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俺がそのれいむを見かけたのは夕暮れ時。ある公園の近くの大通りのことだった。
「おねがいしますぅうううううう!!!おちびちゃんを・・・おちびちゃんをたすけてくださいぃいいいい!!!」
通りを歩く人達にすがりつくようにして頼み込む野良れいむ。その姿はお世辞にもきれいとは言えず薄汚れており、体中擦り傷とアザだらけ。
通行人は嫌なものを見たと顔をしかめ、目も合わせず通りすぎていく。
俺もその一人になっても良かったのだが、何故かそのれいむに興味が湧いた。
「どうしたんだ、れいむ。」
「ああ!!おにぃざん!!たすけて・・たすけてくれるの!!」
「ああ。こう見えても俺はゆっくり医、つまりお前らのお医者さんなんだ。病気関係のことなら力になれると思うぞ。」
そう言って俺はれいむに診療カバンを見せた。往診の帰りなのでカバンの中には聴診器と数種類の薬が入っている。
「おにいざん!!れいむのおちびちゃんがびょうきでじにそうなんですぅ・・・たすけて・・・たすけてください・・・」
れいむは泣きながら今までのいきさつを話し始めた。
ゆっくりしたおちびちゃん
作、長月
れいむは元々野良ではなくこの近くの山に住んでいた野生のゆっくりだった。
贅沢できるほどではないが飢えることもなく、まわりは善良なゆっくりばかりの理想的とも言える群れにれいむはいた。
「それじゃあれいむ。いってくるんだぜ。」
「ゆっくりきをつけてね、まりさ。」
「「「「いっちぇらっしゃい。おとーしゃん。」」」
朝はつがいのまりさを送り出し、かわいい子供たちとお歌を歌ったり、日向ぼっこしながらお留守番。夜はまりさの採ってきてくれた木の実や虫さんでむーしゃむしゃ。
思えばこの時が一番幸せだったし、とてもゆっくりできていた。
しかし幸せはそう長くは続かないものである。
れいむの群れのある山に再開発計画が持ち上がったのだ。
「やべてぇええええ!!!ありすのおうちこわさないでぇえええええ!!!」
「むきゅぅうううううう!!!ぱちゅのおちびちゃんがぁああああ!!!」
なすすべもなく蹂躙されていくゆっくり達。抵抗するものは全て殺された。
れいむが巣にしていた大木のうろも木ごと切り倒され、後には草1本生えていない平地しか残らなかった。
やむを得ず生き残ったおちびちゃんたちと共にふもとの町に下りたれいむ達。
しかし、そこからがまた地獄だった。
厳しい環境に子供たちは一人、また一人と死んでいき、先日つがいのまりさも生ゴミを漁ってる途中、町の野良ゲス達に難癖をつけられ殺されてしまった。
残されたのは自分とまだ夏みかんサイズになったばかりの子れいむだけ。
れいむは思った。
このおちびちゃんだけはゆっくりさせてあげよう。死んでしまった他のおちびちゃんやまりさの分まで。
例えこの命にかえてでも。
しかしその子れいむの体調が昨晩からおかしいのだ。
下痢や嘔吐を繰り返し、れいむとしてもすーりすりやぺーろぺろをしてなんとか元気になってもらおうとしたが一向に快方に向かう気配はない。
むしろどんどん悪化の一途をたどっているようだ。
もはやれいむはいてもたってもいられない。気がつけば、大通りで人間たちに助けを求めていた。
人間は自分たちの郷里を破壊した敵。危険なのは十分承知。
きっと人間の中にもいい人はいるはず。そしておちびちゃんを救ってくれるはずだ。
そう信じて。
「なるほど・・・そういうわけだったのか・・・・」
ここは公園内にあるダンボールハウス。れいむのうちだ。
僕はれいむの話を聞きながら子れいむを診察していた。
「ふーむ・・・これはストレスによる非ゆっくち症だな。」
触診、打診、そしてれいむの話を総合して俺は結論を出す。
「ひゆっくちしょー・・・なに・・・それ。」
きょとんとするれいむ。人間や飼いゆっくりなら誰でも知ってる常識だが元野生の野良では知らなくてもしょうがないだろう。
「まぁ、簡単にいえばゆっくりできないからびょうきになったってことさ。心当たりあるだろ?」
「ゆぅ・・・・」
れいむの表情が曇る。おそらく今までのつらい記憶が頭をよぎっているのだろう。
正直この町の野良ゆっくりの住み心地はワーストと言っていいほど悪い。ゲス野良も多く、ほとんど食べられる草もない。
実際、路地裏には生きる希望を失った野良ゆっくりが死んだ魚のような目をした大勢へたり込んでいるほどだ。
山で平和に暮らしていたゆっくりにはストレスの連続だったはず。
何故子れいむが非ゆっくち症になったのか容易に想像がつく。
「うーん。しかしそうなると困ったな・・・」
ストレスが原因ではどうしようもない。栄養剤やオレンジジュースを飲ませれば一時的に回復するだろうが、結局数日後には元の木阿弥だろう。
「おねがいします!!れいむはどうなってもかまいません!!だから・・・だから、おちびちゃんをゆっくりさせてあげてください!!」
「・・・そんなこと言われてもなぁ・・・・」
「なんでも・・・れいむにできることならなんでもしますから!!」
そう言って額をこすりつけるようにして頼み込むれいむ。どうやら本気でこの子れいむを助けたいようだ。
「本気で何でもするんだな。」
「はい!!」
「解った・・・ならこれを。」
俺はある薬剤をカバンから取り出す。錠剤タイプのある新薬だ。
「ほら、飲め。30分程で効いてくるはずだから。」
そう言って俺は子れいむの口を開かせ、薬を飲ませる。大き目の錠剤なので中々飲み込まずにいたが指を使って強引に飲ませた。
「これで大丈夫。これでこのチビはゆっくりできるぞ。」
「ほんとうですか!!ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
「いいってことよ。経過を見るために明日の朝また来るからな。」
俺はれいむに見送られながら公園を後にした。
次の日、俺はいつもより15分ほど早く家を出て公園に向かった。
勿論昨日のれいむ親子に会うためだ。
昨日のダンボールハウスへ行くと、昨日まで死んだようにぐったりしていた子れいむが元気に飛び跳ねていた。
どうやら薬が効いたようだ。
それとは対照的に親れいむのほうの表情はさえない。まぁ予想はつくが。
「あっ、おにいさん!!おちびちゃんが・・・おちびちゃんがたいへんなの!!」
俺に気づくとれいむは急いで跳ねてきた。
「ゆげっ、ゆげっち、ゆぎっひぴゆぎー。」
焦点の定まらない目で奇声を発しながら飛び跳ね、しーしーやうんうんを撒き散らす子れいむ。
確かに誰が見ても異常ありだ。
「ああ・・・それでいいんだよ。」
「ゆ・・・?」
「俺が飲ませた薬はゆっくりを狂ゆん、つまり足りない子にする薬だったんだからな。」
ゆっくりにとって最大の悲劇は脆弱極まりない体に中途半端な知能や心があることだ。
そんなものあるからゆっくりは悩み、苦しむことになる。
だからこそ俺はゆっくりの中枢餡を破壊する新薬を子れいむに飲ませたのだ。
もうこの子れいむが悩むこと、悲しむことは永遠にない。
例え自分の姉妹が目の前で野良犬に食われても
親が人間に踏み潰されても
それどころか自分が一寸刻みに切り刻まれようともその狂った笑みを絶やすことはないだろう。
「そんな・・・おちびちゃんをもとにもどしてよぉおおおお!!」
「残念だがそれはできない。死んだ者が二度とよみがえらない様に破壊された中枢餡ももどらないからな。」
「どぼじでそんなこというのぉおおおお!!!」
「はーうるさい・・・大体元に戻してどうするつもりだ?」
「ゆ?どうって・・・?」
思わぬ問いかけにれいむは戸惑う。
「もし戻せても、そいつはまた非ゆっくち症になるぞ。この町がお前らにとってゆっくり出来ない場所であることはかわらないんだからな。そしたら今度こそ、お前のチビは死ぬぞ。お前はチビにゆっくりしてもらいたかったんじゃないのか?」
「ゆ・・・ゆ・・・」
「お前昨日、おちびちゃんをゆっくりさせてくれるなら自分はどうなっても構わない、何でもする、って言ったよな。」
「い・・いったけど・・・」
「だったらこいつの面倒を見てやれ。一生、こいつが大人になっても、ずっとな。もうこいつは自分で餌をとることどころか、うんうんやしーしーもまともにできやしないだから。大変だろうけどがんばれよ。お前が言い出したことなんだから。」
もうれいむは何も言えなかった。
ただ、自分のうんうんを口いっぱいにほおばりながら笑う子れいむの横でただ立ち尽くすしかない。
「おっと、もうこんな時間か。じゃあな、れいむ。ゆっくりしたおちびちゃんと末永くお幸せに!!」
親れいむとケタケタと笑い続ける子れいむを残し、俺は小走りでその場を立ち去った。
れいむは分からなかった。
なぜこんなことになってしまったんだろうか。
自分はおちびちゃんにゆっくりしてもらいたかっただけなのに・・・
いや、これはこれでおちびちゃんはゆっくりできているのだろうか?
だってこんなに笑ってくれているのだから・・・
もうおちびちゃんは家族の死に悲しむことも、人間やゲスに怯えることも、今はない故郷の森を思い出して泣くこともない。
永遠のゆっくりを手に入れたのだ。
でも・・・
それでも・・・
「ゆゆげぎげっびげっ、ゆげっげぴぃゆびぃ!!」
朝の静寂の中、狂った子れいむの甲高い笑い声だけが公園に響き続けた。
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