anko3796 そのれいむを僕は知らない

Last-modified: Wed, 20 Jul 2016 04:54:17 JST (2831d)
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「ゆゆっ!!まってたよおにいさん!!」

会社から家に帰ると庭から一匹のれいむが僕の前に飛び出してきた。

髪はボサボサ、体は薄汚く、生ゴミのシミなどが目立つリボンには飼いゆである事を示すバッジがない。

どう見ても野良ゆっくりである。

「おにいさん、れいむをもういちどかってね!!」

なぜか馴れ馴れしくもう一度飼ってくれと頼むれいむ。僕はれいむなど飼った覚えはないのだが。

「悪いけど僕はお前なんて知らないよ。それよりここは僕の家だ。とっとと出て行ってくれ。」

そう言うと僕はれいむを蹴飛ばし家に入った。後ろでれいむがなにか喚いているようだが無視する。

だって僕はこんな野良れいむのことなど知らないのだから。

                   そのれいむを僕は知らない

「おかえりなさい、おにいさん。おしごとおつかれさまでした。」

玄関でさなえが出迎えてくれた。このさなえ、僕の飼いゆで金バッジのゆっくりだ。

下手な人間より礼儀正しく手もかからない僕の自慢の飼いゆっくりである。

「ところで・・さっきからおそとのほうがさわがしいですけどなにかあったんですか?」

心配そうに玄関のドアをさなえは見ている。さっきの野良れいむのことを言っているのだろう。

「おにいさぁあああああああんんん!!!あけてぇええええええ!!!」

相変わらずれいむはドアの外で騒いでいる。いいかげん近所迷惑なのだが。

「いや表で野良れいむにからまれちゃってね。困ったもんだよ。」

アメリカ人のように僕は大げさに肩をすくめるしぐさをする。

そのまま台所に行き、さなえの餌皿にゆっくりフードを入れた。

「おにいさぁああああああんん!!!!れいむのことわすれちゃったのぉおおおお!!!!」

「・・・なんだかおにいさんのことしってるみたいですけど?」

「知らないよ、あんなれいむ。どうせ誰かと人違いしてるんだろ。」

「・・そうですか。」

腑に落ちない顔をしながらさなえは餌皿のゆっくりフードを食べ始めた。

「えーとタウンページどこだったかなー・・・」

僕は僕で電話帳を探し始める。確か電話機近くのマガジンラックに入れておいたはずだ。

「おにいさぁあああああああんんん!!!あけてぇええええええ!!!。」

玄関からはまだれいむの喚き声が聞こえる。もう夜ふけだというのに全く回りを気にする様子はない。

「まったく・・・あいつは何も変わってないな・・・」

さなえに聞こえないよう僕はぽつりとつぶやいた。

本当は僕はあの野良れいむの事を知っている。

だって赤ゆの頃あいつを拾ってあそこまで育てたのは僕なのだから。

おそらく人間にケンカを売って踏み潰されたのだろう。

靴跡のついた両親らしきゆっくりの死骸のそばで泣いていたのを会社帰りに見かけたのがれいむとの出会いだった。

別に無視しても良かったのだが、このままじゃこいつ死んじゃうんだろうなと思うと放っておけなかったのだ。

れいむを育てるのは大変だった。

まず人の話を聞かない。聞いても全く飼いゆのルールというものが理解できていない。そんなのゆっくり出来ないと反発する。

周りの者の事など考えず、声だけはでかくてすぐ癇癪を起こし、自分に都合の悪いことはごまかすことしか考えない。

トイレの場所、餌の食べ方、人間への言葉遣い、マナー、他の飼いゆっくりへの接し方などなど。

なだめすかしてなんとか理解させてもすぐ忘れて同じ失敗を繰り返すのだ。

あまりの反省のなさに捨ててやろうかと思ったこともあるくらいである。

それでも根気強く、時には体罰も辞さない躾を行った結果、ようやく人前に出せる程度にはなっていた。

このまま頑張れば金は無理でも銀バッジ位は取れるかもしれない。

そう思っていた矢先の事だった。

「おにいさん、れいむはこのまりさとけっこんっするよ!!」

れいむが野良まりさを連れて来て、ここを出て行く言ったのは。

当然僕は引き止めた。出来の悪い奴ではあったがそれなりに愛着もあったのだ。

野良ゆの世界がいかに過酷でゆっくりできないものか説明し、つがいが欲しいのなら銀バッジに合格したら自分がゆっくりショップから買ってきてやると、かなり譲歩した提案までした。

しかしれいむは必死で説得する僕を鼻で笑い、こう言い放ったのだ。

「わるいけどおにいさんにはもうようはないよ。これからはこのまりさにゆっくりさせてもらうから。おにいさんはくちうるさくてぜんっぜんっゆっくりしてなかったしね!!」

ショックだった。れいむがそんな風に思っていたなんて。

確かに僕は口やかましくゆっくりできない奴だったかもしれない。でもそれは全てれいむを思っての行動だったのに。

なのにれいむは僕を利用することしか考えていなかったのだ。まるで寄生虫のように。

呆然とする僕をおいてれいむ達は2匹で寄り添うように跳ねていく。

後には主を失った赤茶色の銅バッジが寂しそうに転がっているだけだった。

あの日から僕はれいむのことを完全に忘れることにした。

あんな恩知らず記憶の隅に置いておくのも腹立たしい。

れいむの餌皿、クッション、買ってやった玩具を全てゴミに出し、れいむの映っている写真も全て焼き捨てた。

その上で金バッジさなえを大金はたいてゆっくりショップから購入したのだ。

全てはあの忌々しい存在を僕の脳内から消し去るために。

そう僕はあんなれいむの事など知らない。

最初から僕らは出会ってなどいなかったのだ。

「ゆゆっ。やっとでてきてくれたんだね、おにいさん。ゆっくりしすぎだよ!!」

玄関のドアを開けるとれいむが目を輝かせて僕の方へ跳ねてきた。

「・・・・・・・・・・」

「・・・あれっ?おにいさんもしかしておこってるの?」

無表情で無言な僕を見てれいむは必死にぼくのご機嫌を取ろうとする。

「ちがうんだよ、あのまりさとはただのあそび、ほんとうにいっしょにゆっくりしたいとおもってるのはおにいさんだけだよ!!」

「・・・・・・・・・」

「もうっ!!おにいさんおかおがゆっくりしてないよ!!もっとゆっくりわらってね!!れいむはおにいさんのえがおをみるといちばんゆっくりできるんだから!!」

「・・・・・・・・・」

不思議なものだ。本来なら発狂しそうなれいむの言葉も見知らぬゆっくりの戯言だと思えばまるで腹が立たない。

だいたい僕はこんな見知らぬ野良れいむの与太話を聞くために外に居るわけではない。

そろそろあれが来るはずだから出迎えねばならないのだ。

そんな僕の心を見透かしたように家の前に一台の白いライトバンが止まる。

「まいどー。加工所のゆっくり回収サービスでーす。」

運転席から作業着姿の中年男性が出てきた。手には透明な箱を抱えている。

最近は便利になったものだ。こんな夜でも加工所がゆっくりを回収しに来てくれるのだから。

「どぼじでかこうじょがくるのぉおおおおおお!!!!」

思わぬ天敵の乱入にれいむはもみ上げをわさわさ上下させて取り乱す。

なんで加工所が来たのかって。簡単なことだ。僕がさっき電話帳で番号調べて呼んだからだ。

だってそうだろう?見知らぬ野良ゆっくりが僕のうちの敷地に勝手に入った挙句、玄関の前で大声で喚き散らしているんだから。

どう考えても駆除対象のゲスゆっくりだ。

「おにいさんたすけてぇええええええ!!!!」

加工所がゆっくりできないと言うのを本能的に知っているのだろう。れいむは僕に泣きついてきた。

「もうにどとのらになるなんていいませんっ!!!おにいさんのいうことぜんぶききますぅ!!!だからゆるじでぇえええ!!!かこうじょは・・・かこうじょはいやぁあああああ!!!!」

泣き喚きながら僕の足にすがりつくれいむに向かって僕は真顔で答える。

「許すも許さないも、僕はお前の事など知らないよ。」

「ゆぅうううううう!!!?どぼじでぞんなごどいうのぉおおおおお!!!!!?」

最後の希望があっさり崩れ、れいむは目を白黒させて絶叫している。

「・・もしかしてこのれいむとは知り合いですか?」

いぶかしげに職員の男は僕とれいむの顔を交互に見た。どうやら僕が捨てたのではないかと疑っているらしい。

「いいえ。僕はこんなゆっくり知らないです。」

嘘ではない。僕はこんなれいむ知らないのだ。

まぁ正確には「知らない」と言うより「知ったこっちゃない」と言った方が正しいが。全く日本語という奴は難しいものだ。

「あーそうですよね。時々いるんですよ、こういう妄想と現実の区別がついてない奴が。」

「でいぶはうぞづぎなんかじゃないぃいいいい!!!ぼんどうにおにいざんのかいゆっぐりなのぉおおおおお!!!!」

「はいはい。野良ゆはみんなそう言うんだよ。」

男は手馴れた様子で暴れるれいむを透明な箱に押し込め、車に乗り込む。

「じゃ、確かに野良れいむ一匹回収しましたんで!!!」

ブロロロ・・・・

僕に一声かけるとそのままれいむを乗せて発車した。

「・・・さようなら。見知らぬ野良ゆっくりのれいむ・・・」

僕は加工所のライトバンを見送りながらそうつぶやく。

まだそれ程深まっていないはずの秋の夜風がやけに冷たく身にしみた。