anko3617 くものいとさんはゆっくりしてるね!! のバックアップ(No.1)


『くものいとさんはゆっくりしてるね!!』 28KB

いじめ 虐待 制裁 観察 自業自得 野良ゆ 都会 現代 虐待人間 カルマあきを名乗らせていただきます 特にひねりのない短編、直球型の作風でやっていくことになりそう

作/カルマあき

過去作

anko1548(前)/1744-5(中)/2170-1(後)
『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』
anko2263-4『ゆっくりいじめはゆっくりできるね!』
anko2424-5『かけがえのないいのちなんだよ!』
anko2889『いっしょにゆっくりしていってね!』
anko3521『ゆっくりつかいすてていってね!』
anko3542(前)/3549.3563-4(中)/3578-80(後)
『おちびちゃんはとってもかわいいんだよ!』

『くものいとさんはゆっくりしてるね!!』

「おでがいじばずっ!!にんげんざんっ!!ごばんざんをぐだざいっ!!
おぢびぢゃんがおだがをずがぜでじにぞうなんでずううぅ!!」
「ゆ゛っ…………ゆ゛ぅ………おにゃが、じゅい……だ……」

ありふれた光景。
薄汚れた野良れいむが、通りに出てきて道行く人々に施しを求めて叫んでいる。
泥と糞とカビにまみれ、ばさばさした髪には蜘蛛の巣が少量こびりついていかにも汚く、
歩道の真ん中でわめくれいむを遠目に認めた人々は回れ右して手前の横断歩道まで戻るのが大半だったが、
足早にれいむの横を通り過ぎる者もおり、そんな通行人にれいむはしがみつかんばかりに這い寄り、右往左往していた。

「どっでもゆっぐじじだおぢびぢゃんなんでずっ!!
おがあざんのいうごどをよぐぎぐいいごでっ!!ごーろごーろががわいぐでっ!!おうだもどっでもじょうずでぇぇ!!」

れいむは両のもみあげで「おちびちゃん」とやらを支え、頭上に載せて人間に見せつけている。
涎としーしーの跡も真新しくぬらついているその子ゆっくりは痩せ衰え、球形の身体はぐにゃりとひしゃげている。
うつろな目は虚空を泳ぎ、ゆぅ、ゆぅと断続的な呻き声を上げるだけだ。
しかしゆっくりの扱いに慣れている僕の目は、まだまだ余裕があると見てとった。

もともとゆっくりはひどいものぐさで、必要がなければ動きたくないのである。
無駄に好奇心の旺盛な赤ゆっくりはやたらと動くが、
それでさえほんの少しの間ぴょんぴょん跳ねれば疲れてすぐに座り込み、そのまま眠ってしまうのだ。

「ぼんのぢょっどだげでいいんでずっ!!
ごばんざんっ!!ごばんざんぐだざいっ!!おぢびぢゃんをだずげでぐだざいいいぃ!!
がわいいおぢびぢゃんがっ!!ずぐにむーじゃむーじゃざぜだいどじんじゃうんでずうううぅぅ!!」

顔中を涙でぐしゃぐしゃにしながら母親は大袈裟に叫んでいるが、ゆっくりが動かないのはわりと当たり前のことなのである。
ただピーピー囀っていれば親に餌を運んできてもらえる子ゆっくりなら尚更だ。
ゆーゆー呻き声を上げていられるならまだ大丈夫だ。それでもこのまま食べなければあと一日もつかどうかだが。

そういった時間的余裕を見てとり、俺は一旦その場を離れ、嫌がらせの下準備にかかった。

――――――――

「だずげでぐだざい!!だずげでぐだざい!!
ゆっぐじざぜでっ!!がわいぞうなおぢびぢゃんをだずげでぐだざいいいぃぃ!!」

喉も裂けよと叫び続けても、人間さんは一人も立ち止ってくれなかった。
れいむは歯噛みし、悔し涙にくれる。

野良ゆっくりの自分がお願いしても、人間さんが施しをくれるわけがないのはわかっていた。
それでも他に手はなかった。
狩りの得意だった番のまりさがある日帰ってこなくなり、他に食糧補給の手段がないれいむ一家は飢えた。
れいむが狩りをするわけにもいかない。
今まで親や番に養われるばかりで狩りをしたことがない標準的なれいむであることもあったが、家を開けることができないのだ。
おちびちゃんは連れて回るにしても、住処を求めて目をぎらつかせている宿なしゆっくりがそこらを徘徊する街中で、
家を開けるということは「どうぞご自由にお使いください」と書かれたプラカードを軒先に吊るすに等しい。

食糧供給が断たれ、取り置きの食糧もあっという間に食べ尽くし、
たった一人のれいむ似のおちびちゃんは、日に日に弱っていった。
とうとう、緊急手段、否、手段とも言えない暴挙に出るしかれいむには道は残されていなかった。
路地裏のどん詰まりから這い出て、背後にダンボールのおうちを守りながら、れいむは人間さんに物乞いをした。

街中のあらゆるゆっくりプレイスと食糧を独占し、
どれだけ友好の意を表しても汚いものを見るかのように忌み嫌いゆっくりできない侮蔑の視線を向け、
普段は関わろうとしないくせに少しでも住み心地のよさそうな所を見つければすぐさま飛んできて追い出しにかかり、
諦めて迷惑をかけないようひっそりと静かに隠れ住んでも、わざわざ探し出して嬉々として虐め殺してくる。
そんな憎く恨めしい人間さんに、ゆっくりとしてのプライドも矜持も捨ててれいむは惨めに慈悲を乞う。

「どっでもいいごなんでず!!がわいぞうなんでず!!
おぢびぢゃんのだべにっ、ごばんざんわげでぐだざいいいぃ!!
ずごじだげっ!!ずごじぐらいわげでぐれでもっ、いいでじょおおおぉぉ!!?」
「よう、大変そうだな」
「ゆ゛っ!!?」

絶叫していたれいむが声に気づき、顔を上げると、そこに人間さんが立っていた。

「ゆっ………ゆゆゆゆっ!!?
ごばんざんっ!!ごばんざんわげでぐれるのっ!!?」
「あー、こんなところにあまあまさんがあるぞー」

そう言い、人間さんは信じられないものを手にかざした。
平たくて薄い、銀色のぴかぴかさんに包まれた茶色いもの。
知っている、見たことがある、あれはチョコレートさんだ。人間さんが食べているあまあまだ。
前に会った元飼いのゆっくりが、とってもゆっくりできるあまあまさんだと言っていた。

「これを食べさせたら、そのおちびちゃんも元気いっぱいだろうなー」
「ゆううううぅぅ!!ちょうだいね!!あまあまさんおちびちゃんにちょうだいねっ!!」
「ゆ゛………あみゃ、あみゃ……?あみゃあみゃっ!!ちょうだいいぃ!!」

ぐったりしていたおちびちゃんも身を起こし、遥か頭上のチョコレートに舌を伸ばしはじめた。
見ただけで起き上がってくれた。これなら食べさせれば確実に生き返るだろう。
嬉々として顔をほころばせるれいむだったが、しかしお兄さんは手を引いた。

「いいや、あげるとは言ってない。
なんで君達にあまあまをあげなきゃならないんだい?」

ぱきん、と音を立ててチョコレートをかじるお兄さん。

「あー、おいしいなぁ。あまあまでゆっくりできるなぁ」
「ゆああぁぁ!!?たべないでねっ!!ちょうだいねっ!!おちびちゃんにあまあまわけてねええぇ!!」
「あみゃあみゃ!!あみゃあみゃちょうだいいぃ!!おにゃかしゅいちゃああぁ!!」
「だから、なんであげなきゃならないのかって聞いてるのさ。
君達にあまあまをあげなきゃならない、と僕に納得させてみなよ、そしたらあげるからさ」

にやにやとチョコレートを振るお兄さんに、腸が煮えくり返そうになる。
自分たちをおちょくって楽しんでいることぐらいはわかった。こっちは今にも死にそうだというのに。
あまりの怒りと悔しさに、れいむは歯噛みしてまた涙をこぼす。
しかし、それでもそんな人間さんに頭を下げなければならないのだ。おちびちゃんのために。

「おねがいしますっ!!わけてください!!れいむはどうなってもいいですからあぁ!!」
「だから、どうして?」
「おちびちゃんがしにそうなんですっ!!ごはんをむーしゃむーしゃしないとしんじゃうんですうぅ!!」
「だから何?死ねばいいじゃない」
「ゆ゛っ………そんなっ…………ひどすぎるよおおおおぉぉ!!!」
「ええっ、何がひどいの?僕そんなにひどいかな?」
「ひどいよおおおぉぉ!!
こんなにちいさな、なにもわるいことしてないおちびちゃんに、なんでそんなひどいこといえるのおおぉ!!?
れいむたちだっていきてるんだよっ!!かけがえのないいのちなんだよおおぉ!!」
「いや、いくらでも代えはきくって。ゆっくりなんてそのへんでほいほい増えるだろ、あとからあとから、きりがない。
ウザいし、頑張ってさっさと死んでくれよ」

ぱきん。
またも一口チョコレートをかじるお兄さんに、れいむはいよいよ声を荒げる。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!やべでだべないでえぇぇ!!
おでがいでずっ!!おぢびぢゃんに!!どうが、どうがああぁ!!」
「だからー、あげる理由を」
「にんげんさんがゆっくりをきらいなのはわかってるよっ!!
でも、でぼおおぉぉ!!ごはんさんっ!!たったひとつでしょおおぉ!!?
にんげんさんはつよいし、かしこいから、そんなごはんさんはいくらでもてにはいるでしょおおぉぉ!!
たったひとつぐらいわけてくれてもいいじゃないのおおぉぉぉ!!!?」
「うん、もちろんいくらでも手に入るよ。十個でも百個でも、簡単さ」
「だったらあああぁぁぁ!!わけてよおおぉぉ!!
おちびちゃんをたすけてよおおぉぉ!!
かけがえのないいのちなんだよっ!!?いくらでもてにはいるあまあまをいっこわけてくれるだけでたすかるんだよっ!!?」
「そう言うけどなあ、分けてあげてもこっちはなんにも得しないしなあ」
「しにそうなんだよっ!!?なんともおもわないのっ!!?
じぶんだけがよければそれでへいきなのおおぉぉ!!?」
「君は違うのかい?」
「ゆ゛っ!!ちがうよっ!!しにそうなゆっくりをみすてたりしないよっ!!
にんげんさんとちがって、ゆっくりはみんなでたすけあっていきてるんだよおぉ!!」
「おお、なんと立派なゆっくりなんだ!これはあまあまを分けて助けなければならないな!」
「ゆっ!!?」

お兄さんは叫び、チョコレートを足元に放った。
食べかけのチョコレートはそう大きくはない。
しかし、おちびちゃんが助かるには充分な量だ。感涙し、れいむは礼を言う。

「ゆううぅ!!おにいさんありがとうううぅ!!」
「いやいや、とっても可哀想な生き物には施してあげなくっちゃな。生き物は助け合いだもんな。
れいむには教えられたよ」

「とっても可哀想な」「施してあげなくちゃ」という言い様はさらにれいむのプライドをえぐったが、
それでもおちびちゃんの命には代えられない、れいむは大急ぎでチョコレートに跳ね寄っていき、拾い上げた。

「それじゃあ、そのチョコレートさんでおちびちゃんをゆっくりさせてあげてくれ。
それだけあれば、大切に食べれば三日はもつだろう。すぐに食べきったらゆっくりできないぞー」
「ゆゆうううぅぅ!!あじがどう!!おにいざんあじがどうううぅ!!」

地面に頭を打ち付けんばかりにぺこぺこと頭を下げ続けるれいむを尻目に、
お兄さんは手を振りながら立ち去っていった。

「あみゃあみゃ!!あみゃあみゃ!!はやきゅちょうだいいぃ!!」
「ゆゆっ、おちびちゃん、ちょっとまってね!!すぐにおうちにかえってごはんさんにしようね!!」

こんなに人目につく通りであまあまをあさっていると、どんなゲスに目をつけられるかわからない。
ぴこぴこともみあげをばたつかせて喜ぶ頭上のおちびちゃんに頬をゆるめながら、
れいむはチョコレートを抱えて路地裏の奥のダンボール箱に引っ込んでいった。

おうちの中に入り、れいむはチョコレートを小さく折っておちびちゃんの前に置く。
貴重なあまあまだ、次に食糧が手に入るのはいつになるかわからない。
だからなるべく大事に、少しずつ食べて長持ちさせるつもりだった。

「さ、おちびちゃん、ゆっくりむーしゃむーしゃしてね!!」
「ゆううぅぅ…………ゆっくちむーちゃむーちゃしゅるよっ!!」

おちびちゃんがあまあまにむしゃぶりつこうとしたその時、家の外から弱弱しい声が聞こえた。

「ゆ゛………あば…あば…………」
「ちょうだぃ…………あばあ…………ちょうだいいぃ………」
「おばしゃ………きょきょ、なにょ………?」
「………あばあば、わけちぇ…………おにぇがいぃ………」

おうちから顔を出し、外を見ると、れいむの視界に声の主が飛び込んできた。

それは十人近くのおちびちゃんだった。
れいむ種、まりさ種、ありす種の三種類、総勢八人のおちびちゃんが、このおうちを目指して這いずってきている。
どれもれいむのおちびちゃん以上に痩せ衰え、その上身体に一つずつ傷をつけられて餡子を漏らしていた。

「ゆ………ゆ………ゆゆううぅぅ!!?」
「あばあば………ちょうだい………」
「……おばちゃ、あばあば、もっちぇるんでじょ………?」
「しん、じゃう…………あばあば、にゃいと………じんじゃううぅ」
「じにだくにゃい………おばちゃ…………おにぇが、あばあば………」

どの子の怪我も無視できる度合いではなく、痩せ衰えているのも相まって、すぐにも死にそうだった。
助けるには、あまあまがなければならないだろう。
そして、このおちびちゃん達は………自分が家にあまあまを持っているのを知っている!?

お兄さんにもらったあまあまは、決してたいした量ではない。
おちびちゃんだけに食べさせて、必死に切りつめて三日持つかどうかだ。
その程度のものを、あのおちびちゃん達に分けたりしたらどうなるか?
ただのカスになって、一瞬で消え去っておしまいだ。

れいむは、反射的に叫んでいた。

「ゆ………ないよっ!!あまあまなんかれいむもってないよおぉぉ!!」
「ゆぅぅ………?にゃんでぇぇ………」
「きょきょにありゅって………きいちゃよ…………おにぇがぃ、わけちぇよおぉぉ………」

それでも引き下がらず、おちびちゃん達はずりずりとおうちに迫ってくる。
背後におうちを隠し、れいむはその前に立ちふさがった。

「ないよっ!!あまあまもってないよっ!!ほかへいってねえぇ!!」
「むーちゃむーちゃ………あみゃあみゃちあわちぇえええええ~~~~~~!!!!」

その時、背後から大声が響き渡った。
おうちの中のれいむのおちびちゃんが、チョコレートに舌鼓を打って叫んだ歓喜の声だった。

「…………!!」
「ゆゆうぅ…!やっぱり!!やっぱりあばあばあるんだよおぉぉ………!!」
「わけちぇ………!!あばあばわけちぇえ………!!まりちゃたち、ちんじゃうよおぉぉ………!!」
「ありしゅたちをたしゅけちぇぇ………しにちゃくにゃいよおぉぉ……!!」

あまあまの存在を確信したおちびちゃん達が、いよいよ切実な声をあげる。
れいむはぶるぶると震えていたが、意を決して威嚇行動にでた。

「ぷくううううぅぅっ!!!」
「「「「ゆ゛…………ゆ゛びゃあああああっ!!!?」」」」

息を吸い込み、全身を膨らませて大きく見せる『ぷくー』は、ゆっくりの間では非常に強い敵意の表現である。
ことに大人相手にぷくーをされた子ゆっくりの恐怖たるや。
おちびちゃん達は泣き叫び、しーしーを漏らした。

「「「「ぎょわいいいぃぃぃ…………!!!」」」」
「あまあまなんかないんだよっ!!ききわけのないこたちはあっちへいってねぇぇっ!!」
「ちあわちぇえええええ!!うみぇっ!!めっちゃうみぇっ!!あみゃあみゃまっじぱにぇええぇぇ!!」
「たべちぇるよっ………!!あみゃあみゃたべちぇるよおぉ………!!」
「にゃんでえぇ………?にゃんでおばちゃん、うしょちゅくにょおおぉ……?」
「おにぇがい………たしゅけちぇえぇ………れいみゅたち、ちにちゃくにゃいよおぉぉ………!!」
「…………!!
う………うるさいよっ!!だまってねぇぇ!!
このあまあまはれいむたちのものなんだよっ!!れいむがもらったものなんだよ!!
あのこわいこわいにんげんさんにあたまをさげて、ひっしでおねがいして、ようやくもらったあまあまなんだよっ!!
なんにもしてないくせに、あとからきてねだらないでねっ!!ほしかったらじぶんでとってね!!」
「ひぢょいよおおぉ………!」
「しんじゃうよおぉぉ………ほんちょに………ほんちょに、ちんじゃうよおぉぉ………」
「たしゅけちぇ………たしゅけちぇ………おにぇがい………たしゅけちぇよおおぉぉ………!」
「う………うるさい!!うるさいうるさいうるさいうるさあああああいいい!!!」

れいむは叫び、おちびちゃん達を跳ね飛ばした。

「「ゆぎぇべっ!!?」」

潰さないよう手加減はしていたが、それでも傷を負って衰弱した子ゆっくりには致命的なダメージだったらしい。
二匹のおちびちゃんが跳ね飛ばされたまま地面に横たわり、びくんびくんと震えたまま起き上がる様子がなかった。

「ゆ゛……おにぇがい……おにぇ、が………」
「おば、ちゃ……ちにちゃくなぃ……ちにちゃく、にゃいよおぉぉ」
「ゆああああああ!!!」

恐怖にかられながら、れいむは迫り寄ってくるおちびちゃん達を必死に跳ね飛ばした。
どれも即死というほどではなかったが、倒れたまま動かなくなった。時間の問題だろう。

「ゆひぃ……ゆひぃ………!!
わるくないよっ………れいむはわるくないよ!!おちびちゃんのためなんだよおぉ!!」

れいむは叫び、可愛い自分のおちびちゃんの待つダンボールのおうちの中に駆け戻っていった。

「ゆぴぃ………ゆぴぃ…………」

今日の分のあまあまを食べ終え、すーやすーやと眠るおちびちゃんの涎をもみあげでぬぐってやる。
れいむは憔悴していたが、我が子の寝顔を見ることでなんとかゆっくりできていた。
この子のためなら、どんなことでも耐えられる気がした。

「もしもーし、よろしいですかー?」

その時、おうちの壁を叩く音がした。
びくりとして振り返ると、あまあまをくれたあのお兄さんがおうちを覗きこんでいた。

――――――――

「ゆっ………?な、なに、おにいさん………?
おちびちゃんならゆっくりできてるよ……?」

的外れなことをほざいているれいむを腕でどかし、汚いダンボール箱の中を探る。

「いや、もし残ってたら返してもらおうと思ってさ。……おお、あったあった、よく食べ尽くさなかったなあ」

箱の角に溜め込んでいるゴミの山の奥に、食べかけのチョコレートが隠してあった。
それをさっさと奪い取ってしまう。

「ゆ………ゆあああああぁぁぁ!!?
どぼじで!?どぼじでどっぢゃうのおおおぉぉぉ!?」
「いや、君達はやっぱ助けなくてもいいかなーってね」
「どぼじでええぇぇえ!!?どぼじでぞんなごどいうのおぉぉぉ!!?」
「へーえ。じゃあ、あの子たちはどぼじで助けなかったのかな?」
「ゆ゛っ……いだいいぃぃ!!?」

リボンごと髪を掴み、叫び散らすれいむを外に引きずり出す。。

「ゆ゛っ…………?!」

自ら跳ね飛ばした子ゆっくり共の前にれいむを引き据え、自分のしたことを見せ付けてやる。。
十数分の時間が経っていたが、跳ね飛ばされた姿勢のままで子ゆっくり共は動かず、黒ずんでいた。
全員が死んでいた。

「ゆ゛………!ゆ゛……!!」
「この子たちはどうして助けなかったのかって聞いてるのさ。さあ、教えてくれよ」
「………!!」
「死にそうなゆっくりは見捨てないんじゃなかったっけ?
人間と違って、ゆっくりはみんなで助け合うんじゃなかったっけ?」
「……………だ…………だって………だってだってだってえええぇぇぇ!!!
しょうがないでしょおおおぉぉぉ!!!?」
「何が?」
「あのあまあまをみんなでわけたら、すぐになくなっちゃうでしょおおぉぉ!!!」
「だから?」
「だ……だからっ………れいむのおちびちゃんがしんじゃうでしょおおぉ!!
しょうがなかったんだよおおぉぉ!!みんなをたすけるなんてできるわけないでしょおおぉぉ!!!?」
「助けなかっただけじゃなく、殺したよな、わざわざ?」
「ゆ゛ぐっ………うるざいうるざいうるざいいぃぃ!!しょうがなかったんだあああぁぁ!!」
「みんなで分けるだけの量はあったはずだぞ。一回分だけどな」
「ぞれじゃずぐおわりでじょおおお!!?りがいでぎるううううぅ!!?」
「いいや、まだまだ持ってきてあげたさ」
「ゆ゛っ………!?」

そこで鞄を開き、中身をれいむに見せてやった。
その中には十数枚の板チョコがある。今しがたコンビニで買ってきたものだ。

「助け合いの精神を持った立派なゆっくりに、追加で持ってきてあげようと思ってね」
「ゆ゛…………?………………!?」
「君なら助けてくれるはずだと思って、道で出会った可哀相なおちびちゃんにここを教えてあげたのも僕さ。
あの時はもうあまあまを持ってなかったけど、そういえばあのれいむにあまあまを渡しておいたっけ、
あのれいむの所へ行かせれば優しいれいむがあまあまを分けて助けてくれるはずだ、そう思ってね!」
「…………あ゛………あ゛………………」
「とりあえずれいむが当面の面倒は見てくれるだろうから、その間に僕は家に戻って追加のあまあまを持ってきてくればいいや。
そう思ったんだけど………なあ、れいむ。説明してくれないかな?」
「………あ゛………あ゛…………あ゛あ゛……………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

今頃になって絶叫するれいむ。楽しい。
ちなみにあの子ゆっくり共は、そのへんにごろごろいる餓死手前の子ゆっくりをさらって集めてきたものだ。
より切羽詰った状況を演出するために軽く傷もつけてやった。

「どうして助けなかったんだい、と聞いてるんだけど?」
「…………あ゛………あ゛………だっで…………だっでぇぇ…………!!」
「要するに、れいむも自分さえよければどうでもよかったんだな。
他人がいくら死にそうになっていても、自分達さえ助かれば平気なんだ?
うまいこと言って人間からあまあまをかすめ取っておいて、他人は踏みつけにするんだー。世渡り上手だねぇ~、ドロボウさん!」
「………!!……でぼ………でぼおおぉぉ!!」
「でもも何もないよ。
人間たちもそうなのさ。自分さえよければいいんだ。まして同じ人間ならともかく、ゆっくりなんて助ける理由はないのさ。
りかい、で・き・りゅ?」

そう言いながらひらひらと板チョコを振り、新しいやつを一枚開封してばりばりと目の前で食ってやる。

「あーあ、れいむが他人を助けるゆっくりだったら今頃チョコを山盛りあげてたのになー。
あまあま沢山のパーティをみんなで開いて、さぞゆっくりできたろうなあ~」
「ゆ゛っ…………ぎぃっ……………」

れいむはぎりぎりと歯噛みしながらただ涙を流していた。

「あーあー、ガッカリだ。れいむにはガッカリだ。もうゆっくりなんか助けるのやーめたっと。
そういうわけだよ、君達。ゆっくりにはガッカリしたんで、あまあまの話もなしだから!」
「ゆ゛っ?」

道端に寄せて置いてあったポリ袋を開き、中のゆっくり達を取り出す。
まりさ種が二匹、れいむ種とありす種が一匹ずつの合計四匹、二組の番だ。道端でさらってきた。
騒がないように口にはセロテープを貼って塞いであったが、
その目は、ぎらぎらと光ってれいむを焦がさんばかりに射すくめている。

「いやあ、他人を助ける優しいれいむがいるからと、ここを教えてあげたんだよね。
僕はそのれいむに、これからあまあまを定期的にあげるつもりだから、君達も生活が苦しいなら分けてもらうといいよってね。
いやあそれがまさか、こんなことになるとはねー」
「……………そ、んな…………そんなこと…………」
「だって助けると思うじゃないか、あんなに言ってたんだから。
あ、それから、さっき君が殺したおちびちゃん達ね、こいつらのおちびちゃんだから。
大人のゆっくりは運ぶの大変だけどおちびちゃんならすぐだから、一足先に運んできてあげてたんだよね。
いやあそれがまさかねぇ~」
「…………………!!!」
「じゃ、お兄さんは興醒めしちゃったからもう帰るよ。あとはみんなで話し合ってくれ」

ゆっくり共の口に貼ったセロテープを剥がし、俺はその場を離れた。

全く、綺麗事を並べたてるゆっくりの仮面を引き剥がしてやるのは何度やっても面白い。
子供や愛護派の中には、ゆっくり如きの口車に乗せられて同情を惹かれるやつも多いが、
結局のところ、やつらは人間の会話から自分に都合のいい理屈だけを抜き出して利用しているだけなのだ。
自分の頭で考えた理屈ですらない、浅いものだ。

そんなやつらだからこそ面白い。
稚拙な正義感、身勝手な倫理観を暴いてやる痛快さ。
不毛で幼稚な遊びではあるが、まだまだゆっくり虐めから卒業できそうにはない。

あのれいむがどうなっているか、明日見に行くのが楽しみだ。

――――――――

「ゆ゛ぁ…………ぁ……………」

れいむは追い詰められていた。
あの四匹が、涙を流し、食いしばった歯の間から餡子交じりの涎さえ垂らして、地獄の鬼もかくやの形相で迫っていた。

「あ…………あ………ゆるじ、で…………」
「っっっっっはああああああああああぁぁぁぁぁあ!!!?」
「なにをゆるずんだああああああああああ!!!いっでみろおおおおぉぉぉぉ!!!」
「ゆひぃ(プシィッ)!!!」

れいむとまりさの番が怒号を発し、恐ろしさにれいむはしーしーを漏らす。

「よぐもっ!!よぐもおぢびぢゃんをごろじだなあああああ!!!」
「まりざのおぢびをっ!!よぐも!!よぐもよぐもよぐもおおおおおお!!!」
「ひぃっ………だ、っで………おぢ、おぢびぢゃんっ、が…………じに、ぞうで……」
「ありずだぢのおぢびぢゃんもじにぞうだっだのよおおぉぉお!!?」
「なんでだずげながっだあああああ!!!?なんでえええええええええええ!!!」
「あ゛………あ゛…………ず、ずぐなぐで……あばあば……おぢびぢゃんの、ぶん、じが…………」
「あれだげあっだらおぢびぢゃんみんなでわげられだでじょおおおおおお!!!?
おにいざんももっどもっでぐるっでいっでだでじょおおおおおお!!!?」
「ぞ、れは…………ゆ゛ぁ………あ゛……………ごべな、ざ…………」
「おぢびはどごっ!!?」
「ゆ゛びぃ!!?」

ありすが詰め寄ってきた。
れいむは青ざめた。なぜ、なぜそれを聞くのだ。おちびちゃんの場所を聞いて、どうしようというのだ。
れいむの、たった一人残された可愛い可愛いおちびちゃんに、何をする気なのだ。

「ごべんなざいいいいいいぃぃぃ!!」

れいむは地面に、文字通り頭を打ち付けた。

「ごべんなざいっ!!れいむがげずでじだ!!おぢびぢゃんをごろじでごべんなざいいいぃ!!」
「あやまられたっておぢびちゃんはもどってこないんだよっ!!」
「いいからおちびのばしょをいってね!!」
「ごべんなざい!!ゆるじでぐだざい!!れいむの!!だっだびどりの!!がわいいがわいいおぢびぢゃんなんでずううう!!」
「ありすのおちびちゃんをころしておいてよくもそんなことがいえるわねえええ!!?
よくも!!よくも!!よくもそんなことがああああぁぁ!!!」
「ごべんなざい!!ごべんなざい!!ずびばぜんでじだ!!ごべんなざい!!」
「おちびのばしょをいえっていってるんだぜえええ!!まりさのめをみるんだぜええええぇ!!」
「おぢびぢゃんだげは!!おぢびぢゃんだげは!!でいぶはどうなっでもいいでず!!おぢびぢゃんだげは!!」
「れいむ!!あのおうちをしらべるんだぜ!!」
「ゆっくりりかいしたよ!!」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛や゛べでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」

阻止しようとするれいむを、まりさ達が抑えつける。

「おぢびぢゃんにげでえええええええええええ!!!!」
「ゆぴぃ…………ゆぴぃ………ゆぅ………あみゃあみゃ………」

ダンボール箱の中に潜り込んだまりさの番のれいむがすぐに叫んだ。

「ゆゆっ!!くそちびがいたよっ!!」
「こっちにつれてくるんだぜ!!」
「ゆっ?ゆっ………いぢゃいいいぃぃ!!きゃわいいれいみゅのかみのけしゃんひっぱらにゃいでえぇぇ!!」

眠りからたたき起こされた子れいむが髪を噛まれて引きずり出され、れいむの前に投げ出された。

「ゆびっ!!………いぢゃいよおおぉぉ!!」
「おぢびぢゃあああああああんんん!!!」
「ゆっ!?おきゃーしゃああん!!きょわいよおおぉぉ!!」

母親の元に駆け寄ろうとしたおちびちゃんを、まりさが遮る。

「ゆっ?ゆゆっ?おばちゃん…?きゃわいいれいみゅをとおしちぇね?」
「ゆふ、ゆふふ、ゆふふふ………………」

暗い光を目に宿したまりさ達が、小さなおちびちゃんを取り囲んだ。

「これがこいつのおちびなのぜぇ…………?ゆふふふ…………」
「ゆふ………ゆふふ………このいなかもののために、ありすのおちびちゃんがころされたのねえぇ………」
「ゆふふ、ゆふふふふ…………
れいむのおちびちゃんがえいえんにゆっくりしたのに、なんでおちびちゃんはいきてるのかなぁ………?
とっても、わるいこだねえぇ…………ゆふ…………ゆふっふっふ、ゆふふふ…………」
「ゆ?ゆ?にゃんだきゃゆっくちできにゃいよ………?おきゃーしゃん?」
「おでがいいいいいいい!!おぢびぢゃんにげでええええええええええ!!!」

れいむの絶叫は、木の枝を片目に突き刺されたおちびちゃんのさらに甲高い絶叫に掻き消された。

「あ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!いぢゃああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「おぢびぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

れいむとまりさの番に両側から木の枝を突き刺され、おちびちゃんはつるし上げられていた。
木の枝は共に目玉に刺さっており、顔を下にした状態でおちびちゃんは叫び狂い、うんうんを漏らして身悶える。

「だじゅげでだじゅげでだじゅげでだじゅげぢぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「やべでぐだざいいいいいいいおぢびぢゃだげはあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「うるさいんだぜっ!!」
「ゆぎゅ!!」

もう一人のまりさに頭を捕まれ、地面に顔を叩きつけられる。
その前には黒ずんだまりさ種のおちびちゃんがいた。

「さっきからやかましいのぜぇぇぇ!!
おちびちゃんだけは、おちびちゃんだけは、おちびちゃんだけは、おちびちゃんだけは!!!
じぶんがなにをやったのかおもいだすんだぜえええええ!!!」
「ありすのおちびちゃんをいきかえらせなさいっ!!そうしたらあのこもゆるしてあげるわ!!」
「ゆ゛…………ぐ……………!!!
ごべんなざい!!ごべんなざい!!ごべんなざい!!ごべんなざい!!」
「ちっ…………またおなじことをくりかえしはじめたのぜ」
「なら、ぴこぴこさんをちぎってあげましょう」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛やべで!!やべでえええええ!!おぢびぢゃんがあああああぁぁ!!」
「ほらほら、やめてほしけりゃもっとおもしろいいのちごいをするのぜぇぇ~~♪」

ぶちぶちぶち…………

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!れいびゅのぎゃわいいびこびこじゃんがああぁぁぁぁあ!!!」
「おぢびぢゃあああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
「いぢゃいいいいぃぃぃいいいぢいいいいいいーーーーーーっ!!
じにだぐにゃい!!じにだぐにゃい!!じにだぐにゃい!!じにだぐにゃい!!
だじゅげで!!おぎゃあじゃ!!だじゅげじぇええええーーーーーーーーーーーーっ」

れいむは命乞いをした。
餡子が漏れるまで地面に頭を打ちつけ、命じられるままにうんうんを漏らしながらダンスをし、自らの体を枝でぐさぐさと刺した。
しかし、まりさ達のおちびちゃんに対する制裁は止まらなかった。

両目を抉られ全身を突き刺され、お飾りを奪われ髪を引きちぎられ、歯を砕かれ口はずたずたに裂け、
もはや元が何だったのかすらわからないボロ雑巾のようになったおちびちゃんが、れいむの前に投げ出される。

「…………ゅ゛………………ぃ゛…………」

それでもおちびちゃんはまだ生きていた。
か細い、文字通りの虫の息で、それでもびくりびくりと震えながら、命の灯をかすかに灯していた。

「ゆっふぅ~~♪これでかんべんしてあげてもいいのぜぇ!」

まりさの言葉にわずかに頬を緩め、れいむは震えるわが子に舌を伸ばす。

「ゆっとおぉぉ~~~~あんよがすべったのぜええええぇぇ!!!」

助走をつけたまりさが、横からひき潰すようにおちびちゃんの上にのしかかった。

「っぎゅべぇっ」

まりさが体をどかすと、ぬちゃぁとねばついた餡子がその底部にへばりつき、わずかに糸をひいてすぐに切れた。
後に残っているのは、砕けた玉のような中枢餡が混じった、ぐちゃぐちゃに引き伸ばされた餡子のシミだけだった。

「…………あ゛…………あ゛……………あ゛…………………あ゛……………」
「ゆふぅ…………かわいいかわいいおちびちゃん、しんじゃったのぜぇ~~?」
「まったくばかなれいむね………ありすたちのおちびちゃんをたすけてれば、こんなことにならなかったのにねぇぇ?」
「……ゆ゛………あ゛……………あ゛……………う゛……………ぅ………」
「ふん、まだまだおわりじゃないのぜ。まりさたちのきはすんでないのぜ!!」

――――――――

ヒュウ、と思わず口笛を吹く。
ゆっくりでもここまでやれるものだとは。

翌日になってあの路地裏に戻ってくると、あのれいむの残骸があった。
体の四隅に割り箸を突き刺されてゴミ袋に縫い付けられ、体に穴を開けられている。
穴といってもひどく大きいもので、まるで解剖をするように大きく裂けられた穴は内部を剥き出しにしており、
その内部も餡子をほとんど掻き出され、代わりに路地裏の埃や小石やゴミの類を詰め込まれていた。
自分の子供の死骸、そして抉り出された自分の両目も突っ込まれている。
生きたまま詰め込まれたのか、死んでから詰め込まれたのか。
裂け目に分かたれた、上部の顔面に刻み付けられた苦悶の表情から、おそらく前者だろうと思う。

見回すと、れいむが住んでいたダンボールの中に蠢くものがあった。
まりさとありすの番らしい。
覗き込むと、ぐったりと弛緩していた身を起こし、弱弱しい声をあげてきた。

「ゆ………おにいさん…………」
「あまあま………わけてちょうだい…………
ゆっくりできないゆっくりはせいっさいしたわ……だから………」

昨日れいむへの嫌がらせに使ったあの四匹のうちの一組らしかった。
れいむにコレをやった張本人か。
ここまでやっておいて、自分達はゆっくりできるゆっくりだとでも言うつもりらしい。

俺はほくそ笑み、板チョコを取り出して言った。

「おやおや。なんで君たちにあまあまをあげなきゃならないんだい?」

  そこでカンダタは大きな声を出して、「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は己のものだぞ。
  お前たちは一体誰に尋いて、のぼって来た。下りろ。下りろ。」と喚きました。
  その途端でございます。今まで何ともなかった蜘蛛の糸が、
  急にカンダタのぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて断れました。
  ですからカンダタもたまりません。あっと云う間もなく風を切って、独楽のようにくるくるまわりながら、
  見る見る中に暗の底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。
  後にはただ極楽の蜘蛛の糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございます。

                         ――芥川龍之介『蜘蛛の糸』

〔終〕