飼い主によってぺにぺにをちょん切られるに違いない。
ホモゆっくりなど誰が飼いたいだろうか。
「またよろしくおねがいするんだぜ、おきゃくさま」
釘まりさはありすの豹変に眉一つ動かさず、小さく頭を下げた。
「ええ。こちらこそ。またこのまりさをしめいするわ。それじゃあ、こんかいのおだいをはらうわね」
ありすは置いてあったコンビニの袋からどっさりとゆっくりフードを取り出して、釘まりさに渡す。
素早くその数を数え、量、質共に今回の遊びにふさわしい代金だと判断すると、釘まりさは道を譲った。
ありすは足取りも軽く廊下の暗がりに消えていった。
この売ゆん婦たちの元締めである釘まりさは、かつて公園でぱちゅりーの護衛をしていたまりさだ。
もともと釘まりさは人間に刺された釘が元で、中枢餡に異常をきたしていた。
何をしてもゆっくりできないのだ。
甘いものを食べても、ひなたぼっこをしても、かわいいれいむにすりすりされても、ゆっくりできない。
そもそも、ゆっくりしたいという欲求さえ釘まりさは失っていた。
もしあの恐ろしい退化が起こらなければ、釘まりさは「ちょっとへんなまりさ」で一生を終えたことだろう。
だが、この街の野良ゆっくりたちは、個体群密度を減少させるために遺伝餡を変異させ、強制的な退化を引き起こして自滅していった。
周りのゆっくりが「ゆっくりしたいよおお!」と嘆きながら、どんどんゆっくりできない状況に追い込まれていくのを釘まりさはじっと見ていた。
釘まりさには、他の野良ゆっくりたちをむしばむ退化が起こらなかったのだ。
ゆっくりを求めない異常なゆっくりは、ゆっくりしたいというゆっくりの底なしの願いをトリガーに発動する遺伝餡の変化に巻き込まれない。
弱体化して右往左往する野良ゆっくりたちの中にあって、釘まりさは正常な思考を保ったままでいられた。
その結果がこれだ。
今、釘まりさは自分の群れを持っている。
それは飼いゆっくりを主な顧客とした、売ゆんによって生計を立てる奇怪な群れだ。
釘まりさは知りたい。
ゆっくりする、という失ってしまった感覚を知りたい。
ドスまりさのように大きな群れを持ったら、もしかしたらゆっくりできるかもしれない。
釘まりさはそう思って群れを作ったが、期待していた「ゆっくりする」感覚は戻ってこなかった。
群れが大きくなっても、売ゆん婦から長として頭を下げられても、釘まりさは「ゆっくり」を思い出せない。
釘まりさはありすの後ろ姿を見送ってから、部屋に入った。
まだ片目のまりさはめそめそ泣いている。
そんな哀れなゆっくりの姿など見飽きるほど見た。
釘まりさはソファの上にジャンプして乗ると、帽子から先程のゆっくりフードを少量取り出して片目のまりさの前に置いた。
「これはおまえのとりぶんなんだぜ」
ようやく片目のまりさが顔を上げた。
涙と涎と餡子でべちゃべちゃのひどい顔だった。
「もう……こんなの…いやなんだぜ……まいにち…まいにち……あにゃるで……すっきりさせられて…まりさ…くるしいんだぜ…ゆっくりできないんだぜ」
こんな惨めな境遇になってなお、片目のまりさはプライドを捨てきれないでいた。
このまりさは、かつて高級住宅地で群れを率いていたリーダーだった。
人間と共に暮らす飼いゆっくり相手に保育園や話し相手をするという契約を結び、群れを大いに繁栄させてきた有能なリーダーという過去がある。
そんな輝かしい過去は、すべてゆっくりの退化によってぶち壊された。
美しいれいむも、かわいい子どもたちも、カラスが八つ裂きにして殺した。
まりさはいまだにその時の凄まじい光景を夢に見て苦しむ。
自分が築いてきたゆっくりした群れは、野鳥たちの襲撃によってめちゃくちゃになった。
かろうじて生き残った群れのメンバーは、ある日一斉に「おばえなんがりーだーじゃない!おぞらのうえのゆっぐりぶれいずにいぐよぉおおお!」と叫んで自殺した。
残った四匹の子どもの内二匹は嬉々として雑草に食いつき、餡子を口から吐いて命を失った。
死のうとする二匹の子どもを取り押さえ、まりさは街をさ迷う。
いつの間にか子どもたちの自殺衝動は収まったが、もはやまりさに群れを再生する力はなかった。
まりさを慕ってついてくるゆっくりは、子どもたちを除いて一匹もいない。
まりさに子どもたちを預けてくれる飼いゆっくりはいない。
まりさに、自分の飼いゆっくりの話し相手になってくれるよう依頼してくる人間もいない。
血眼になって営業に回ったが、すべて無駄足だった。
まりさは理解していない。
もう、飼いゆっくりにとって野良ゆっくりは同朋ではなくなったのだ。
自分で群れを持つことを諦めたまりさは、こうなったら副リーダーでもいいと思ってこの群れに自分を売り込んだ。
「まりさはもともとりーだーだったんだぜ!まりさといっしょならむてきなんだぜ!みんなをいっぱいゆっくりさせてあげられるんだぜ!たすけてあげるからよろしくなんだぜ?」
かつて一つの群れを繁栄させたリーダーが、副リーダーになって補佐してやろうと言っているのだ。
これが袖にされるはずがない。まりさは確信していた。
しかし、頭に釘が刺さった不気味なまりさは、副リーダーのれいむと一緒にゆっくりフードを数えていた舌を一瞬休めて、こう言っただけだった。
「………まにあっているんだぜ。ばいゆんふのへやがひとつあいてるから、そこにいくんだぜ。それがきょうからおまえのしごとなのぜ」
つまらなそうに釘まりさは言うと、すぐまたゆっくりフードの配分に戻る。
「ゆっ…ゆぴぷぺっぽおおおおおっ!?どぽぴぺっ!どぼじでっ!どどどどぼじでぇぇぇ!?ばいゆんっ!?ばりざがっ!?ばりざがばいゆんふなのぜっ!?なんでぇぇえええええええ!?」
片目の元リーダーまりさは絶叫した。
売ゆん婦。狩りができない駄目なゆっくりが最後にする、自分の体を売って餌をもらう最低のゆっくり。
元リーダーまりさは売ゆん婦をそう思い込んでいた。
自分が蔑んでいた売ゆん婦になるのか?この、かつて一つの群れを最高のゆっくりに導いたリーダーまりさが?よりによって売ゆん婦に?
元リーダーまりさは、予想とあまりに違う展開にパニックに陥った。
「うぞだっ!ぞんなのっ!おがじいっ!ばいゆんやだっ!やだっ!じらないゆっぐりどずっぎりじだぐないっ!ばりざはりーだーだっだ!りーだーだっだぁぁぁぁぁ!!」
リーダ、リーダーと大声で連呼する元リーダーまりさに、釘まりさは背を向けた。
「このむれはもうりーだーとか、おさとか、えーすとか、たいちょうとか、そんなゆっくりがいっぱいいるんだぜ。そんなのより、はたらきてのほうがずっとひつようなんだぜ」
元リーダーまりさは釘まりさの前から引きずり出され、売ゆん婦としての日々が始まった。
すぐに元リーダーまりさは現実を目にした。
元群れのリーダーだったれいむ。
元群れの長だったぱちゅりー。
元群れのエースだったまりさ。
元群れの隊長だったありす。
一つの群れを率いていたゆっくりたちが、この群れにはごろごろいる。
みんな、自分の群れが壊滅してあぶれたゆっくりばかりだ。
リーダーの大安売りである。
こんなにたくさんリーダーがいても、混乱するだけなのは目に見えている。
元指導者だったゆっくりたちは、釘まりさの一存によって全員売ゆん婦として客を取らされていた。
「まりざは……りーだーだっだんだぜ……ゆうのうだったんだぜ…なんで…ごんなごど……やらぜるんだぜ…………」
もう何度目になるのか分からない問いを、元リーダーまりさは釘まりさに問いかける。
ただの現実逃避だ。
過去の栄光にすがり、現実を否定する妄言でしかない。
「このむれははたらきてがひつようなんだぜ。それがりゆうなのぜ。もうなんどもいったのぜ」
釘まりさのうんざりした、という物言いに、元リーダーまりさは涙をぼろぼろこぼして抗議する。
なりふり構わない顔付きは、とてもかつて一つの群れの長だったとは思えない。
これだけ現実を突きつけられても、まだ元リーダーまりさはかつての栄光に返り咲く希望を捨てられない。
しつこく釘まりさにすがり、めちゃくちゃな要求をする。
「うがああああ!だっだら!いまのりーだーをぐびにじで!ぐびにじで!ぐびにじでええええ!ぞじで!ばりざをざいようじで!ざいようじでええええ!」
挙げ句の果てに言ってきたのは、今いる副リーダーを首にして自分を採用するようにとの提案だった。
釘まりさは惨めったらしい元リーダーまりさから一歩退く。
「きょうみないのぜ。べつに、いやだったらここをでていってもいいのぜ。おまえのこどもをつれてどこにでもすきなところにいけばいいのぜ」
「ゆぐぅぅう!おぢびぢゃん……おぢびぢゃんをぉぉぉ…………」
嫌なら子どもを連れて出て行け。
いつもの殺し文句だ。
あれだけわめいていた元リーダーまりさは、そう言われると返す言葉がないらしく黙った。
もはや元リーダーまりさに行く場所はない。
飼いゆっくりはもう、野良ゆっくりをお仲間として扱ってくれない。
かつての野良ゆっくりの群れは、人間で言うところの村に近かった。
今の野良ゆっくりの群れは、まるでヤクザだ。
すっきりを売り物にする売ゆん、依存性のある小麦粉を使ったクスリ、サイコロ賭博が盛況を極めるカジノ、炭酸飲料をアルコール代わりにするキャバクラ。
あらゆる方法で、野良ゆっくりは飼いゆっくりを顧客に商売をしている。
支払いのゆっくりフードを少しでも多く取ろうと野良ゆっくりたちは血眼になり、毎日のように抗争でゆっくりが鉄砲玉となり命を散らす。
変わり果てた街の野良ゆっくりたちの勢力争いに、元リーダーまりさは到底ついて行けない。
ここで売ゆん婦をするしか、生きる道はない。
「おまえのこどものためにも、がんばってはたらくのぜ。こどもがおおきくなったら、もっとかせげるしごとにつかせればいいんだぜ」
ゆっくりすることを忘れた釘まりさには、家族の愛情もよく分からない。
一見すると釘まりさは元リーダーまりさを慰めているように見えるが、実際は違う。
こう言えば、子持ちのゆっくりは言うことを聞くと経験則に基づいて言っているだけだ。
「ゆぐっ……ぐずっ…………ゆわぁぁぁぁぁあああああん!ゆわぁあああん!ゆぇぇぇええええええええええええん!!」
八方塞がりな状況に耐えきれなかった元リーダーまりさがしたことは、赤ゆっくりのように泣くことだけだった。
わんわんと元リーダーまりさは涙で皮がふやけるまで泣く。
その姿には、誇りと呼べるものが何一つなかった。
これからも元リーダーまりさは、あのありすの相手をさせられるだろう。
その度にあにゃるを引き裂かれ、痛みにのたうち回りながらすっきりすることだろう。
自分のゆっくりできない将来を克明に思い描き、まりさはソファの上で転げ回って泣く。
「つぎのきゃくがくるまでたいりょくをかいふくさせておくんだぜ。きゃくをまんぞくさせなければ、おきゅうりょうはもらえないのぜ」
元リーダーまりさの苦悩など、釘まりさにはどうでもよかった。
群れのリーダー、売ゆん組織の元締め、組の親分である釘まりさには片づけなければならない問題が山のようにある。
一匹の売ゆん婦の葛藤など、道ばたのうんうんと同程度にしか感じない。
釘まりさが出て行ったにも気づかず、元リーダーまりさはひたすら泣き続けていた。
別の部屋には、元リーダーまりさの子どもたちがいる。
無論、父親の帰りと稼ぎのゆっくりフードを心待ちにゆっくりとしているわけがない。
かつての群れでは、必要最低限のルールを覚えることと飼いゆっくりと仲良く遊ぶことだけが、赤ゆっくりに求められていることだった。
それさえできれば、十分ゆっくりしている赤ゆっくりとして両親に大切に育てられていた。
この群れでは違う。
赤ゆっくりといえど、いや赤ゆっくりだからこそ、満たせる需要というものが確実にあるのだ。
「おちびぢゃああああああん!れいむどずっぎりじようねええええええええ!ずっぎりずっぎりぃぃいいいいいい♪」
部屋の中には一匹の飼いゆっくりのれいむがいる。
普通の成体ゆっくりに比べてやや小柄なれいむだが、それでも赤ゆっくりに比べれば巨人ならぬ巨ゆんである。
れいむは二匹の赤ゆっくりを追い回していた。
赤れいむと赤まりさ、つまり元リーダーまりさの子どもたちも父親と同じく売ゆん婦だった。
栄養を実ゆっくりに吸い取られて死ぬことを除けば、赤ゆっくりでもすっきりできる。
だが、普通ゆっくりはすっきりする理由として、すっきりできる快感以外にも「かわいいおちびちゃんをみてゆっくりしたいから」という理由を挙げる。
いくらすっきりできても、子ゆっくりが産まれなければ意味はないのだ。
けれども、どんな世界にも例外はある。
すっきりしたいけれども、子どもはほしくないというもの。
とにかくすっきりだけが何でもいいからしたいというもの。
もっとマニアックに、赤ゆっくりにすっきりしたいというもの。
通常のゆっくりからすれば異端の性癖だが、飼いゆっくりにこの傾向は意外に多い。
人間に飼われ、自由にすっきりできず、悶々とリビドーだけがたまっていく飼いゆっくりは、時に異常な性欲をかいま見せるのだ。
その禁忌のすっきりが、この群れでは代価さえ払えば好き放題に発散できる。
飼い主に「あかちゃんゆっくりとおもいっきりすっきりしたいよ!」なんて言えばどん引きされるが、ここでは誰も咎めない。
むしろ、好き者のゆっくりとして、趣向に合致した売ゆん婦が提供されるのだ。
すっきりの恐怖で涙を流し、かわいい悲鳴を聞かせてくれる赤ゆっくりたちを買うことができる。
「ゆんやあああああ!やじゃああ!しゅっきりちたらちんじゃうよおおおおお!」
「やめちぇにぇ!れいみゅおばしゃん!やめちぇにぇええええええええ!」
「はあああああ!?えいえんの せいごさんしゅうかん のれいむをおばさんっていったなあああああ!?くちのききかたをしらないがきがあああああああ!!」
おばさんという言葉が禁句だったらしく、それまでれいぱーありすの顔をしていたれいむが野獣の顔に変わる。
赤ゆっくりの脚力などがたかが知れている。
その気になれば、あっさりと追いついて事に及ぶことができる。
でも、豪華なディナーにアペリティフがつくように、順番というものがあるのだ。
まずは、いっぱい赤ゆっくりに恐怖と絶望を味わってもらう。
初っ端から一方的にレイプしてしまっては、あっさりと赤ゆっくりの心は折れて楽しかった過去の日々に逃避してしまうのだ。
そうなっては、いくら犯しても反応はない。
「ゆひっ…ゆひひっ……」と虚ろな目で笑うようになっては面白くない。
追いかけっこで赤ゆっくりたちが疲労困憊し、迫り来る恐怖に為す術もなく震えるのが見たいのだ。
だが、よりによって二匹はれいむのことを「おばさん」と言った。
もう遊びは終わりだ。
れいむは一回のジャンプで逃げる二匹に追いつき、その勢いのままタックルを食らわせた。
「ゆびっ!」
「ゆべっ!」
赤ゆっくりはひとたまりもなく吹っ飛ばされ、部屋の隅にぶつかってころころと転がった。
目を回している隙に、れいむは飛びかかる。
すでにその頬はすっきりの際に分泌される粘液でぬめっている。
「おまえたちはれいむがかったんだよおおおおおおお!だからすきにつかっていいんだよおおおお!ゆぶひひひぇひぇひぇぇええええ!」
れいむは赤れいむと赤まりさを壁と自分との間に挟み、猛烈な勢いで頬を擦りつける。
赤ゆっくりの脆さなど、もう思考の端にさえ留めていない。
ぎゅうぎゅう押しつける度に悲鳴を上げる二匹の声が、中枢餡を振るわせて気持ちがいい。
「ゆげっ!ゆぎぃ!いぢゃい!いぢゃいよおおおお!くりゅちい!れいみゅちんじゃう!ちんじゃううううう!」
「まりちゃいぢゃい!まりちゃちゅぶれりゅ!ちゅぶれりゅ!ちゅぶれりゅうううううううううううううう!」
一方赤れいむと赤まりさには苦痛しかない。
れいぱーのような顔で迫ってくるれいむの顔が恐ろしい。
べたべたの頬がくっつけられ、大事なリボンや帽子が粘液まみれになっていくのが気持ち悪い。
何よりも、大人のゆっくりにのしかかられ体中が痛い。
「ゆっはああああああ!いい!いいよいいよきたよきたよおおお!おちびちゃんにすーりすーりするとすごくすっきりできるよおおおおおお!」
「ゆぶうぇええええ!もうやじゃああ!くりゅちいよお!きもちわりゅいよおおおおお!おとうしゃああああん!」
「たしゅけちぇええええ!おとうしゃああああん!おとうしゃん!おとうしゃん!おとうしゃあああああああん!」
「もうとまらないよおおおおお!とまれっていってものんすとっぷだよおおおおおおお!ふぃぃぃばぁぁぁあだよおおおおおおおお!」
自分だけ快感に酔いしれているれいむ。
二匹はあまりの恐ろしさに、ここにいない父親に助けを叫んだ。
気持ち悪い、痛い、恐い。
助けて!助けてお父さん!かわいいれいむとまりさを助けて!
しかし、二匹の父親は今別の部屋でめそめそ泣いていて、赤ゆっくりたちの声は届かない。
れいむの口から長い舌が伸びて、泣きわめく赤れいむと赤まりさの顔をべろべろと舐め回す。
愛情のこもったぺーろぺーろでは断じてない。
二匹を飴玉程度にしか思っていないただの味見だ。
「べーろべぇぇろぉぉぉ!ゆぴぴっ!おちびぢゃぁんのなみだがおいちいっ!ゆっくちできりゅよぉおおおおお!もっどぢょうだいねぇええええ!ぶぇぇろびぇぇろおおお!」
「ゆげぇぇっ!ぎぼぢわりゅいよぉ!やべぢぇにぇ!ぺーろぺーろやめぢぇ!あんごじゃん!れいびゅあんごじゃんはいぢゃう!ゆぶげぇぇぇ!」
「れ、れいびゅぅぅうううう!やめちぇ!れいびゅ!くりゅちがってりゅ!いちゃがってりゅ!やめちぇ!もうやめちぇぇぇえええ!ぶべぇぇえ!」
不快感と苦痛が限界を突破し、赤れいむは体を痙攣させながら口から餡子を吐く。
それを見た赤まりさは必死にれいむに止めるように懇願したが、れいむが聞き入れるはずがない。
もみあげを振るわせて餡子を吐く赤れいむに、赤まりさは自分も気持ち悪くなったようで、同様に餡子を口から吐き始めた。
ゲロとなった餡子を顔に浴び、ご褒美といわんばかりにれいむはさらに動きを激しくする。
「ゆひぇひぇひぇえええええ!おちびちゃんとすっきり!すっきり!すっきりできるよ!れいむが!れいむがすっきりしてる!してるううううううう!」
れいむは、自分がすっきりしているという事実自体に快感を覚えていた。
こんな小さな赤ゆっくりと、大人の自分がすっきりしている。
その事実に打ち震えて、れいむは体を大きく突っ張らせて天を仰ぎ咆哮した。
「さいっこうっのか☆いっ☆か☆んっだよおおお!すっっっっきりぃいいいいいいいいいいいいい!」
「ゆぶぇ…………ちゅっきりぃいいいいいいいい!」
「ゆぎぇ…………ちゅっきりいいいいいいいいい!」
ゆっくりは一方がすっきりすれば、いくら快感を感じていなくてももう一方もすっきりする。
れいむに潰され、粘液と餡子でぐちゃぐちゃになった赤れいむと赤まりさは白目をむいてすっきりした。
最悪のすっきりだったにもかかわらず、結果はきちんと結実する。
床に平たく突っ伏した赤れいむと赤まりさの額付近から、するすると小さな茎が伸びてきた。
見る間に、赤れいむと赤まりさの体を濡らしていた粘液が饅頭皮を通じて体内に吸収される。
粘液は要するに糖分をふんだんに含んだシロップであり、小さな赤ゆっくりにとっては体内の餡子以外の貴重な栄養である。
しかも、赤ゆっくり同士のすっきりではなく、相手は大人のゆっくりだ。
大量の粘液は、二匹の命を奪うことなく実ゆっくりを形成することを可能にする。
赤れいむと赤まりさの茎に、それぞれ三つずつ実ゆっくりが実った。
まだ帽子もリボンもできていないけれど、目を閉じてにっこりと笑った口元を見れば、素敵なおちびちゃんになるのはすぐに分かる。
こんなレイプ紛いのすっきりによってできた命でありながら、実ゆっくりたちは誕生できたことを心から喜んでいた。
かわいらしい実ゆっくりの笑顔に、半死半生だった二匹の目に光が戻った。
「ゆぁ……あかちゃん…だにぇ………れい…みゅ…おかあしゃんに……なっちゃよぉ……うれちい……にぇ……」
「かわいい…にぇ………しゅごく………あかちゃん……まりちゃの…まりちゃの…かわいい…あかちゃん……」
あれほどひどい扱いを受けたにもかかわらず、二匹は新しい命に笑いかけた。
子どもに罪はないとか、そういう高尚なことを考えているのではない。
単に、自分がゆっくりした親になれたことを赤まりさと赤れいむは喜んでいた。
その歓喜はすぐに踏みにじられる。
「ほーら、ごーしごーしだよ、おちびちゃん。あかちゃんができたらしんじゃうからね」
れいむはすっきりの後始末も忘れていなかった。
子持ちでは売ゆんがやりにくくなるし、何より赤ゆっくりが子供を産むことは不可能だ。
今はかろうじて生きているが、やがて実ゆっくりが成長するにつれて衰弱し、最後には黒ずんで死ぬに違いない。
そうなれば、れいむは追加料金を払わなくてはならなくなる。
何よりも、もう二度とこの二匹で遊べない。
「やじゃぁ………れいみゅ…の…あかちゃ…ん。ころしちゃ……やじゃぁぁあ…………」
「まっちぇにぇ……まりちゃ…あ…か…ちゃん……そだてりゅ……よ…………」
れいむは二匹をくわえると、壁に額を擦りつける。
実ゆっくりが実った茎を根本から折ろうというのだ。
その事が分かった赤れいむと赤まりさは弱々しく抵抗するが、抗うことはできない。
茎が曲げられ、餡子の供給が滞る。
実ゆっくりにとっては、突然の危機だ。
「ゆ?」「ゆぇ?」と実ゆっくりの口が動いているが、声は聞こえない。
どの顔も目を閉じたまま、わけの分からない恐怖と不安に体を小さく震わせている。
「ゆふふふ、れいむはやさしいね。ごーしごーししてあげるよ。ごーしごーし!ごーしごーし!とれたよ!」
間引きに要する時間はほとんどなかった。
赤れいむと赤まりさの額から伸びた茎は根元から折れ、床に落ちた。
生まれたばかりの実ゆっくりの中には、ほとんど餡子が詰まっていない。
茎が折れ、餡子が親から流れなくなった今、実ゆっくりたちに生きる時間は残されていない。
「ゅ………ゅぁ…………ぁ……」
「ゅっ……ゅぅ…ぇ……………」
小さな声だが、実ゆっくりにとっては全力の悲鳴だった。
床に落ちた茎は、見る見るうちに萎びていく。
実っていた実ゆっくりも、それと同様の運命を辿る。
「あ……ああ……れいみゅ……の……あかちゃん……ごめんにぇ………ごめんにぇ…………」
「まりちゃ…おとおしゃん……なれなかっちゃ…………ひどいよぉ……にゃんで…にゃんでぇぇ…………」
二匹の目の前で、二匹の大事な実ゆっくりは黒ずんで死んだ。
半開きに口を開いたもの。小さな小さな歯を食いしばったもの。虚ろに口を開けたもの。
実ゆっくりたちの口はいずれも、生まれたくても生まれられなかった苦しさを訴えていた。
悲惨な光景に、二匹はぽろぽろと涙をこぼして死骸にすりすりする。
かさかさに乾いて弾力のない感触は、二匹に実ゆっくりたちの死の苦しさを伝える。
「ゆっふー!すっきりしたらおなかがすいてきたよ。それじゃあまたくるからね、おちびちゃんたち!ゆっくりげんきでね!」
号泣したくても、二匹に体力は残されていない。
すすり泣く二匹を後にして、れいむは意気揚々と部屋を出て行った。
部屋の外には釘まりさがいた。
人間の落とした腕時計を持っている釘まりさには時間が分かる。
そろそろ制限時間だと伝えに来たところだった。
「もうじかんなんだぜ」
「そうだね。おうちにかえらないとおねえさんがしんぱいするからね。まりさ、これはおだいだよ」
赤ゆっくりたちの前で見せた鬼畜な振る舞いなど嘘のように、れいむは穏やかな飼いゆっくりの顔に戻っていた。
頬袋かられいむはゆっくりフードを出して釘まりさの前に置いた。
「まいどあり、なんだぜ」
道を譲った釘まりさに、れいむはさらに話しかけた。
「ありがとうね、まりさ。こんなところがなかったら、れいむはとっくのむかしにおかしくなっていたよ」
れいむの顔を釘まりさは見る。
弱いもの虐めがしたくてここに来たゆっくりの顔ではない。
すっきり制限が設けられ、性欲がたまったゆっくりの顔でもない。
赤ゆっくりにしかすっきりできないタイプのゆっくりの顔とも言えない。
あえて言うならストレス解消に来たゆっくりの顔だが、それにしては達観している。
ストレス解消のゆっくりは、もっとぎらぎらと快楽に飢えた顔をしているのだ。
「どういういみなんだぜ?」
真意が分からず、素直に釘まりさはれいむに尋ねた。
「れいむはおうちでおねえさんといっしょにくらしているけど、おねえさんはゆっくりしたくてもできないかわいそうなひとなんだよ。びょうきなんだよ」
れいむは釘まりさに自分の飼い主のことを話した。
れいむの口調は先程までの荒れた様子からは想像もつかない、朴訥として田舎っぽい感じの喋り方だった。
ゆっくりの語彙が少なく擬音が多い話し方では分かりにくいが、簡潔にまとめるとこうなる。
れいむの飼い主の女性は、重度のうつ病だった。
彼女を励まし、できることなら一緒に遊んだり話し相手になってあげるために、れいむはペットショップで彼女の両親に買われた。
れいむは銀バッジだが、人間が好きというペットとして最適の性格をしていた。
たとえうつ病でゆっくりできなくなった飼い主でも、れいむは馬鹿にしたり蔑むことはない。
ともすれば自分が主人で飼い主を奴隷のように扱う飼いゆっくりもいる中で、れいむは飼いゆっくりとして素晴らしい素質を備えていた。
だが、ゆっくりにはやはり荷が重い。
飼い主のゆっくりしていない雰囲気には、どうしても慣れることができない。
内心の鬱屈とした思いを隠して、家では明るく振る舞わなければならない。
誰からも愛される、ちょっとドジで天真爛漫な飼いゆっくり。
それが、れいむに常に求められたペルソナだった。
「れいむはおねえさんがだいすきだよ。でも、ときどきゆっくりしてないじぶんにきづいてあたまがおかしくなりそうになるんだよ。そんなときはここにいくんだ」
れいむは今の境遇を不幸だと思ってはいない。
本心から、飼い主のことを好いている。
ゆっくりできない病気にかかった、かわいそうな人だと思っている。
自分にできることなら、全力を尽くして飼い主をゆっくりさせてあげたいと願っている。
しかし、いつも全力投球で人間のために尽くしていては、れいむのゆっくりはなくなってしまうのだ。
ゆっくりしていない自分を直視したら、きっとれいむは壊れてしまうことだろう。
発狂して狂ゆとなってしまうのか、それとも飼い主に暴言を吐いて自殺を誘発させ、遺族によって潰されてしまうのか。
れいむは何よりも、飼い主が悲しそうな顔をするのを見たくなかった。
だから、ストレスが鬱積し、自己嫌悪に押し潰されそうになった時、れいむはここに来る。
ここでなら、「かわいいれいむちゃん」「優しいれいむちゃん」「いい子のれいむちゃん」「ちょっとお馬鹿なれいむちゃん」でなくていい。
思う存分、快楽に溺れられる。好き放題に振る舞い、これでもかと外道で鬼畜で下品なことができる。
失われていたゆっくりが、餡子の中に再び染み込んでくるのをれいむは感じていた。
ここは、れいむにとっての生命線だった。
「だから、ありがとう。にんげんさんにくじょされないでね」
「だいじょうぶだぜ。れいむたちがかいぬしさんをよろこばせていれば、ここはあんたいなんだぜ」
今や釘まりさの群れは一大売ゆん組織として、飼いゆっくりたちの間で知れ渡っている。
すっきりしたければ頭に釘が刺さったまりさの群れに行け。ゆっくりフードと交換でいっぱいすっきりができる。
このメッセージの効果は強烈だった。
性欲を持て余して不機嫌になることなく、飼いゆっくりはいつまでも人間に好かれるかわいいゆっくりでいることができる。
新しい共存共栄の道が、野良ゆっくりと飼いゆっくりとの間に築かれていた。
徹底した弱者の搾取で成り立つ関係である。
莫大な富(ゆっくりフード)を独り占めにし、それを現金代わりに支払うことによってちやほやされるバッジ付きの飼いゆっくりたち。
自然界に存在しない人工の餌を飼いゆっくりたちから頂戴する方法を模索し、ありとあらゆる商売をする野良ゆっくりたち。
かつての牧歌的なゆっくりの群れは、もうこの街にはない。
あるのは、ゆっくりフードを巡って火花を散らす仁義なき野良の群れだけだ。
弱肉強食の世界について行けない野良ゆっくりたちを待っているのは、他の野良ゆっくりによる搾取のみである。
釘まりさは、とてもゆっくりした様子で帰っていくれいむの後ろ姿を見送りつつ思った。
恐らく、自分は一生ゆっくりすることはないだろう。
頭に釘を刺され中枢餡が壊れたその日から、自分からゆっくりは永久に失われたのだ。
だが、それが逆に釘まりさを修羅場から生還させた。
ゆっくりを求めない釘まりさのやり方は、他のゆっくりとは違ってシビアなものだ。
厳しい街の勢力争いの中で、体を張って生きていくのは好都合の性格と言えるだろう。
実際、釘まりさの群れは街で着実に勢力図を広げつつある。
協力するゆっくりにはお菓子を配給し、刃向かうゆっくりには罰を与える。
特に処刑のやり方に、釘まりさは力を入れていた。
釘まりさが多用するのは生き埋めだ。
あんよを食い破られて動けなくなったゆっくりの上に、大量の土をかぶせて生きたまま埋めてしまう。
重い罪を犯したゆっくりはこうやって公開処刑し、群れの風紀を引き締めている。
もしかしたら、釘まりさはただの中枢餡に傷害を負ったゆっくりではないのかも知れない。
もし、その釘が中枢餡を傷つけたことにより、ゆっくりの秘められた可能性を解き放ったとしたら?
思い込みの力で動く生きた饅頭であるゆっくりを、さらに別の思い込みの力で変質させていたとしたら?
ゆっくりを捨(すてる)境地に達してしまった釘まりさは、新たな血族とでも言うべき存在になってしまったのか?
釘まりさの頭に釘を刺した誰かは、それさえも見越していたのだろうか?
たとえそうであっても。
今の生き方こそが、釘まりさを今日まで生き残らせたとしても。
ゆっくりを失ったことにより、新種に近い存在に進化していたとしても。
やはり、釘まりさにとって「ゆっくり」とはどこか捨てがたいのであった。
ほんの少しだけ、釘まりさはれいむが羨ましかった。
***
パソコンのフォルダを俺はチェックしていた。
ここ数ヶ月間の、街のゆっくりたちの移り変わりが写真という形で残されている。
全国で最初に公式に観測された、ゆっくりの退化と自殺。そして再生。
俺は幸運にも、その一部始終をA主任と一緒に見届けることができた。
小さなコラムに過ぎない扱いだったが、幸い思ったよりも俺の記事に反響はあった。
特に面白かったのは、M市とこの街を比較したことにより、ゆっくりんピースの愛護が裏目に出たことを明かしてしまったことだろう。
俺の記事に抗議する連中は今のところいないが、ゆっくりんピースは妙なことになっている。
これからのゆっくりの愛護の方法を巡って、ゆっくりんピースは内部で分裂しているらしい。
下手に繁殖を奨励するとかえって危険ということで、野良に去勢や避妊もするべきだという派閥。
自分たちがゆっくりを愛でたいから、そんなかわいそうなことはできないという派閥。
単にゆっくりを通じて利益を得たいだけで、一連の騒動には無関心の派閥。
三つの派閥で毎日激しい議論が続いていると聞いた。
いつ決着がつくのかは知らないが、案外これを機に新しい組織が生まれるかも知れない。
ディスプレイには、集団自殺以後の街のゆっくりたちが映し出されている。
今年の夏は雨が多く、満足にねぐらも見つからない野良ゆっくりたちにとってはあまりにも残酷な季節だった。
もう何度も、水はけの悪い場所で集団で死んだゆっくりたちを写真に撮ってきた。
水が周囲から流れ込み、足がふやけて動けなくなりながら徐々に死んだのだ。
最後の最後まで逃げようとあがき、歯を地面に突き立てて死んだまりさ。
何を思ったのか、ぺにぺにを立たせて息絶えたありす。
頭にどろどろに溶けた赤れいむを乗せ、絶望の表情を焼き付けて動かなくなったれいむ。
どれも、ゆっくりしたいと全身全霊で願いながら、叶わなかった悔しさで顔を歪ませている。
「こんなのもあったな…………」
一枚の写真には、ビルの間にある廃屋の奥が映っている。
錆び付いたクーラーの陰に、ゆっくりの巣らしきものがあった。
そこで、二匹の赤ゆっくりが死んでいる。
白いカビに覆われた汚らしい死体だった。
リボンと帽子がなければ、その辺のゴミと区別が付かなかったことだろう。
赤まりさと赤れいむだった。
おそらくほかの野良ゆっくりたちに難癖を付けられたのだろう。
二匹の体はこれでもかと痛めつけられた痕があった。
二匹の巣はうんうんが汁粉のようにまき散らされていた。
足が傷ついていたからか、あにゃるが引き裂かれたからかは分からない。
人間には分からないが、ひどい悪臭だっただろう。
二匹は糞尿まみれになって死んだのだ。
死因はカビか、餓死だろう。
どちらにせよ、ひどく苦しんで死んだのは間違いない。
二匹はぴったりと寄り添っている。
頬と頬がくっついていることから、最後の瞬間まですーりすーりしていたことが分かる。
ちょっとでも、誰かに触れてゆっくりしたい。
その必死な願いが伝わってくる。
願いも空しく、二匹は少しもゆっくりできないで死んだ。
赤まりさと赤れいむの顔は泣いていた。
カビと泥とうんうんにまみれた汚い顔は、涙を流したまま固まっている。
最後の瞬間まで、二匹はゆっくりできない悔しさと悲しさで泣きながら死んだ。
ゆっくりを望んで生まれながら、すべてのゆっくりを奪われてこの世を去ったのだ。
次の写真には弱ったぱちゅりーが映っていた。
両目の部分にミイラ化した子ぱちゅりーの死骸を埋め込まれた状態で、生クリームを吐いてのたうち回っていた。
きっと、暇な虐待愛好家に面白半分で両目を抉られ、死体を突っ込まれたのだろう。
腐敗した死骸を体に入れられたのだ。中の生クリームを直接カビに犯され、想像を絶する苦しみを味わったことだろう。
しきりに何かに謝っているようだったが、あれでは長くない。
たぶん次の日には、自分の口から吐いた生クリームで窒息しているに違いない。
死。死。死。死。死。死。
死しかない。
この街に住む飼いゆっくりを除くすべてのゆっくりに、死が容赦なく訪れていた。
雨が降り、道路の側溝に水が流れる。
それと同じくらい自然に、数多くの野良ゆっくりたちの命が無惨に奪われる。
しかし、ゆっくりの数は着実に増加しつつある。
圧倒的な繁殖力が、脆弱なゆっくりの身体を上回ったのだ。
足りないゆっくりを補うかのように、野良ゆっくりたちはこぞって番になり、せっせとすっきりに励む。
生まれてくるのは、程度の差こそあるが日光に耐え、雑草を食べ、野生動物に襲われないゆっくりたちだ。
野良ゆっくりの世代交代は早い。
すぐに、かつてゆっくりが日光を恐れ、雑草を食べて命を落とし、カラスに襲われ、挙げ句の果てに集団で自殺したことを知らない世代のゆっくりだけになるだろう。
無計画なすっきりと、野良を駆除することに関心がないこの街の気風。
二つが合わさり、やがて街がゆっくりで埋め尽くされることは確実だ。
そして再び、調整が始まる。
増えすぎたことを中枢餡が感知し、ゆっくりたちはたちまち脆弱になっていく。
死ぬことを、死んで数を減らすことのみを目的とした、遺伝餡による間引き。
これからも、街が野良ゆっくりの駆除に本腰を入れない限り、このサイクルは続くだろう。
ゆっくりはどんなにがんばっても、優れた種として進化できないらしい。
人間は猿から進化し、知能と文明を手にした。
しかし、ゆっくりはどうだろう。
なにもゆっくりは手に入れていない。
いつまでたっても、ゆっくりは世界で一番脆弱な動く饅頭の地位から這い上がることはできない。
ゆっくりは最初から、救いようのない存在なのだ。
俺は、そんな最底辺の饅頭に関心がある。
ゆっくりが生きようとあがき、ゆっくりを求めて奔走し、大事なものを守ろうと誓い、わずかのゆっくりを見つけて幸福になる様子を文章にしたい。
それだけではない。
ゆっくりが生に執着しながら命を奪われ、ゆっくりが手に入らず嘆き悲しみ、大事なものを失って発狂し、わずかのゆっくりを巡って醜く争う様子をカメラに収めたい。
もうしばらく、俺はゆっくり専門のジャーナリストでいることだろう。
俺は少しの間考えてから、あの赤ゆっくり二匹の死骸が写っている写真を選んだ。
「街に生きるゆっくりたちの日々」と打ち込む。
次に出版社に持ち込む原稿の表紙だ。
さあ、今度はどんな内容にしようか。
心温まる都会の片隅のゆっくりした物語か、鳥肌が立つような無惨で凄惨な物語か。
俺は改めてディスプレイに向かい、記事の内容を考え始めた。
(終わり)
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