anko3789 優しい罰

Last-modified: Wed, 20 Jul 2016 09:50:39 JST (2836d)
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五匹のゆっくりたちが、醜い顔で泣いていた。
「ゆぐっ、ゆぐうっ、ゆぐぇっ……ゆっ、ゆぅぅ……」
「ゆああ……いだいよぉ……ぺーろぺーろしてよぉ……」
「あんよしゃんがうごかにゃいよ……まりちゃのあんよしゃん……」
「れいみゅのきゃわいいおきゃおが……ゆぐっ……」
「ゆんやああ! ゆんやあああ! ゆっくちさせちぇ、させちぇ、させちぇえええ!」
 パン、とハエ叩きを床に叩きつけると全員が「ゆっひい!」と叫んでたちまち沈黙した。
 大人しくなるまで、しこたま殴りつけた甲斐があったというものだ。
「よし。では君たち、私の話を聞いてくれるね?」
 ゆっくりたちは、必死の形相で頷いた。
 此処に至るまでの経緯や、メンバーはほぼ説明の必要がないほどにテンプレート。
 親まりさ・親れいむ・子まりさ・子れいむ・赤まりさの五匹からなる
家族が、我が家でおうち宣言を行ったのである。
「君たちは、人間である私の家に侵入しておうちせんげんをしでかした。
 そして、私に向かって『でていけ』などと叫んで、暴力を行使しよう
とした。ここまでは合っているかな?」
「おうち……せんげんしたのにぃ…………ひぎぃっ!」
 私は素早く、子まりさの頬をハエ叩きで叩いた。
「人間の私は、おうちせんげんに従う必要がない。分かったかな?」
 子まりさは涙しながら頷いた。
「さて。……君たちの今後についてだが」
「ま、まりさはえいえんにゆっくりしてもいいよ!
 でも! おねがいでずがら! おぢびじゃんだげは!」
「れ、れいむも! れいむもかわいいおぢびちゃんをたすけられるなら
えいえんにゆっくりじでもがまいまぜん! どうがおねがいじまず!」
「お、おどうじゃんとおがあしゃんをいじめないでにぇ!
 まりじゃが……まりじゃが……わるいんだよ!」
「れ、れ、れ、れ、れ、れいみゅも……れいみゅも……ゆんやああ!」
「だれがまりじゃをだずげでよおお! どうじでだれもだずげでぐれない
のおおお! ゆんやー! ゆんやー!」
 親と子が互いをかばい合う中、末っ子の赤まりさだけが自分優先で
暴れ回っていた。恐らく、「すえっこあいどる」として皆に甘やかされて
育ったのだろう。
「まあ安心しろ。お前たちを殺すことはしない」
「ゆうう!? ほんどでずが!? ありがどうございまず!」
「ただし、お前たちは元の巣に戻って貰う。それはいいな?」
「ゆ……ゆっぐりおうぢにかえりまず……」
「おうちにかえれるんだよ、まりちゃ……」
「ゆっくりだいじょうぶだよお、よかったよお……」
 安心してゆっくりしようとする家族に、私は再度ハエ叩きを床に叩きつけた。

「「「「「ゆひい!?」」」」」

 たちまち怯えるゆっくりたちに、私は厳しい声で告げた。
「ただし。その前に、お前たちには罰を受けて貰う。殺さない、うちに帰らせてやる代わ
りに――な」

『優しい罰』 マンネリあき

「ばつ……? ばつって……その、ぺちぺちさんなら……もう……」
 親まりさが、恐る恐るといった様子で私が持つハエ叩きを見た。
「違う違う。このハエ叩きは、お前たちが大人しく私の話を聞くための道具だ。これがな
かったら、お前たちはいつまで経っても私の話を聞こうとしないだろう?」
「ゆぅ……」
「心配するな。その罰を受けても、死にはしない。それは保証する。それどころか、耐え
たら体力を補給するためのあまあまだってくれてやる」
「あまあま!? ほんどうにぐれるの!?」
「あまあま! あまあまちょうだいね! あまあま!」
「ゆびい! あまあまはまりちゃのものだよ! ゆっくりしないでだしてね!
 すぐだよ! すぐにおねがいね!」
 あまあまと聞いて騒ぐゆっくりどもを、もう一度ハエ叩きで黙らせる。
「罰を受けて帰るか。それともこの場で死ぬことを選ぶか。どちらを選べ」
「ゆ……」
 ゆっくりたちは顔を見合わせ、全員一致というように頷いた。
 まあ、さすがにこれは当たり前だろうな。
「まりさたちは『ばつ』をうけるよ! にんげんさんもやくそくはまもってね!」
「ああ、守るとも。それじゃあ、罰の一つめだ」
 私はまず、目薬の容器を取り出した。中には唐辛子エキスを希釈した水が入っている。
 親まりさを掴み、あぐらをかいて足で彼を固定すると、片目を開けるように指示した。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆぅ……」
 震えるまりさの瞳に、唐辛子エキスを垂らす。幸い、瞼に塞がれることなく一発で目に
浸透した。
「ゆ、ゆ、ゆ………………ゆぎゃああああああああああ! がらい! おべべざんが
がらいよおおおおおおおお!」
 暴れ狂う親まりさを放り投げ、震える親れいむを掴んだ。
「やべでね! ゆっぐりじでね! ゆっぐりじでよおおおおおおおおお!」
 親れいむにも、唐辛子エキス入りの水を目玉に垂らす。
 やはり、親れいむも親まりさと同じ反応をした。
「れいぶのおべべざん! ゆっぐりじで! ゆっぐりじでえええ! うあ゛あ゛あ゛!
がらいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 両親の狂騒にただ震えるしかない子ゆっくりと、赤ゆっくりにも、当然のように垂らす。

「ゆっびゃああああああああああああああああああ! がらい! がらずぎるうう!」
「おべべがいだぐでまっじろだよおおおおおおおお! ああああいだいいだいいだい!」
「どうちてまりちゃをたちゅけてくれないのおお! うあああがらいいいいいいい!」

 この唐辛子エキス入りの水、実はかなり薄めだ。
 ただし、ゆっくりの目玉のように敏感な部分となると、回復するには相当の月日を要す
る。大体、三ヶ月というところだろう。
 もちろんそれは、彼らがきちんと暮らせた上での話であるが――。

 五匹が落ち着くのを待って、私は五寸釘と画鋲とカッターナイフ、それにオレンジ軟膏
を取り出した。
 親まりさが(片方の目が白濁している……失明状態だ)「ちくちくさんはゆっくり
できないよ……」などと呟いていた。
 私は親まりさを引き寄せ、腫れ上がったあんよを空へ向けた。
「ゆぅっ……!」
 未だ残る痛みと恐怖で、ガクガクと震える親まりさ。
 先ほどまで痛みに嘆くしかなかった家族たちも、新たな罰が始まったことを理解して、
父を不安そうに見つめている。
「少し痛いぞ。歯を食い縛れよ」
「ゆっ…………ゆううううううううううううううううううっ! いじゃい!
 やめで! やめでえ! ざげじゃう! まりざのゆっぐりじだあんよがざげじゃうよ
おおおおおおおおおお!」
 裂けちゃう、というか裂けているのだよ、まりさ。
 私はカッターナイフであんよを切り裂き、そこに五寸釘を埋め込んだ。
「ゆひいい!? なにが……! なにがまりざのあんござんにはいっでる……!
 ゆっぐりでぎないいいいい!」
 親まりさのあんよ付近の餡子に五寸釘を二本埋め込み、私はオレンジ軟膏で傷を塞いだ。
 オレンジ軟膏を塗った瞬間、親まりさは安堵の表情を浮かべたが、
それが他の家族の救いになるはずもない。
「さて、次はお前等だ」

「やべで! やべでええええ! れいぶのみっわぐでぎなあんよざんがあああああ!
 やだやだやだあああああああ! れいぶのあんよざんにひどいごどじないでええ!」
「まりじゃのおうごんっのあんよざんがああああああああああああああ!」
「れいみゅのあんよざん、れいぷじないでえええええええええええええ!」
「だずげてよおおお! まりちゃいだいいだいだよおおお! おどうじゃああん!
 おがあじゃあああああああああああん!」

 親には五寸釘を二本、子供たちには画鋲を三個から二個。
 それぞれ、餡子の内部に入れた。
 口からではなく、おまけに鉄ともなると、ゆっくりたちの強力な餡子変換機能も効果が
薄い。うんうんとして排出されることもなく、当面の間は異物として内部に留まり続ける
のだ。

 続いて、おかざりを適度に汚す。
 完全に破壊するのではない、そんなことをしまえば廃ゆになる危険性がある。
 彼らは、野良ゆっくりにしては綺麗なおかざりだ。余程大事に扱っていたのだろう。
 そんな自慢のおかざりを、少しだけ「ゆっくりさせなく」する。
「やべでえええええええええええ! まりざのおぼうしさんがああああああああああ!」
「れいむのきらきらひかるおりぼんざんがあああああああ! ゆっぐりでぎないよおおお
おおおおお!」
「まりしゃの……まりしゃのおぼうしさん! おぼうしさああん! どうしてこんなごど
ずるのおおおおおおお!?」
「やじゃやじゃやじゃ! れいみゅの……れいみゅのおりぼんざんをきっちゃだべえええ
えええええええ!」
 テンプレート的悲鳴を流しつつ、まりさの帽子は先端部分をカットし、れいむのリボン
は端っこを切り取った。
 ついでに、明日にでも捨てるところだった生ゴミの汁をちょいちょいとつけてやる。
「ゆぐっ、ゆぐっ、ゆぐっ。まりさのじまんのおぼうしさんが……」
「いい加減泣き止まないと、お前等のおかざりを燃やしてもいいんだぞ?」
 効果覿面。ゆっくりたちは震えながら、必死になって泣くのを止めた。
 ただし、赤まりさだけはとにかく酷く泣き喚いた。恐らく、私の話をまるで聞いていな
いのだろう。

 そして、最後の罰。
 親まりさと親れいむの、子供を作る機能を破壊する。
「やべでええええええ! ぞれだげは! ぞれだげはゆるじでぐだざい!」
「れいぶだぢもっどもっどおぢびじゃんをづぐりだいんでず! だいかぞくがゆめだった
んです! どうか、どうかおじひをくださいいいいいいい!」
「そうか、今以上におちびちゃんを作るってことは、今いるおちびちゃんはもういらない
ってことだな?」
 そう言いつつ、私は子ゆっくり二匹をその手に握り締めた。
「ゆびい!?」「ちゅぶれりゅうう!」
 親まりさと親れいむが、やめてやめてと泣き叫ぶ。
「選べ。この二匹の命か、それとももうおちびちゃんを作れなくなってもいいか」

 ハンダゴテを使い、まず額を焼いた。
「ゆひいいいい……! あづいよおおおおおおお!」
 苦痛を与えることが目的…………ではなくもないが、不必要に与えるつもりもないので、
適度に済ませる。
 それから、まむまむとぺにぺにを焼く。
「ゆ゛っ゛……ががががががががああああああああああああああああ! あづいあづいあ
づいあづいあづいいいいいいいいいいいいい!」
 完全に子作りの機能を喪失した時点で、オレンジ軟膏を塗ってやる。子宮と精子餡の貯
蔵部分が破壊されたため、子供を作ることは不可能になったが、これで傷そのものはひと
まず治療できる。
「ゆひぃっ、ゆひぃっ、ゆひぃぃぃ……」
 オレンジ軟膏で落ち着いた親まりさは、自身が二度と子供を作れないことを理解し、涙
した。
「れいぶのまむまむ! れいぶのまむまむがあああああああああああああ!
 やっぱりいやですううううううう! おねがいだがらがんにんじでぐだざいいいい!」
「なら、子供を殺すか?」
「それもいやあああああああああああああああああああ! おねがい! おねがい! ゆ
っくりじでゆっぐりじでゆっくりじでゆっくりゆっくりゆっくり……いぃ゛いいい゛いい
いいい゛いいいいいいいいい!?」
 親れいむもまむまむとぺにぺにを潰され、額を焼かれた。
 オレンジ軟膏も、精神的なダメージまでは癒せない。
 ゆぐゆぐと泣く彼らに、私は「これで罰は終了だ」と告げた。

「ゆっ、ゆっ、ゆぅっ……にん、げんざん、あばあばを……」
「ああ、やるとも。だが、その前に傷の治療をしてやろう」
「……ゆ?」
 私は先ほどと同じく、親まりさから順番にハエ叩きで腫れ上がった部分をオレンジ軟膏
を塗ってやった。
「ゆあああ……いたくなくなってきたよ!」
 もちろん、全て治療する訳ではない。とりわけ目立つ頬の部分にある腫れなどは、あえ
て残すことにする。
 順番に治療していき、餌皿にオレンジジュースを注ぐ。争いにならないよう、五匹それ
ぞれに皿を用意した。
「一応言っておくが、飲みながらしあわせー、などと叫ぶなよ。零れたらまたハエ叩きだ」
「ゆっくりりかいしたよ! それじゃあみんな!」

「「「「「ゆっくりいただきます!」」」」」

「ごーくごーく…………し、しあわっ…………ごーくごーく……」
 親まりさがギリギリでしあわせーを自制した。
 親れいむ、子まりさ、子れいむもどうにか間に合ったが……。
「しあわちぇーーーー! しあわちぇーーーーーーーーー!」
 赤まりさだけが、オレンジジュースを零しまくっていた。
 青ざめる親たちを一瞥し、私は無言で赤まりさの皿から飛び散ったオレンジジュースを
拭き取った。
「まあ、コイツはもういい」
 私がそう言うと、不安そうだった親まりさはホッと笑顔を浮かべた。
「にんげんさんも、おちびちゃんのみりょくにはかてなかったんだね!」
 とか思っているのだろう。

 さて、家族たちはこの家に乱入してきたときほどではないものの、
ハエ叩きで徹底的に痛めつけられたときよりは「マシ」な程度になった。
 痛みはまだひりついて残っているだろう。
 恐怖はまだこびりついて離れていないだろう。
 それでは、最後の「温情」をくれてやろう。
「さて、お前等。これで罰もあまあまも全て終了。帰っていいぞ――――と、
その前に、一つ言いたいことがある」
「ゆ!? な、なに……? まりさたち、もうにどとにんげんさんのおうちで
おうちせんげんしないよ……」
「それじゃない。コイツのことだ」
 赤まりさを摘み上げた。
「ゆわーい、おそらをとんじぇるみちゃい!」
 鬱陶しいので、赤まりさを両手の指でしっかりと掴む。
「ゆび!? いじゃいよおおおおお!」
「おちびちゃん!? なにするのおおお!? ばつはおわっだでしょおお!?」
 反省していた親れいむも、さすがにおちびちゃんのこととなると猛烈な勢いを
取り戻す。だが、私がハエ叩きを握るとすぐに押し黙った。
「ああ、罰は終わった。聞きたいことというのはだな……コイツ、野良で生きていけると
思うのか? ってことだ」
「ゆ?」
「ゆゆ?」
 親まりさと親れいむは、顔を見合わせる。
「さっきから注意して見ていたが、コイツは他の子のようにお前たちを庇うこともなかっ
たし、痛いことを我慢するということすらなく、ひたすら父親と母親の名を叫んでいた。
 おまけに、私が言っていたことをほとんど聞いていなかった。そこの二匹は、内容は完
全に分からずとも、聞こうとする態度は見せていたにも関わらず、だ」
 とん、とん、と人差し指で赤まりさの頭を叩く。
 その度に、赤まりさは絶叫して助けを呼んだ。
「おどうしゃあああん! おかあしゃあああん! どうちて!? どうちてたちゅけて
くれないのおおおおおおおおお! ゆんやあああ! ゆっくちできない! ゆっくちでき
ないよおおおおお!」
「ゆぐっ……お、おちびちゃん。ゆっくりおちついて、ね?」
「おちつけないよおおおおおおおおおおお! いじゃいよおおおおおおおおお!
 はやくこのにんげんをたいじしちぇよおおおおおおおおおお!」
「人間は成長が遅い代わりに、いつでも生まれ変われる余地がある。どんなゲスな人間で
も、更正できる可能性は常にある。だが、お前たちゆっくりは「一旦」ゲスになったら、
とことんまで「ゲス」であり続ける」
「お、おちびちゃんはげすじゃないよ!」
「いもーちょはげすじゃないよ! ちょっとあまえんぼうさんなだけだよ!」
「そうじゃよ! いもーちょはげすじゃない!」
「お前たちの言う「ゲス」ってのは、他ゆの家を奪ったり殺したりする奴のことだろ。
 ここでいう「ゲス」ってのは「自分がゆっくりすることしか考えてない」ゲスのことだ」
「ゆぐ!」
 親まりさと親れいむが、ぎくりとした様子で伸び上がった。
「気付いているだろ?」
 指先に力を篭める。
「ゆべ! いじゃい! いじゃい! やめちぇ! やめちぇよお!
 ゆっくちさせちぇ! おとうしゃん! おかあしゃああん!」
「お前たちは、こいつを甘やかしすぎた。末っ子のあいどるだからって、何でも好き放題
させたんだろ?」
「ゆ……それは、」
「そうだな?」
 嘘を許さぬ、という私の視線に親まりさはこくんと頷いた。
「いじゃいよおおお! やべでえええ! ゆっぐりざぜでえええええええ!」
「自分がゆっくりすることしか考えてない。他のゆっくりは、全部自分をゆっくりさせる
為に存在する」
「おとうしゃああん! たちゅけてええ! きゃわいいまりちゃをたちゅけてよおおお!
 ゆび! いじゃい! いじゃいいいいいいいいいいいい! ちゅぶれりゅうう! きゃ
わいいきゃわいいまりちゃがちゅぶれちゃうよおおおお!?」
「そんなゆっくりが、この先も生きていけると、思うのか?」
 野良ゆっくりで、甘やかされたゆっくりなどまともに生きていけるはずがない。
 親がでいぶやゲスならば、そしてゆっくりの死体を躊躇いなく食べるような道を外れた
ゆっくりならば、問題ないかもしれないが――それは真っ当に生きているとは言いがたい
だろう。
「おびょ! おびょびょ! あんござんでちゃうよおおおお! どうちてたちゅけてくれ
にゃいのおおおおおお!」
「…………ゆ…………」
「いいか、この赤まりさを全員ちゃんと見ろ。お前らが甘やかした結果が…………これだ」
「ちびゅぶ! ちびゅぶぶ! …………びゅびゅうううううううううううう!!!!」
 私は力を篭めて、赤まりさを押し潰した。
 目玉がすぽんと飛び、餡子が目玉と口としーしーあなとあにゃるとまむまむからドロリ
と零れ落ちる。
「ゆびゃあああああああああああああああああああああああああああ!
 まりさのおちびちゃん……おちびちゃんがあああああああああああ!」
「ゆあ……ゆあああああああああああああああああああ! おちびちゃん! おちびちゃ
ん! おちびちゃあああああああああああああああああああああああん!」
「いもーちょおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「どぼじでええええええええええええええええええええええ!」
 四匹が涙を流して絶叫する中、私は赤まりさの死体をティッシュでくるんでゴミ箱に捨
てた。泣きじゃくる彼らを、ハエ叩きで黙らせて告げる。
「さて、公園までは運んでやろう。箱に入れ」

 こうして、「罰」は終わった。
 死んだのは末っ子あいどるの赤まりさのみ。
 虐待にしては、何ともはや甘い結末である。彼らは未だ生きていて、公園に住んでいる
のだから。

 ……そう、生きているのだ。
 彼らはまだ生きている。
 ここからが、「私が作り出した彼ら」の話の佳境なのだ。
 私は彼らに「優しい罰」を与えた。
 しかし、その罰が「過酷」であるかどうかは伝えてはいない。
 世の中には「優しいからこそ過酷な罰」というのもあるのだ。
 わたしはほくそ笑みながら、公園に仕込んだwebカメラをチェックした。

 本来の「おうち」であったダンボール箱は、特に新たなゆっくりが存在することもなく、
幸運なことに、保存していた食料も無事だった。
 男は透明な箱からそっと彼らを取り出し、ダンボールに入れた。
「じゃあな。二度とくるなよ」
 男が立ち去っていく。だが、突然くるりとこちらを向いてやっぱりまだ虐待し足りない
とか言い出さないかと、ゆっくり一家たちはびくびくしてその背中を見守っていた。
 だが、彼は振り向くこともなく公園から姿を消した。
 それでもしばらくの間、家族は体を寄せ集めて震えていた。
 やがて……。
「もうだいじょうぶ……みたいだね」
 という、親まりさの言葉をきっかけに彼らはほーっと安堵の息を零した。
「ゆっくりしていってね!」
 という親れいむの言葉に、子供たちはやや精彩を欠いた笑顔で応じた。
「ゆっくちしていってね!」
 親まりさは暗い表情で、ダンボールの隅に置かれた小さな帽子を眺めた。
「おちびちゃん……ごめんね……」
 あの人間のしたことは、とても酷いことだ。
 許せない――だがその一方で、彼の言葉が正しいのも事実だった。
 あの赤まりさは、いくら何でも我が侭が過ぎていた。遠からず、何かしでかすかも
しれないという予測は漠然としていたのだ。
 最初に産み落とした二人のおちびちゃんがまともに育ってくれたので、その油断もあっ
たかもしれない。
「まりさ。れいむもかなしいけど、しかたないよ。……いきてもどってこれたんだから」
 親れいむが、慰めるように親まりさにすーりすーりを開始する。
「そうだね……まりさたちはいきているんだから」
 親まりさがすーりすーりを返す。
 やがて子ゆっくりたちも加わり、心の傷を癒すようにすーりすーりし続けた。

 ……彼らが人間の家から戻ってきて、これが最初で最後の「ゆっくり」であった。

 翌日。
 親まりさは、日常に戻ってきた喜びを感じながら「それじゃあ、かりにいってくるね!」
と親れいむに告げた。
「いってらっしゃい! きをつけてね!」
「おとうしゃん、がんばってにぇ!」
「ゆゆーん、まりしゃもはやくかりについていきたいよ!」
 ああ、これが日常だ。
 どうしてあんな、ただ広いだけのおうちに拘っていたのだろう。
 そんなことを考えながら、親まりさはいつものようにずーりずーりと歩き出し――。

「いだっ……!」
 ズキン、と鋭い痛みを覚えて立ち止まった。
「ゆぐっ……なにこれ……」
 あんよの周囲を、突き刺されるような痛みがあった。すぐに、昨日の出来事を思い出す。
「“ばつ”のくぎさん……」
 そう、親まりさの中にはまだあの釘があるのだ。
 人間に例えるならば、踵に針を突き刺されたまま歩くというところだろうか。
 とてもではないが、まともに歩けるはずがない。
「ゆ、ゆ、ゆっ……ゆぐっ……」
 一歩歩くたびに、全身に襲いかかる痛みを堪えながら、親まりさはどうにか雑草が生い
茂る草むらに到達した。
「ゆっくり……かるよっ……」
 親まりさは、野良ゆっくりの中では達人とは言わずとも狩りの上手い方であった。
 道端のゴミを漁ることも、ミミズや芋虫、蝶といった「美味しいもの」を取ることも、
雑草を狩ることもだ。
 だが、爆弾のような苦痛を抱えたままではそれら全てが上手くできるはずもない。
「どうしてっ……まりさ、かりのたつじんだったよっ……どうして、どうして……!」
 悔し涙を流しながら、まりさはひたすら雑草を刈り続けた。

 夕暮れ、ともすればれみりゃが出てくるギリギリの時間帯まで親まりさは雑草を集めた
が、痛みのせいでいつもの半分ほどしか集められなかった。
 泣きながら親まりさは少ないご飯を運び、あんよの痛みを我慢してお家へと戻った。
「ゆぐっ、ゆぐっ、ゆっぐりっ、ただいまっ、ただいまぁっ……」
「ゆっぐり……おがえりなざい……ゆぐぅっ」
「ゆえええん……ゆええええん……」
「ゆびっ、ゆびっ、なか、なかないでよおまりしゃあ……ゆあああん……」
「ど、どうしたのおお!? なにが、あっだの!? まさか……にんげんざんが!?」
 親れいむはふるふると体を横に振った。
 どうやら、あの人間が来た訳ではないらしい。
「れ、れいむたちがおそとにでようとしたら……あんこさんがいだぐでっ……」

 それで親まりさも思い出した。そう、親れいむたちも同じ罰を受けていたのだ。

「まりしゃは……ごきんじょしゃんのみょんとあそぼうとおもっだら……いだぐで、
はしれなかったんだよっ……」
「れいみゅも……ありしゅおねえしゃんに、とかいはなこーでねーとをおしえて
もらおうとおもっだのにぃっ……!」
 この公園の野良たちは、群れを築いている訳ではない。各自が勝手に家族として
ダンボールを占拠し、ご近所づきあいをしているだけだ。
 それでも、穏やかな気質を持つまりさ一家は近所とはそれなりに仲良く付き合っていた。
 だが……。
「そ、それにね。れいむたちが……にんげんたちのおうちで『おうちせんげん』したこと、
しられてたよっ……」
「ゆび!? ど、どういうことなの……!?」
「わからないよっ、わからないけどっ……み、みんな……ゆっくりできないめでこっちを
みるんだよっ……!」
 親れいむの言う通り、近所のゆっくりたちは、このまりさ一家が野良にしてはもっとも
愚かな行動をしたのを皆知っていた。
 冷たい目をしているのは、彼らが自分たちを巻き込みはしないかという恐れもあり……
そして、おかざりの破損と怪我による「ゆっくりしていない」状態に陥った彼らへの蔑み
もあった。

「おとうしゃん……おなかすいたよ……」
「れいみゅも……」
「ゆ! そ、そうだったね! ごはんさん、ゆっくりむーしゃむーしゃしようね!」
 親まりさは家族を励ますかのように笑顔を浮かべ、帽子の中の雑草を取りだした。
「……」
「……」
「……」
「さ、さあ! みんなでむーしゃむーしゃしようね!」
「……うん……」
「むーしゃむーしゃ……」
「しようね……」
 気まずい沈黙の中、彼らはいただきますをすることもなく、無言で雑草をもそもそと食
べ始めた。
「……むーしゃむーしゃ……ふしあわせー」
「むーしゃむーしゃ……まずいね……」
「むーしゃむーしゃ……にんげんさんのおうちでのんだあまあましゃん……おいしかった
にぇ……」
 まりさ一家は、これまでなら「それなりー」に留まっていたはずの雑草の味が、「ふし
あわせー」ランクにまで下がっていた。
 原因は、言わずもがな人間の家で飲んだ「オレンジジュース」である。
 彼らの餡子が、まだあのゆっくりできた味を記憶しており、どうしてもそれ以下の味を
ランクダウンさせてしまうのだ。
 幸い甘さを控えめにされていたせいもあり、雑草を食べ続ければ次第に「それなりー」
の味を取り戻していくだろう。だが、それには長い時間がかかる。
 それまでは、この不味さに堪え忍ばなければならないのだ。

 ――それからも、まりさ一家は「ゆっくり」できない日々が続いた。

 釘と画鋲の痛みは、じくじくとまりさたちの餡子を苛み続ける。
 ずーりずーりと歩くたびに痛い、ただじっとしているだけでも、そこはかとない
異物感が彼らを苦しめた。
 ぴょんぴょんなどもってのほかだ、一度だけ試しにやってみたところ、親まりさは
あまりの痛みに涙を流し、ただ歯を食い縛って耐えるしかなかった。
「まりちゃ……むかしみたいに、とらんぽりんさんしたいよ……」
「ごめんね……おちびちゃんにとらんぽりんさんはできないよ……」
 健康体であれば、少しくらい大きくなった子まりさでも、親まりさが踏ん張れば何とか
なった望みだ。
 だが、もう不可能だ。とらんぽりんで、腹部を押し潰されたときの痛みを想像し、親ま
りさはぞっとした。
「れいみゅ……みみずしゃんがたべちゃいよ……いもむししゃんでもいいから……」
 子れいむが、好物だったものの名前をあげる。
 親まりさは悲しげに首を横に振った。
「ごめんね……おとうさん……みみずさんも、いもむしさんも……つかまえられなくなっ
たんだ……ほんとうにごめんね……」
 ミミズも芋虫も、親まりさは狩れない。それまで、他に先んじて見つけて捕まえていた
が、今では他のゆっくりにあっさりと奪われてしまう。
 原因は、「目」だ。親まりさの片目は、例の唐辛子エキスのせいで未だ視力が戻ってい
ない。栄養不足も加わって、いつまでも治らずにいた。
 それどころか、最近はゆっくりとだがもう片方の目もじくじくと痛み始めているのだ。
 だから、親まりさはミミズや芋虫を見つけられなくなってしまっていた。
「ゆっくり……したいよ、まりさぁ……」
「ごめんね、ごめんね、ごめんね……!」
 毎日毎日、不味く少ない雑草を食べた後は寄せ集まってすーりすーりだ。
 だが、初日の希望に満ちたすーりすーりではない。
 ただただ、お互いのゆっくりが消えて無くなったことを嘆くだけ。
 何の解決にも、希望すら見つからない「絶望のすーりすーり」でしかない。

 そうして、秋も半ばを過ぎた。
 親まりさは、焦り始めていた。
(ごはんさんが……このままじゃたりないよ……)
 そう、間もなく冬である。
 野生のゆっくりとは違い、長期間の越冬まではせずとも、寒い冬の間は活動時間が厳し
く、天候も悪い。だから、出来るだけ多くの食料を集めなければならないのだが――。
 栄養不足故に、いつまで経っても片目が治らず、釘も餡子に変換できない。
 その為に、狩りが上手くできない。一日の食料を集めるために、出来るだけ長時間の狩
りに勤しまねばならない。
 それ故に、親まりさは一層疲弊して体が休まらない。
 何とも酷い悪循環だ。

 そんな折り、まりさ一家のもとにかつて近所づきあいをしていたまりさとありすの番が
やってきた。
「ゆ、ゆっくりしていってね! どうしたの、まりさ、ありす!」
 まりさとありすは、ニヤニヤと笑っていた。
 何となく、ゆっくりできない笑顔だな、と親まりさは思った。
 そのまりさが、帽子の中から食料を取り出した。
「ゆゆ……みみずしゃんだ!」
 子れいむが涎を垂らした。
「ゆひひ。このごはんさん、まりさたちがよかったら分けてあげてもいいのぜ?」
 まりさたちの顔が、喜びに輝いた。これと今日の狩りの分を合わせれば、今までと同じ
程度の食料になる。
「ほ、ほんとう!? ありがとうまりさ! ゆっくりしてね! ゆっくりしていってね!」
 早速貰おうとする親まりさがおさげを伸ばすと、そっとまりさはその食料を掲げた。
「ゆ?」
「とりひきなんだぜ。まりさたちはきちょうなきちょうなごはんさんをあげるのぜ。
 だから、まりさたちもたいせつなものをこちらにあたえるのぜ?」
「それがとりひきよね、とってもとかいはだわ」
「ゆ……で、でもまりさたちには……」
 与えられるものなど何もない。
 あるとすれば、子まりさや子れいむたちの宝物だが……そんなもの、彼らが必要だとは
思えない。
 まりさが、にたりと笑って言った。
「……まりさも、れいむも、すっきりー! してもおちびちゃんがうまれないってきいた
のぜ?」
「「ゆゆううううううう!?」」
 親まりさと親れいむが跳び上がった。
「まりさとありす、すっきりーははるさんまでおあずけでね。……ちょっと、たまってい
たのよねぇ……」
 ありすがまりさを見て、ニタリと笑う。
「ゆ、ゆ、ゆ……ぞ、ぞんな! ぞんな! がんべんじでぐだざい!
 それいがいだったらなんだっでやりまずがら!」
「い、いやだよ! れいむ、まりさいがいとすっきりなんて……!」
「あっそう。それなら、このごはんはなかったことにするのぜ」
 まりさが帽子に食料を戻す。
「みみずしゃん……むーしゃむーしゃして、しあわちぇーになれるみみずしゃんが……」
 子れいむが、それを見て涙を流した。

「ゆ……ゆ、ゆ、ゆぅぅぅぅ!」
 親まりさは七転八倒してから、絞り出すように声を出した。
「わ、わがった……よ……。で、でもせめてまりさだけにしてね……」
「まりさあ!?」
「べつにかまわないけど、それならごはんさんもはんぶん。そっちのおちびちゃんが
だあああいすきな、みみずさんもないのぜ?」
 沈黙。
 ゆんゆんと啜り泣く子れいむの声だけが、ダンボールに響く。
「……れ、れいむが……れいむが……すっきりー、すればいいんだね……?」
「れいむ!? やべで! やべでね!」
 まりさが泣きながられいむを止めようとするが、れいむは笑い泣きの表情で、
ふるふると首を横に振った。
「まりざ……だいじょうぶだよっ……あいしているのは、まりさだけだからねっ
……! すっきりー、してもこころは、よごれないよ……!」
「れいぶ……れいぶううううううううう!」
「とりひきせいりつ、だぜ」
 まりさとありすは、ニヤリと笑いながら二人のゆっくりに近づいて行く。
 親まりさは、引き攣ったような笑顔で子ゆっくりに告げた。
「おちびちゃん! いまから、じっとしてめをつむってね! へやのすみっこで
うごいちゃだめだからね!」
「ゆ、ゆっくり……りかいした、よ……」
 ただならぬ様子に不安を感じながら、子ゆっくりたちはダンボールの隅に移動した。

 そして、親まりさと親れいむにとって地獄のようなすっきりが始まった。
「ゆあああああああ! やべで! やべでえええええ! いだい! いだいよおお!」
「ゆひひひひひ! ざらざらしただらしないまむまむだぜえええええ!
 でもなんかいでもすっきりー! できるからゆなほがわりにはなるのぜええええ!」
 未だ完治していないまむまむをまりさのぺにぺにで責め立てられ、親れいむは絶叫した。

「ゆああああああああ! れいぶううう! れいぶううううう!」
「んほおおおおおおおおお! つかわれてないぶんひきしまったまむまむだわあああ!
はつものよおおおお! はつものですっきりできるわあああああああああ!」
 親まりさは、これまで一度も感じたことがなかった――これからもそうだと思っていた、
まむまむを責め立てられるという感覚のおぞましさに絶叫した。

「ああああああ! まりざ! まりざあああああ! だずげで! だずげでええええ!」
「ゆっへっへ! れいむのあいするまりさとやらは、ありすにすっきりーさせられてこし
をふってるのぜええええ!」
「ゆんやああああああああああ! いやだよおおおお! まりさすっぎりじだぐないいい
いいいいい! だずげで! だずげでええええええええええええ!」
「んふふふふふふふふ! ねえどんなきもちいいい!? あいするれいむのまえで、まむ
まむをおかされるのってどんなきもちなのかしらああああああああああああ!?」

 親れいむと親まりさが、それぞれ部屋の隅で悲鳴を上げる中、別の隅で子まりさたちは、
ただただ震えていた。
「……ゆ……ゆううううううう!? にゃにごれ! にゃにごれえええええ!」
 親まりさが、子れいむの悲鳴に閉じていた目を開けた。
「ゆんやあああああああ! おちびちゃん! おちびちゃんめをとじてええええええ!
 みないで! まりさたちをみないでよおおおおおおおおおおお!」
 子れいむは、親たちのただならぬ様子に思わず目を開いてしまったのだ。
 そして、見た。
 いつでも頼もしい、そして優しく自分を愛していた両親が、おぞましい欲望に犯されて
いるその姿を。
「ゆ、ゆげええええええええええええ!」
 子れいむが反射的に餡子を吐いた。
「おちびちゃん! あんこはいちゃだめええええええええええええええ!
 まっで! ちょっどまっでぐだざい! ぺーろぺーろさせてぐだざい!
 おちびちゃんをぺーろぺーろさせてぐだざいいいいいいいい!」
「ぺーろぺーろなら、ありすがしてあげるわよおおおおおお!
 んっほおおおおおおおおおおおおお! まりさのなみだあまくておいしいわあああ!
 ぺーろぺろ! ぺーろぺろおおおおおおおおおおお!」
 人懐こい犬が、飼い主にするように。ありすは親まりさの顔をぺろぺろと嘗め回した。
「あっちははげしいんだぜえええええええ! れいむもまりさとぺーろぺーろするんだ
ぜえええええええ! ぺーろぺろ! ぺーろぺろおおおお!」
 まりさも同じく、親れいむの顔を嘗め回した。
 そればかりでなく、突き出された舌をご褒美とばかりに絡ませる。
「やだああああああああ! ちゅっちゅはまりさとだけなのおおおおおおおおおお!
 あああああ! まりさだずげでええええ! れいむをだずげでえええ!
 おちびちゃんをだずげでよおおおおおおおおおおおおおお!」

「ゆげ……ぎぼぢばるい……ぎぼぢばるいよおおお……」
「れいみゅ! れいみゅしっかりしてええええええ!」
 子まりさは目を閉じたまま、無我夢中でぺーろぺーろをするが、親でもない子まりさで
は、さしたる効果もない。
「ゆっはあああああああ! いぐよいぐよいぐよおおお!
 まりさすっきりーするのぜええええええええ!」
「いやだあああああ! すっきりいやあああああああああ!」
「ありすもいっちゃうわよおおおおおおおおおお!
 まりさもじゅんびはできてるわねえええええええ!」
「はやぐ……はやぐおわっでええええええええええええ!」
 番であるまりさとありすは、二人同時に絶頂に達した。

「「すっきりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」」
 否応なく、受け手である親まりさと親れいむも絶頂に達してしまう。
「「すっぎりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」」

 ……疲労困憊で息を切らす彼らの前に、まりさが先ほどの食料を置いた。
「それじゃ、これが今回分なのぜ。……また、たまってきたらよろしくたのむのぜ?」
 まりさとありすが、揃って満足げな表情で立ち去った。
「おち……びちゃん……」
「ゆげえ……ゆげえええ……ぎもぢばるい……」
 この子れいむ、すっきりを知らなかった訳ではない。
 だが、親から学んだことはすっきりは、「神聖」な儀式だということ。
 愛し合い、子供を作るための大切な行為であり、無闇矢鱈にやるなど恥ずべきことだと
学んだのだ。
 そんな教えを与えたはずの両親が、「欲望」に塗れたすっきりをしていた。
 その嫌悪感が、子れいむに餡子を吐き出させてしまったのだ。

 結局、子れいむは食欲も失せて、ミミズを食べなかった。
 その日、四人の家族は一層啜り泣いた。子れいむが、「汚い」親たちから離れようと
しているのが、尚更両親にとってはショックだった。

 それから、彼らは食料だけは「ギリギリ」冬を越せるかどうか、というレベルを堅持し
ていた。だが、そこに喜びもゆっくりも一切存在しない。
「ゆへへへへ……またたのみにきたんだぜ?」
「ゆふふ。これが『こうしゅうべんじょ』のまりさとれいむだねっ。
 きたないつらだけど、おちびちゃんがうまれないまむまむをもっているなんて、
ゆっくりしているね!」
 近所のまりさとれいむの番が、ニヤニヤ笑いながら彼らのお家へと訪れた。
「……」
「……」
 親まりさと親れいむは、悲痛な表情で食料を受け取る。
 まりさがヘラヘラ笑いながら、番のれいむに言った。
「ゆへへへへ、なられいむも『おちびちゃんがうまれないまむまむ』ほしいのぜ?」
 れいむが笑って言う。
「じょうっだんじゃないよっ! おちびちゃんがうまれないまむまむなんてけっかんひん
だよっ。ゆっくりできないにもほどがあるよっ!」
「ゆへへへへ。まあ、まりさたちをゆっくりさせてくれるというてんではゆっくりしてる
のぜ! それじゃあれいむ、いつものたのむのぜ!」
「ゆ……ゆっくり、たのしんでいってね……」
 親れいむが、すっかり使い込まれたまむまむをひらいた。
「きょうはあにゃるすっきりーのきぶんだよ! まりさはあにゃるさんをひらいてねっ」
 既に親まりさは、あにゃるでもすっきりさせられていた。
 親まりさは涙を堪えながら、あにゃるをくぱぁっと音を立てて開いた。
「す、すっきりしていってね……」
 その声と同時、子れいむと子まりさは何の感情も見せずにダンボールの隅に移動する。
 彼らも、もう親が何をしているかは理解している。
 相手の子ゆっくりたちが、意地悪い表情で伝えに来たからだ。
 二人は心を凍らせて、その状況を受け入れるしかなかった。
 ――さて、おぞましいすっきりの始まりだ。

「す、す、す、すっきりいいいいいいいいいい!」
「すっきりいい……!」
「すっきりいいいいいいいいいいい!」
「すっきり……!」
 行為が終わり、まりさとれいむの番が帰ろうとするのを、親まりさが慌てて呼び止めた。
「なんなのぜ?」
「こ、これ……たりないよ。いつもはごはんさん、もっとおおいよっ」
 親まりさが食料を抱えて言う。
 まりさは何とも小馬鹿にした表情で告げた。
「ああん? こっちもいろいろとたいへんなんだぜ? もうふゆさんがくるってのに、
わざわざおまえたちみたいなごみくずのまむまむを『つかってやって』いるのぜ?
 それに、さいきんだんだんおまえたちとのすっきりもあきてきたのぜ。
 それくらいがだとうなねだんだとおもうのぜ。ゆっくりりかいするのぜ」
「……」
「べつにいいのぜ? もうそろそろ、すっきりはじちょうしようとおもっていたところだ
し。まりさたちが、そのしょくりょうでふゆをこそうとおもうのなら、そうすればいいの
ぜ? ゆへへへへ!」
「……ゆっくり……りがい、じだよ……」
 親まりさはガックリと肩を落とした。以降、徐々に与えられる食料は減っていき、
冬を越すための食料が、足りなくなり始めた。

 ――そして、とうとう冬が来た。
「ゆきさんがふってきたよ……」
 親まりさは、保存されてある食料を見た。恐らく足りないだろう、と見当をつける。
 だが、雪が降っている間は狩りにも行けない。
 近所のダンボールからは、笑い声が聞こえる。
「ゆっくりー! しゅーりしゅーり!」
「ゆうううん! おちびちゃんはとってもとかいはねええ!」
 親まりさも、久しぶりに「すーりすーり」をやろうとして、笑顔を浮かべて子ゆっくり
たちに近付こうとした。
「……」
「……」
 が、子ゆっくりたちは部屋の隅で、二人だけですーりすーりしていた。
「おちびちゃん……まりさたちも……」
 子れいむが、軽蔑した表情で告げる。
「……きたないゆっくりは、ちかづかないで」
「………………………………………………ごめんね」
 親まりさと親れいむは、二人だけですーりすーりをすることにした。

 雪は降り止まない。
 この地方にしては珍しいことだ。十年に一度あるかないかのことだろう。
「さぶい……!」
「さぶいよお……!」
 子ゆっくりたちは、二人でガタガタと震えていた。
「だいじょうぶだよ……ふゆさんさえこえれば……ふゆさんさえこえれば……。
あたたかいはるさんだよ! はるさんがくれば、いっぱいむーしゃむーしゃ
できるよ! おちびちゃんも、りっぱなおとなになるよ!」
 親まりさが懸命に言い聞かせるが、二人はそれを聞いているのかいないのか。
 ただ、ガタガタと震える彼らに寒風が直接入らないように、体を使うしかなかった。

 冬、一ヶ月目。
 遂に食料が尽きた。にも関わらず、雪は降り止まない。
「ゆきさんやんでね! まりさのいっしょうのおねがいだよ!
 やまないと、かりにいけないよ! まりさのかぞくがおなかぺーこぺこなんだよ!
 やんでね! おねがいだがらやんでええええええええええええええ!」
「まり……さ……」
 ふらふらになった親れいむが呼びかける。
「れいぶ……どうじよおお……」
 子ゆっくりたちは、青白い顔でダンボールの隅で震えている。
 最早一刻の猶予もない。栄養失調でゆっくりする前に、何とかしなければ。
「だいじょうぶだよ……まりざ……いままで、ありがどうね……」
「れいぶ……?」
 れいむはやつれた顔で力無く笑いながら言う。
「きっと……ゆきさんはやむよ……そうしたら、まりさがかりにいってね……。
 れいむは……そのあいだの……ごはんさんになるよ……」
 親まりさの顔が、さっと青くなった。
「だ、だめだよれいむ! やめてね! ゆっくりやめようね! れいむ! れいむううう
ううううううう!」
 親れいむは笑顔で、軽く親まりさの頬にちゅっちゅをして、叫んだ。

「さあ! お た べ な さ い !」

「れいむうううううううううううううううううううううううううううう!」
 ……親れいむは自らを差し出し、三人への食料となった。

 ――そして、冬も終わりに近付いた頃。
 親れいむの犠牲によって、どうにか保たせていた食料がまたも尽きた。
 相変わらず雪が降っており、一刻の猶予もない。
「れいむ……いま、れいむのもとにいくよ……」
 親まりさは、既に食料になる決意を固めていた。
 だが、そんな彼の背中を誰かが叩いた。
「おちびちゃん……?」
「おとうしゃん……れいみゅ……もう、たえられないよ……。
 このせかいは、ゆっくりできることなんて……ひとつもないよ……」
 ただならぬ子れいむの様子に、子まりさと親まりさは慌て始めた。
「お、おちびちゃん? ゆっくりしてね! ゆっくりできるからね!
 ほんとうだよ! おとうさんをしんじてね!」
「おとうさんのいうことなんか……しんようできない……。
 もう、やだ……」
 ほろほろと涙を流しながら、子れいむは叫んだ。
「さあ! お た べ な さ い !」
「やべでえええええええええええ!」
「れいみゅうううううううううう!」

 子れいむは、食料となった。
 しばらくは耐えていた親まりさと子まりさも、やがて空腹に耐え切れず、涙を流しなが
ら彼女を食べた。

 ――そして、またしばらくして。雪が解けた。
 春が来たのだ。
「はる……はるさんだよ……」
「まりしゃたち……えっとうできたんだにぇ……」
 辛い辛い冬のせいで、愛する妻と娘を亡くしてしまった。
 だが、まだ愛する子は生きている。
 既に目も治り、釘や画鋲も餡子に変換しきった。
「おちびちゃん……ふたりのぶんまで、がんばっていきようね……!
 ゆっくりゆっくり、たのしいゆんせいをおくろうね!」
「……おとうしゃ……おとうさん……まりさ……まりさも、かりを
がんばるからね……!」
 とうとう、子供言葉が完全に抜けた子まりさの顔は、やつれていても精悍そのものだ。
「おちびちゃん!」
「おとうさん!」

「「ゆっくりして『ぴぎゃああああああああああ!』……ゆ?」」

 慌てて外に出る。
 ありすとまりさの番が、白衣を着た男たちに袋の中へと放り込まれていた。
 親まりさの餡子の記憶が、おぞましい単語を思い出す。
「これ……まさか……」
「いっせいくじょよおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 ありすの叫びに、親まりさと子まりさは凍りついた。

 ――いっせいくじょ? どうして? どうしてこんなときに?
 ――え? だってはるさんでしょ? はるさんがきたから、ゆっくりはゆっくり
できるはずでしょ? どうして? どうして? どうして?
 ――あの“ばつ”のひから、いちにちもゆっくりできなかったよ?
 ――これから、たくさんゆっくりするはずだったんだよ?

 ――ゆっくりできないなら、なんのためにいきてきたの?

「あ……ああ゛……あ゛あ゛あ゛……ああああああああああああああああああああ!!!」
「ゆ……ゆびいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 二人は絶叫した。ただただ絶望した。
 一日もゆっくりできないまま、ゆっくりさせてくれないままに、死んでいく。
 そのことを理解し、加工所の職員が袋に入れてからも、ずっと叫び続けていた。

「いやあ……今回は素晴らしかった」
 私はwebカメラに映し出された彼らの記録を編集しながら、満足げに頷いた。
 そう、彼らへ与えた「優しい」罰は彼らからゆっくりを奪うため。
 どれほど苛烈な虐待であっても――否、苛烈であればあるほど、「永遠にゆっくり」さ
せてしまうという矛盾。
 私の罰は確かに「虐待」するよりは優しい。だが、この優しい罰は結果的に徹底的に
「ゆっくり」を奪うことになる。
 彼らは罰を与え、近所の野良ゆっくりに色々と「アドバイス」してやった私を怨むこと
すらなく、ただ絶望のままに死んでいく。
 そうそう上手くいくとは限らないのがネックだが……今回は極上の結末だった。
「ここをまりさたちのおうちにするよ!」
 リビングの声に、私はほくそ笑んで立ち上がった。
 さあ、次の家族はどんな「ゆん生」を見せてくれるだろうか――――――?

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  • 感動 -- 2018-02-16 (金) 15:37:39
  • 最高 -- 2018-05-06 (日) 04:25:03
  • 子れいむマジでクズだな。自分の為に身を投げ出した親を汚物扱いして現実逃避するとか末っ子まりちゃよりヒデェぞ -- 2020-11-01 (日) 03:24:27
  • すごくよかったですよ~~面白いですね -- ゆ虐何とかに入ってみたい人 2023-03-30 (木) 11:56:14
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