anko2451 ゆっくり退化していってね!7

Last-modified: Wed, 03 Aug 2016 20:27:22 JST (2814d)
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anko2450 ゆっくり退化していってね!6

長女れいむと長女まりさを失ったまりさとれいむは、残された赤ゆっくりを連れて河原を訪れていた。
ちょうど空が曇ってきたので、日光を気にせずに道路を進むことができる。
恐いのは鳥やネズミだけだが、あの駅前での襲撃以来ゆっくりは集団で行動することがなくなったため、鳥たちも大挙して襲うことはない。
ゆっくりしないで周囲を常に警戒していれば、とりあえず外に出ることくらいはできる。
外出できたからといって、まりさたちに救いがあるわけではないのだが。

河原は、地獄の釜の底と化していた。
かつては楽しくみんなでゆっくりできた場所は、以前カラスによってゆっくりの公開処刑場にされた。
今河原は、急遽ゆっくりたち限定の自殺の名所になってしまったようだ。
あらゆる種類の野良ゆっくりたちが先を争って川に飛び込み、楽に死ねずもがき苦しんでいる。

まりさたち一家は、死んだ目で一部始終を見ていた。
まりさとれいむの目には何の感情もなく、苦しみながら死んでいく同族を見ても視線を逸らそうともしない。
赤れいむと赤まりさも同様に、両親に寄り添いながら虚ろな目で自分と同い年のゆっくりが自殺するのを見ている。
もはや、心が死んでいるのだ。
生きようとする意欲が、朝日を浴びた霧のように霧散していく。

「みんな……ゆっくりしていないね…………」
「ゆっくりしたいんだよ……ほんとは…………」

まりさの空虚なつぶやきに、番のれいむは甲斐甲斐しく反応した。

「どうして…こんなことになったんだろうね…………」
「れいむには…わからないよ…………」

分かるわけがない。
ゆっくりすることしか望まず、ゆっくりすることしか眼中にないゆっくりは、自分たちがどうしてこうなったのか理解することなどできない。
人間に駆除されず、無計画なすっきりの果てに増えすぎたのが元凶だった。
個体群密度が限界を突破し、ゆっくりの遺伝餡は周囲一帯のゆっくりの数を激減させることを選んだ。
その結果が、どうあっても死ぬしかないゆっくりの退化だった。

「かなしいね…………」
「かなしいね…………」
「れいみゅも…かなちいよ……」
「まりちゃ……かなちいのじぇ…」

己の体と餡子に起こった変化を知るよしもなく、まりさは嘆く。
れいむと赤ゆっくりたちも、一緒にすりすりしながらまりさの悲しみに応じた。
不思議と、一家は落ち着いていた。
だが周囲は狂乱そのものだった。

「いやじゃああああああああ!れいみゅちにちゃくにゃい!ちにちゃくにゃいよおおおおおおおおお!」
「おぢびぢゃあああああん!じぬよ!いっじょにじぬよ!じねばゆっぐりでぎるよおおおお!」

親れいむが赤れいむを無理矢理引きずって、川に飛び込もうとしている。
赤れいむは周囲の雑草に食いついて抵抗するが、成体のゆっくりの力にはかなわない。
徐々に親れいむによって川の方向に引きずられていく。
れいむはもみあげを振り回してわめく。

「でぎにゃいいいい!じんだらゆっぐちでぎにゃい!どうじでぞんにゃごどいうのおおおおおお!」
「ぼうれいぶだぢはどごにいっでもゆっぐりでぎないんだよおおおおお!わがっでよおおおおおおおお!」
「ゆんやああああああああ!ゆっぐぢぢぢゃい!ゆっぐぢぢぢゃい!ゆっぐぢぢぢゃいよおおおお!」

親れいむの目は血走り、自分が死んで永遠にゆっくりすることしか考えていないのが見て取れる。
それでも赤れいむと心中しようとするのは、間違った親の愛情の結果だろうか。
必死に生きてゆっくりすることにしがみつく赤れいむだが、このままでは遅からず親と一緒に川に落ちるだろう。

「ゆっくちー!ゆっくちー!ゆっくちー!」
「おばえのぜいでばりざはむれをおいだざれだんだああああああああ!じねええ!おやふごうなゆっぐりはじねええええええええ!」

その隣では、非ゆっくり症で「ゆっくち!」「ゆっくち!」と発作を起こしている赤まりさの髪を、鬼の形相の親まりさが噛みついて振り回している。
まりさの言葉から判断するに、やはり非ゆっくり症はどの群れでも疎まれていたようだ。
まりさ一家がいた公園では、非ゆっくり症のゆっくりは殺す掟が施行されていた。
このまりさのいた群れでは、非ゆっくり症のゆっくりは家族もろとも群れから追い出される掟だったに違いない。

「ゆっくち!ゆっくち!ゆっく…………ちいいいいいいいいいいい!」

白目を剥いて叫ぶ赤まりさは、悲鳴と共に空を飛んでぽちゃんと川に落ちる。
恒例の「おしょらをとんでるみちゃい!」の言葉も発作にかき消されて聞こえない。
我が子を殺したまりさは、げらげらと気が狂ったようにその場で大笑いしている。

「ゆびゃひゃひゃひゃぁああああっっ!ごれでゆっぐりでぎるよ!やっどゆっぐりでぎるよおおお!ばでぃざはゆっぐりぶれいずにいげるんだよおおおおおおお!」

次いでまりさの取った行動は異常の一言に尽きる。
自分もまた、赤まりさの後を追ってダッシュし、川に飛び込んだのだ。
今のまりさにとって、ゆっくりできるとはすなわち死ぬことだったのだ。
明らかに矛盾した行動だが、まりさの顔に迷いはない。

「いままでありがとうね……まりさ」

あちらでは、諦観の表情を顔に浮かべたありすが番のまりさにそっとすりすりしている。

「あでぃず……えいえんにゆっぐりじでも、まだいっじょにゆっぐりじだいよおおおおおおおお!」

なにもかも諦めた感じで静かなありすとは違い、まりさはぼたぼたと涙をこぼしてありすに猛烈な勢いですりすりする。

「そうね…………いきましょう」

ありすは番の情けない姿にも、愚痴をこぼすことはなかった。
母親のような笑みを浮かべ、ありすはまりさからそっと離れた。
まりさはまだ名残惜しそうな顔をしていたが、すぐにありすの隣に並んだ。
ゆっくりと、ありすとまりさは川へと向かった。

「だれが!だれがあああ!れいぶをがわにづぎおどじでぐだざい!おみずのながにおどじでぐだざい!じねないんでず!ごわいんでずうううう!」

成体のれいむが一匹だけで叫んでいた。
リボンのないぼろぼろの姿は、れいむがこれまで味わってきた苦痛に満ちたゆん生を象徴している。
懸命に生きていても、まったくゆっくりできない日々だったのだろう。
ならば、空の上にある天国、すてきなゆっくりプレイスに行きたいと思うのも無理はない。
しかし、そのために死ななければならない。
それがあまりにも恐く、れいむは自殺できないでいた。
川の中を見れば、れいむが自殺をためらうもの頷けるだろう。

「ばやぐっ!ばやぐぅうううううう!じにだいっ!ごろじでっ!じぬっ!ごろじで!ばやぐじにだい!ばやぐじにだいよおおおおおお!」
「じなないっ!なんでっ!?なんでじなないのっ!?ぐるじいっ!ぐるじいいいいっ!ぐるじいだげっ!?ぐるじいだげなんでやだああああああああ!」
「どげりゅ!ど!げっ!りゅっ!どげりゅよっ!れいみゅ!どげ!りゅぅぅぅ!やじゃぁぁぁああっ!いぢゃい!あんごじゃんいぢゃい!いぢゃいよおおぉぉぉぉ!」

河原の狂乱を軽く数倍は上回る狂騒が、川の中で繰り広げられてる。
沢山のゆっくりが川の中で浮かんだり沈んだりしながら、緩慢な死に身をよじらせて苦しんでいた。
ゆっくりは窒息の苦しみを味わうが、溺死するのではない。
中枢餡は酸素不足によって破壊されることがないので、窒息死という選択肢はない。
川に飛び込んだゆっくりを待っているのは、饅頭皮が溶け、餡子が削り取られ、最終的に中枢餡がふやけて崩れるという実に苦しみに満ちた死だ。
人間にとってはただの水が流れる川でも、ゆっくりにとっては硫酸の流れる恐ろしい川だった。

「うがああああ!ぐるじい!ぐるじい!ぐるじいよおおおおお!だずげでぇ!だれがでいぶをだずげでねええええええ!」
「がまんだよおおおおおお!がまんじでっ!がまんじでれいぶっ!ぞうずればじねるんだよおおおお!」

番のれいむとまりさが川の中で叫んでいる。
れいむの方はあまりの苦しさに自殺を諦めたのか、岸に上がろうともがいている。
それをまりさは止めようとしているが、もはや体が半分ふやけたまりさにはなにもできない。
しかし、体がふやけているのはれいむも同じだ。
れいむはその場でじたばたと水しぶきをあげて暴れるだけで、むしろ岸から遠ざかっていた。

「びゃあああっ!びゃあっ!びゃあああ!くりゅちい!ぐりゅぢいよぉ!まりぢゃぐりゅぢい!だじゅげでおどおざああああん!」
「ああああっ!おがあざあああん!おがあざああああああん!れいびゅじゅごぐいぢゃい!がらだいぢゃい!じんじゃうよおおおお!」

小さな赤まりさと赤れいむがもがいている。
帽子の上に乗ることも思いつかない赤まりさは、赤れいむの隣で叫ぶことしかできない。
両親の名を呼ぶ赤ゆっくりたちの体は少しずつ削れ、水に溶けていく。
水が餡子に触れるだけで激痛が走るようだ。
二匹は次第に意味のない絶叫しか上げられなくなっていく。

「だずげでっ!だずげでえええええええ!やっばりじにだぐない!じぬのやだぁ!まだゆっぐりじだいよおおおお!」
「うわああああああああ!もういっがいゆっぐりずる!もっどゆっぐりずる!もっどいっばいゆっぐりじだがっだよおおおぉぉおおお!」
「いやだあああああああ!おがぢいっ!おがぢいっ!ぶぇいぶはごんなどごろでじんでいいゆっぐりじゃないいいいいいいいいいい!!」
「もうやだああああああ!やだあああ!ゆっぐりぢだいのにでぎないごんなのぜんぶやだああああああああああ!」

おとなしく死を受け入れ、じっと痛みに耐えるゆっくりなど全体の一割未満だ。
大多数のゆっくりは、死のうと思って川に飛び込んだものの、予想できなかった苦しさに水から這い上がろうとしている。
けれども、一度水を吸ってしまったゆっくりの体は、もはや自由に動くことはない。

岸辺ではゆっくりたちの絶望する声が耐えることはない。
運良くここにたどり着いたゆっくりは、何とかして水から逃げようとあんよを動かす。
そこで気づくのだ。
あんよがもう動かないことに。

「やじゃあああ!やじゃあ!れいみゅ!ゆっくち!ゆっくちしゅりゅ!もっちょゆっくち!ゆっくちしちゃいいいいいいい!」
「ぴょんぴょんしゅりゅのじぇ!おみじゅしゃんからにげりゅのじぇ!まりちゃかけっことくいなのじぇ!にげられりゅのじぇ!」
「にゃんで!にゃんであんよしゃんうごかにゃいのおおおおおおおお!だみぇだよ!もっちょうごいちぇえええええええ!」
「はやきゅ!はやきゅううううううううう!うごくのじぇ!はやきゅうごくのじぇ!にゃんでうごかないのじぇええええええ!」

やっとここまで来たのに。
もう少しで、恐いお水さんから逃げられると思ったのに。
目の前にゆっくりできる地面さんがあるのに、そこに行けない。

「いやだあああっ!もうやだっ!おみずざんやだっ!いだいのやだっ!じにだぐないっ!じにだぐないよおおおおおおおお!」
「どげえええっ!どげっ!どげっ!じゃまだっ!ゆっぐり!ゆっぐりできないっ!どげっ!おばえもっ!おばえもっ!みんなどげっ!おみずざんが!おみずざんがぐるよおおおおおおおお!」

このまま、水に流されるしかない
希望によって二乗された絶望を感じながら、再び水に沈んで苦しみながら死ぬしかない。

「どぼじでぇぇええ!あんよざん!うごいでねっ!ゆっぐりじでないでうごいでねっ!うごがないどばでぃざじんじゃうんだよおおおおおおお!はやぐうごげええええええっっっ!」
「あんよざんっ!ぎいでねっ!れいぶのおねがいだよっ!はやぐうごいでねっ!おみずざんごわいよっ!ながざれじゃうよっ!だがらうごいでねっ!おねがいだがらうごいでねええええええええっ!」
「ぴょんぴょん!ぴょんぴょん!ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょおおおおおおおん!にゃんで!にゃんでええええ!まりちゃのあんよしゃん!あんよしゃんうごかないのじぇええええ!」

現実が認められずわめき散らすゆっくりに、水は現実を教える。
まるで意思があるかのように、岸辺でわずかなゆっくりの可能性にすがるゆっくりたちを捕らえる。
あんよがふやけて動かないゆっくりたちに、抵抗するすべはない。

ころころ。ころころ。ころころ。

そんな音が聞こえてきそうだ。
もがくゆっくりたちは岸から転がり落ち、流されていく。

「ゆんやああああああああああああああああああああ!」
「うわあああああああああああああああああああああ!」
「あがあああああああああああああああああああああ!」

この上ない絶望の声が聞こえる。
地獄絵図とはこの事だろうか。
ゆっくりたちは自分が助かる可能性が永遠に失われたことをはっきり理解し、凄まじい絶叫を響かせた。

まりさ一家の目の前で、川が突然濁りだした。
その原因はすぐに分かる。
上流から、膨大な量のドロドロに溶けたゆっくりたちとその帽子やリボンなどが流れてきたのだ。

「ゆっぐ……り……ゆっぐ……り……ゆっ……ぐ……りっ…………り゙っ!」
「ごろ……じ……で…………ご……ろ……じで…………ぐだ……ざ…い……………」
「し……に……たい………しにたい…………し…に…た…いよぉ…………しにたいぃぃ……」
「もう………や…だ…………どぼ……じ……で…じね…ない……の…………」
「い…だ……い………ま…り…ざ…ぜんぶ……いだ……い……よ……」

上流で入水自殺したゆっくりたちのなれの果てだった。
恐ろしいことに、原形をとどめないほど溶けていてなおそのゆっくりたちは生きていた。
もうとっくに中枢餡が壊れているはずなのに、想像以上にゆっくりたちはしぶとかったのだ。
体が溶け、餡子が削がれ、ゆっくりとは言えない変わり果てた姿になっても、まだゆっくりは意識を保っていたのだ。

「ゆ゙っ……ゆ゙っ……ゆ゙っ……ゆ゙っ…………………」
「まり……ちゃ…………ちに……ちゃ……い……よぉ…………」
「れ……い…みゅ…を……ころ……ち……ちぇ…………」
「あ……り…しゅ………くりゅ…………ち…………い…………………」

ドロドロになったゆっくりたちが朦朧とつぶやく言葉は皆同じだった。
くるしい。いたい。たすけて。しにたい。ころして。
川の上を、とてつもない量の死臭が吹き抜けた。
まだ生きているのに、既にゆっくりの体は死臭を放っていた。
生きながら死んでいく苦しみ。
まりさ一家は、それを目に焼き付けてしまった。
死んだはずの心が、ショックで蘇生した。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「やだああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「ゆんやあああああああああああああああああああああああああああ!」
「ぴぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」

まりさ一家は、顔中を口にして叫んだ。
叫び、叫び、息が続かなくなるまで絶叫した。
スライムのように溶けてもまだ意識があり、苦しみ続けている。
そのあまりにも凄惨な姿にまりさたちは震え、下半身は勝手にしーしーを漏らしていた。

「ゆっぐりじだいよおおおおおおおおおおおおお!」
「ゆっぐりできないよおおおおおおおおおおおお!」
「ゆえええん!ゆぇぇぇえええええええええん!」
「やじゃあああ!もうやじゃああああああああ!」

忘れていたはずの感覚が戻ってきた。
ゆっくりしたい。いっぱいゆっくりしてしあわせーになりたい。
でも、どんなに望んでもまりさたちには許されていない。
死ぬしか道はない。
どうやって死ぬ?カラスに食べられるのも、太陽に焼かれるのも、雑草を食べるのも人間に蹴られるのも恐ろしくてたまらない。
これしかない。飛び込むしかないのだ。

「どぼじでえええ!どぼじでえええええええ!どぼじでばでぃざだぢがごんなめにあうのおおおおおおおおおおおおおおおお!」

まりさは叫ぶ。
天に向かって渾身の力を込めて叫ぶ。

「ばりざだぢはゆっぐりじだがっただげなんだよおおおおおおお!なにもわるいごどなんがじでないよおおおおおおおお!
どぼじでっ!どぼじでっ!ばりざだぢごのぜがいにうまれだのにっ!どぼじでごのぜがいにいられないのおおおおおっ!?
おがじいよおおおおお!おがじいよお!おがじいよおお!ゆっぐりじだいよお!ゆっぐりじだい!じだいじだいじだいいいいいいいいい!!」

まりさは小さな赤ゆっくりのように、だだをこねてその場で転げ回る。
帽子を歪ませ、髪の毛を振り乱し、土埃とよだれと涙で顔をぐちゃぐちゃにしても止めようとしない。

「むがじみだいに!だのじぐ!れいぶどおぢびぢゃんどみんなで!おびざまのじだで!ぐざざんむーじゃむーじゃじで!じあわぜぇぇぇにゆっぐりじだいいいいいい!!
おびざまも!ぐざざんもむじざんも!がらずざんもばどざんもずずめざんも!みんなみんなみんなばりざだぢをいじめでええええええ!
にんげんざんもだあああああ!いじわるなにんげんざんっ!ごわいにんげんざんっ!ゆっぐりをいじめるにんげんざんばっがりだああああ!
じねええええええええええ!じねっ!じねっ!じねっ!じねっ!みんなじねっ!じねえっ!ぜんぶおまえだぢのぜいだああああああ!
ばりざだぢをゆっぐりざぜないわるいおばえらはぜんいんじねえええええええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっ!!」

まりさは世界のすべてを呪って絶叫した。
人も鳥も何もかも、全部死んでしまえとわめいた。
それがまりさのゆん生のすべてだった。
ほかにはもう、何もなかった。

「ゆはっ…………ゆはっ………ゆはぁっ……………………!」

息を切らして、まりさは天を恨めしそうに睨んだ。
何も起こらない。
世界は変わらず、救いの手など差し伸べられることはない。
周囲にはゆっくりたちの断末魔の悲鳴が満ちている。
まりさはたかが一匹のゆっくりだった
どれだけ世界に願っても、どれだけ世界を呪っても、何かできるわけでもなかった。

「まりさ………ゆっくりしていってね…………」

ひとしきり絶叫してぐったりとしたまりさに、れいむはあくまでも優しくすりすりした。

「もう…れいむたちは……しぬしかないんだよ…………」
「やだよぉ……まりさ…ゆっくりしたいよお………しぬなんてゆっくりできないよぉ…………」

ゆん生を諦めたれいむとは違い、まだまりさは未練があった。
もっともっと、いっぱいゆっくりしたかった。
れいむとすっきりして、新しいおちびちゃんの顔を見たかった。
今いるおちびちゃんが成ゆんになって、新しい家族ができる瞬間に立ち会いたかった。
やりたいことがまだ山ほどあった。
とても諦めきれず、まりさは涙を流して泣いていた。

「れいむがいっしょにしんであげるよ。ずっといっしょだよ!えいえんにゆっくりしてもいっしょだからね!」

少しでもまりさを慰めたくて、れいむは差し迫った死を明るく表現する。
永遠にゆっくりしても一緒。
その温かな響きに、まりさの涙が止まった。

「れいみゅも…おとうしゃんといっしょにちにたいよ………おとうしゃんといっしょなら……きょわくないよ……」
「まりちゃ……さいごまでおとうしゃんといっしょがいいのじぇ……。おとうしゃんは……まりちゃのおとうしゃんなのじぇ……」

まりさの目の前に、赤まりさと赤れいむが並んだ。
二匹は死の恐怖を懸命にこらえて、にっこりとまりさに笑いかけた。
赤ゆっくりたちは、生きることを放棄したわけではない。
すべてを諦めて自殺する八割のゆっくりには含まれていない。
それなのに、二匹は悲しむまりさを慰めようと一緒に死んであげると言ったのだ。
家族のけなげさに、まりさの目から悲しみとは違う涙がどっとあふれだした。

「みんな……みんなあああああああああああああああああああああああ!」

河原は苦しむゆっくりで埋め尽くされている。
そこからでは助走をつけてジャンプしない限り、うまく水に飛び込むことはできないだろう。
橋の上から飛び降りた方が、確実に死ねる。

まりさ一家は這って橋に向かった。
同様の結論に至ったゆっくりは沢山いたようで、橋からはぽんぽんとゆっくりが身を投げている。
一匹だけで飛び降りるありす。
二匹でしっかりとお互いのお下げともみあげを噛んだれいむとまりさ。
先に赤ぱちゅりーと赤まりさを突き落としてから、その後を追って飛び降りるぱちゅりーとまりさ。

「ゆっ……おにいさん…………?」

まりさの目に、一度見たことのある人間の姿が映った。
あれは、以前公園でお菓子をくれたお兄さんだ。
まりさにいろいろと質問して、その代わりに沢山のビスケットをくれた優しいお兄さんだった。
最後の挨拶をしようかと思ったが、お兄さんはこちらに気づかずすぐに向こうに行ってしまった。

「おにいさん……。びすけっと、すごくおいしかったよ。ありがとうね。まりさうれしかったよ」

まりさは小さくなっていくお兄さんの背中に、小さく頭を下げた。
さっきは感情が暴走するままに、人間は悪い人ばかりだと言ったけれど、お兄さんのような親切な人もいたのだ。
それを、まりさは忘れていたことに気づいた。
橋にたどり着き、まりさは手すりの隙間から下を見下ろした。

「ゆあぁ…………こわいよぉ………………」

想像以上に高く、恐ろしくてしーしーが漏れそうになる。
下をよく見ると、ぱくぱくと口を開けてゆっくりたちが苦しみを訴えている。
でも、今更退くことはできない。

「れいむ……おちびちゃん………せーの、でいっしょにとびおりるんだよ」
「ゆっくり………りかいしたよ」
「わかっちゃよ………」
「がんばるのじぇ……」

まりさの言葉に、れいむはうなずいた。
子どもたちもぶるぶる震えつつも、真剣な顔で応じた。
まりさたちは、自殺するために横一列に並んだ。

(これがまりさたちがうまれてきたいみなの?これが、まりさたちのさいごなの?)

死を前にして頭がすっきりしたのか、まりさの頭にゆっくりらしからぬ哲学的な疑問が浮かんだ。
生まれてきた意味など、ゆっくりと生きていた時には想像もしなかったことだ。
やるせないが、最後は家族そろって死ねるのだ。それは野良ゆっくりとしてはまだ幸せな方だろう。
まりさは家族がバラバラに引き離され、最悪の状態で苦しみつつ死んだ多くのゆっくりを思い出した。
それに比べれば、まだ自分たちは恵まれているのかもしれない。

「さきにおそらのうえのゆっくりぷれいすにいったおちびちゃん……いまからおとうさんたちがいくからまっててね………」

まりさはふと、長女まりさと長女れいむを思い出した。
どうしてか分からないが、「おそらのうえのゆっくりぷれいす」という感覚が自然と沸き上がってきた。
そこでかわいいおちびちゃんたちが待っている。
死ねば、そこに行けるんだ。
死んで、おちびちゃんたちに会いに行こう。

お空の上のゆっくりプレイス。
それは遺伝餡によって自殺するよう設定された八割のゆっくりが共通して思い描く妄想だった。
即席の宗教と言っても過言ではない。
空の上には素敵なゆっくりプレイスがある。
死んだゆっくりはそこに行き、この世のゆっくりとは比べものにならないゆっくりを永遠に楽しむことができる。
その甘美な空想は、街に住む野良ゆっくりの八割を自殺に追い込むには十分すぎるものだった。
ただし死の苦痛を和らげてくれないのは、残酷としか言いようがない。

「いくよ……れいむたちは…ゆっくりぷれいすに、いくんだよ……ゆっくりぷれいすに…いくんだよ……」

れいむも同じだった。
自分に言い聞かせるように、れいむは何度も同じ事をつぶやいている。
ぴょんぴょんとまりさたちは後ろに下がる。
助走を付けて、一気に飛び降りるのだ。

せーの、とまりさが言おうとしたその時だった。

「邪魔だぞゆっくり。どけよ」
「ゆうううううっ!」
「ゆあああぁぁっ!」

何も知らない歩行者が、歩道をふさぐまりさとれいむを強く蹴った。
赤れいむと赤まりさを残して、二匹の体が手すりの隙間にすっ飛ぶ。
あまりにも見事に、あまりにも残酷に、まりさとれいむは隙間をすり抜け宙を舞った。

「おそらを…………おぢびぢゃああああああああああああああああああああん!」
「おそらをとんで……いやだああああああああああああああああああああああ!」

時間がゆっくりになる。
まりさの目は、橋の上に取り残されてこちらを見る二匹を見ていた。
赤れいむと赤まりさと、まりさは目があった。
きっと、まりさの隣のれいむもそうだっただろう。
二匹の見開かれた目と、半開きになった口は「…………どうちて?」と言っていた。

「「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!」」

まりさとれいむは引き延ばされた時間でたっぷりと恐怖と絶望を味わい、その終着として川に落ちた。
激しい水音と一緒に、冷たい水が全身を包むのを感じた。
二匹の体は完全に水に没してから、すぐに浮き上がる。

「おぢびぢゃん!おぢびぢゃぁぁあああん!おぢびぢゃんが!おぢびぢゃんがいないっ!うえだよっ!うえにいるよぉぉおおおおおお!」
「おぢびぢゃんが!おぢびぢゃんがぁぁあああああっ!ごないよっ!いっじょにごないよぉおおお!はじのうえにまだいるよおおおおお!」

まりさとれいむはめちゃくちゃにもがいた。
一緒に飛び降りるつもりだったのに。
一緒に死ぬつもりだったのに。
予定が狂ってしまった。先に自分たちだけが水に落ちてしまった。
子どもを残して死ぬ。
こんなひどい世界に、かわいいおちびちゃんを残して死ななければならない。
残酷な現実を突きつけられ、まりさとれいむは水上で暴れる。

「ゆがあっ!なにごれっ!おみずっ!?おみずがっ!はいっでぐるっ!やべでっ!おみずざんやべでぇぇえええ!」
「がらだがっ!でいぶのがらだぁ!おみず!おみずはいっでぐる!はいっでぐるよおおおおお!いだいいぃいい!」

すぐに水による浸食が始まった。
暴れて饅頭皮が動くことによって、その浸食はさらに速まった。
柔らかい側面の皮が真っ先に水を吸い込み、餡子に鋭い痛みが走る。
想像を絶する気持ち悪さに、まりさとれいむは口を開けて叫んだ。

「ゆばあっ!おみずっ!ごわいっ!おみずやだっ!いだいっ!!ばりぢゃのあんござんいぢゃいよぉぉおおおおおおお!!」
「ぐるぢいっ!いやだっ!いやだよぉ!おぢびぢゃんのごじでっ!じにだぐないっ!だずげでっ!だずげでぇえええええ!」

顔を水面に出したと思ったらまた沈み、ばたばたとのたうち回って二匹は苦しみ抜く。
溺れながら、体がぐずぐずに溶かされ餡子が削れていく。
下半身がついに溶け始め、本格的に激痛が餡子に走るようになった。
もう二匹は橋の上の子どもたちを思いやる余裕はない。

「ゆぎゃああああああああ!あぎゃああああ!ゆぎぇえええええええええ!」
「あぎぃいいいいいいい!ゆがああああああ!ゆびぃいいいいいいいいい!」

二匹の様子は、それまでさんざん見ていた苦しみもがく他のゆっくりとまったく同じだった。
恐らく、今まさに二匹の体内の餡子はかつてないほどの甘味を蓄えていることだろう。
体。精神。その両方でまりさとれいむはゆん生で味わったことのない最大の苦痛を感じていた。
死がこれほど恐ろしく、痛みの伴うものだとは思わなかった。

「れいぶっ!れぃぶ!れびぶううううううううううううううううううう!」
「ばりっ!ばび!ばびじゃ!ばびざああああああああああああああああ!」

二匹は必死に近寄ろうとするが、ゆっくりで埋め尽くされた水面はろくに進むこともできない。
それでも、二匹は近づこうとする。
お下げを伸ばす。
もみあげを伸ばす。
決して届かない距離であっても、触れ合おうとする。
先に力尽きたのはれいむだった。
伸ばしたまりさのお下げは、れいむのもみあげをつかまず空しく水を叩くだけだった。

「ごぼぉぉぉぉっっ!ゆぼごぉ!ゆぶぼおおおおおおおおっ!」

発狂しそうな苦痛に白目を剥いたれいむの顔は、まりさが一度も見たことのないものだった。
その表情を浮かべたまま、れいむは弱々しくもがきながら水の中に沈んでいく。
最後にもみあげをぴくぴく動かして、れいむの姿は完全に水に没する。
没したからといって死んだわけではない。
これからゆっくりとれいむの体は溶けていくのだ。
もし偶然浮き上がることがあったら、まりさたちが見たようなスライムのような状態で呻く塊となっていることだろう。

「あがあああああ!れいぶがあああああ!だれがっ!だれがっ!だれがああああああっ!だずげで!だずげでぐだざい!だずげでぐだざいっ!だずげでぐだざあああいっっ!」

目の前で番が水に沈んだのを見て、まりさは絶叫した。
誰かに助けを求める。
助けなどこれまで一度も差し伸べられたことがないのに、それでもまりさは助けを求めた。
ほかにどうしようもないのだ。

「だれが………………だずげでよおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ………………!」

やがてまりさもれいむの後を追った。
帽子が水に流され、全身が水に没した。
もはやまりさは何も分からなくなり、後はただ痛みと苦しみだけが残った。

(おぢ……び…ぢゃ…………ん…………れ……い………ぶ……………)

anko2601 ゆっくり退化していってね!8

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