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前anko2601 ゆっくり退化していってね!8 赤まりさはピンボールになっていた。 トライアングルの形に並んだ三匹の野良ゆっくりの間で、赤まりさは何度もはじき飛ばされる。 「ぴぎっ!…………ぴぎゃっ!……やめっ……!やめぢぇ!……びゃぶっ!」 何度も何度も、赤まりさはまりさの腹に弾かれ、れいむの腹に顔面をぶつけ、ぱちゅりーの腹に後頭部を強打する。 「いぢゃ!…………おぢょっ!…………りゃっ!………ぢょっ!……でぇっ!…………いびゃ!」 受け身の取れない打撃が終わることはない。 ごめんなさい。もう止めて。痛いよ。苦しいよ。 訴えたくても、赤まりさは目が回るのと全身に走る激痛でまともに喋ることができない。 「れいむたちはね!おこってるんだよ!なんでだかわかるかな!」 「むきゅきゅ。べつに、ほうこくがなかったからおこっているわけじゃないわ」 「ゆっ!そんなことよくあるんだぜ。さいきんじゃめずらしくないんだぜ」 器用なのは三匹の野良ゆっくりたちだった。 三匹は赤まりさを腹で弾いていたぶりつつ、余裕で話しかけている。 「ばびっ!…………ばぎぃ!…………ごめっ!……なしゃ!……!びぃぃ!」 「れいむたちはね!うそをつかれたからおこってるんだよ!それもばればれなうそをね!」 「むきゅ!だませるとおもったの?にげられるとおもったの?あますぎるわ!あまあまよりあまいわね!」 「まったく!ばかながきなんだぜ!はじめからあやまってれば!よかったんだぜ!」 「ぼっ!……ぼびぇ!…………びゃ!…………ぢゃいっ!…………ぢゃいぃ!………あびゃっ!」 ぱちゅりーがれいむからパスされた赤まりさを受け取り損なった。 赤まりさは顔面から地面に激突し、その衝撃であにゃるから少量のうんうんが漏れる。 「い゙っ゙…………いぢゃ………い……のじぇ…………ごべ……なの……じぇ…………もう…ゆるし…………ぢぇ…………」 「なにいってるのかしら。これはせいっさいっのじょのくちよ?ぱちぇたちをばかにしたゆっくりにはもっとおしおきがひつようね」 ぱちゅりーは這って逃げようとする赤まりさをあんよで押さえつける。 身を屈めると、帽子からはみ出している土埃で汚れた金髪を咥え、思いっきり引っ張る。 ブチッと赤まりさの頭から頭皮と一緒に髪の毛が引き抜かれた。 「いぢゃぁあああああああああああいいいい!」 「いたいかしら?そうねえ。でも、これくらいじゃおわらないわよ。もうすこしもらおうかしら」 「やめちぇぇ!いぢゃい!いぢゃいのやぢゃ!かみのけしゃん!まりちゃのおとうしゃんにほめられちゃかみのけしゃん!やめちぇ!やめぢぇ! やめちぇ…………あ゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっ!」 赤まりさの哀願を無視し、ぱちゅりーは今度は赤まりさのお下げを引き抜いた。 凄まじい赤まりさの悲鳴と共に、二つとない大事なお下げは赤まりさから永久に失われる。 「あ……ああ………まりぢゃの……だいじな……おさげしゃん……おさげしゃんがぁぁ………いぢゃい…ひぢょいのじぇぇぇ…………」 目の前にぽとりと落とされた自分のお下げを見て、赤まりさの目から涙が流れて地面を濡らした。 もう、赤れいむを撫でることも、もみあげと握手することもできない。 人間で言えば腕を引き抜かれたに等しい。 「ぺーりょ…………ぺーりょ……おさげしゃん………なおっちぇにぇ…………ぺーりょ…ぺーりょ…………」 赤まりさは懸命にお下げをぺーろぺーろする。 一縷の望みを託して、赤れいむの傷をぺーろぺーろした時のように舐める。 その態度が、三匹のゆっくりたちには気に入らなかった。 「ぺーりょぺ-りょ……なおるのじぇ………おさげしゃん…もとにもどってほちいのじぇ……おねがいなのじぇ……あ…?ああ……やめ……ちぇ……まだ……いぢゃい……の……しゅるのじぇ? やぢゃ……やぢゃ……やめちぇくだしゃい…もう…いぢゃいの………やぢゃ…………あ……ああ……ゆ゙ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっ!!」 最大の悲鳴が周囲に響き渡った。 まりさとれいむとぱちゅりーが三方から赤まりさの髪の毛を咥え、一気に引っ張ったのだ。 赤まりさの頭から、髪の毛が半分ほど失われた。 頭皮と一緒に髪を抜かれる痛みに、赤まりさは白目をむいて叫んだ。 「どうかな?すこしははんっせいっしたよね?したよね?へんじは?へんじしてね」 激痛にもがく赤まりさの顔を、れいむがのぞき込んだ。 しかし、赤まりさはゆん生で初めて味わう苦痛で、答える余裕がない。 ぴくぴくと痙攣しつつ、赤まりさは口から泡を吹いている。 れいむの顔が意地悪そうに歪んだ。 「あれれ?へんじがないよ?じゃあ、もっとせいっさいっしなくちゃだめみたいだね!」 「ごっ…びぇ…な…ぢゃい………ばび…ぢゃ……はんぢぇ…い……ぢで……る…の………………」 赤まりさは反省の言葉を最後まで言えなかった。 本当に赤まりさが反省していたわけではない。 ただ、とにかく謝らなければ。 とにかく、野良ゆっくりたちをなだめなければ。 その一心から、赤まりさは激痛にかすむ意識を奮い立たせて口を動かそうとした。 その意識が、再び激痛で焼ける。 「いぢゃぁああっ!あぢゃぁぁあ!いぢゃい!いぢゃい!いぢゃいぢゃいぢゃいぢゃい!あ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙っっっ!」 れいむは赤まりさの後頭部をもみあげで押さえつけると、顔を地面にこすりつけたのだ。 ぎゅっと上から押さえつけられ、敏感な顔面を砂利やとがった部分が突き出した地面でこすられる。 人間の力でされたなら、赤まりさの顔はなくなっていたことだろう。 ゆっくりの力では、赤まりさの顔を削ぎ落とすことはできない。 しかし、代わりに顔全体を摩擦熱で火傷させ、擦り傷と切り傷だらけにすることはできる。 「いぢゃい!いぢゃい!いぢゃいいぢゃいぢゃいいいいいいいいいいいいい゙い゙い゙い゙い゙!!」 「ごーしごーしだよ。どうかな?これでだいぶはんっせいっしたよね?」 数回往復させた後、れいむはもみあげを使って赤まりさを持ち上げた。 「い゙ぢゃっ……ゆ゙あ゙っ……いぢゃ…い゙ぃ゙…………ゆ゙っ……ゆ゙っ……ゆ゙っ……………」 赤まりさの顔は変わり果てていた。 顔中傷のないところがないくらいに痛めつけられ、特に目の上と頬には大きな切り傷があり、そこから餡子が漏れていた。 もはや謝ることもできず、赤まりさは弱々しく痙攣している。 「れいむ、すこしまりさにもやらせるのぜ。あいことばもいえないくせにまりさたちをだまそうとしたこいつにはせいっさいっがひつようなんだぜ」 「いいよ。ゆっくりせいっさいっしていってね!」 だが、制裁は終わらなかった。 れいむによって足下に投げ捨てられた赤まりさの上に、まりさは乗った。 成体のゆっくりの全体重がかかり、たちまち赤まりさは目を見開いた。 意識が生命の危機に陥ったことで体に引き戻される。 体内の餡子を潰される激痛と共に。 「ぶぎゅ!ぐぶぅううううう!ちゅびゅれりゅううううううううう!」 一瞬で目覚めた。 赤まりさは今度こそ絶叫する。 このまま制裁されていたら死んでしまう。 もう許してほしかった。 誰かに助けてほしかった。 せめて、痛みで気を失っていたかった。 「ちゅぶれりゅ!まりぢゃ!ばびぢゃ!ちゅぶれりゅ!ちゅぶれりゅ!ちゅぶぅぅぅ!れびゅぅぅううう!」 「ゆっ!ゆっ!ゆっ!つらいのぜ?くるしいのぜ?たすかりたいのぜ?まだだめだぜ!」 現実は非情だ。 体内の餡子に対する圧迫は、デリケートな中枢餡を潰そうとする。 その想像を絶する苦痛に赤まりさは目を飛び出させて気を失い、次いで同じ苦痛で目を覚ます。 まりさの制裁の名を借りた拷問は絶妙だった。 死なず、かといって生かさず、生死のぎりぎりの縁を行ったり来たりさせる。 「ちゅぶ!ちゅぶ!ぢゅぶ!ぢゅびゅ!びゅ!びゅ!びゅぅぅぅぅぅぅううう!」 赤まりさは悲鳴を上げる饅頭と化していた。 まりさがリズミカルに体重を移動させる度に、奇声を上げて顔を左右に振る。 見ようによっては、それはダンスとお歌のようだった。 見事にシンクロした、まりさのダンスと赤まりさのお歌。 「びゅぶぼぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 ついに、赤りさが限界を迎えた ぎゅっとまりさが体重を前方にかけると同時に、赤まりさの口から餡子が弧を描いて吐き出された。 餡子の奔流はその勢いで、赤まりさの歯を引き抜いて一緒に流し去る。 どろどろと流れ出した赤まりさの大事な体内の餡子には、白い歯がちらほら混じっていた。 「ふんっ!こんじょうがないのぜ!まりさはおんなじことされたけど、まだあんこははかなかったのぜ!」 体内の餡子を一度に失ったことで、「ぷっ……ぷぴっ…ぷっぷぴぃ……」と正気を失った声で呻いている赤まりさを見て、まりさは軽蔑しきった顔をする。 「まりさ、あなたとくらべたらさすがにかわいそうよ」 ぱちゅりーが顔をしかめてそんなことを言う。 一応、ぱちゅりーは三匹の中では温厚な方らしい。 瀕死の赤まりさに興味をなくしたのか、三匹は赤まりさを無視して話し出した。 「そういえば、きのうもこんなれいむがいたよね」 「おなじばしょでばいゆんをしてたわ。やっぱり、ばればれなうそをついていたわね」 「こいつとおなじように、しっかりせいっさいっしてやったんだぜ。こいつのいもうとかおねえさんかもしれないのぜ?」 「ゆ?……ゆっ?…………ゆぁ……ゆぁぁ…………!」 体の内と外の激痛で朦朧としていた赤まりさの意識が、急にはっきりした。 大事な家族を、赤れいむを痛めつけたのはこいつらだ。 こいつらが、赤れいむにひどいことをしたんだ。 悪いゆっくり。仇のゆっくり。 絶対に許せない! 赤れいむが痛めつけられる光景が、鮮明に頭の中に浮かぶ。 赤れいむをよってたかって虐める野良ゆっくりたち。 「びゃっ!……びゅっ!……びぇっ!……ごびぇ!……なっ!……ぢゃい!……いびゃいっ!……ゆるぢっ!……でぇっ!」 三匹の間で何度も弾き飛ばされる赤れいむ。 「やめちぇ!……おにぇがいだからやめちぇぇぇ!……かみのけしゃん!おかあしゃんとおんなじかみのけしゃん!やめちぇ!やめちぇ!いちゃいのやじゃぁぁ! あ゙……いやじゃぁ……やじゃ……やじゃ……あ゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙っっっ!!」 哀願を無視され、髪の毛を引っこ抜かれる赤れいむ。 「だじゅげぢぇぇぇぇ!まりしゃぁ!ばりぢゃぁぁ!いぢゃいのやじゃぁぁ!おとうじゃぁああん!おがあじゃぁああん!れいみゅ!れいみゅ!れいみゅぅぅ!いぢゃいぢゃいぢゃいあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙い゙い゙い゙い゙い゙!」 顔をコンクリートの壁に擦りつけられる赤れいむ。 「おぼっ!……ぼっ!ぼあぁっ!……お゙っ!お゙っ!お゙ごっ!ごっ!ごぼぉおおおおおおおおお!」 大人のゆっくりの体重に耐えきれず、口から餡子を吐く赤れいむ。 「やぁ……それ…いやじゃぁ……だみぇ……まみゅまみゅ…れいみゅのだいじな……まみゅまみゅしゃん……あ゙……あ゙あ゙……あにゃるしゃん……どっちも…だみぇぇぇ……。 ゆるちて……おにぇがい……ゆるちてぇぇぇぇ……れいみゅ……はんしぇい……いちゃいの……まりしゃ……あ……やじゃ……ゆぎゃああああああああげげがあああぎげいぎぎぎぎあああ!!」 そして、最後にまむまむとあにゃるに小石を詰め込まれて絶叫する赤れいむ。 ただ詰め込むだけでなく、その上から跳ねることによってまむまむとあにゃるをずたずたにするという残忍さ。 リアルに想像できた光景に、赤まりさの内側から怒りと力がわいてきた。 「がぞぐの…………」 「ゆん?」 「がぞぐのれいみゅをよぐもいぢめだのじぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」 赤まりさはぼろぼろの体に鞭打って跳ね起き、間近にいたまりさに体当たりを仕掛けた。 その威力は瀕死でありながら、赤まりさのこれまでのゆん生で行った体当たりで最高のものだった。 絶対に許せない相手を前にし、赤まりさは全身全霊の特攻を浴びせたのだ。 あんよだけではなく全身のバネを用い、突然の出来事に唖然としたまりさの顔面に体をぶつける。 「ゆぴぃっっ!」 弾力のあるまりさの饅頭皮に、あっさりと赤まりさは弾かれた。 ぼよんと赤まりさは押し返され、仰向けに転がる。 後頭部を地面にぶつけ、赤まりさの口から情けない悲鳴が上がった。 一方まりさは、何一つダメージを食らった様子はない。 現実はあまりにも非情である。 一矢報いることさえ、赤まりさには許されていなかった。 まりさが防御したからではない。 赤まりさの決死の体当たり。 それはせいぜい、大人のゆっくりが人間の足に体当たりしたときに感じる威力くらいしかなかった。 どんなか弱いお兄さんやお姉さんでも、よほどバランスを崩していない限り、ゆっくりの体当たりがダメージになることはない。 赤ゆっくりと大人のゆっくりとでは、体格に差がありすぎた。 「それがぜんりょくなのぜ?」 冷えきったまりさの声。 赤まりさの燃え上がった怒りは一瞬で凍り付き、変わって恐怖が心を支配した。 理解してしまった。 自分の全力の攻撃は、まりさに傷一つ負わせることができなかったこと。 ただ、野良ゆっくりたちを怒らせただけだったこと。 「ごめんなしゃい!ごめんなぢゃい!ごめんなぢゃいぃぃいい!」 赤まりさの心は簡単に折れた。 あっさりと前言を撤回し、赤まりさはしーしーをまき散らしながら泣きじゃくる。 無様にも、許さないと誓った相手にぺこぺこ頭を下げて謝る始末だ。 「あやまるんだったら、はじめからたいあたりなんかするんじゃないぜ」 その態度が腹に据えかねたのだろう。 まりさが目で合図すると、ぱちゅりーとれいむが赤まりさに噛みついて無理矢理立たせた。 「ゆっ……ゆんやぁあああああああああああああああ!!」 恐怖でばたばた暴れる赤まりさを、汚いゴミでも見るような目でまりさは見ると、二匹に命令した。 「あのれいむとおなじように、もうしょうばいができないようにしてやるんだぜ」 「わかったよ!まかせてね!」 「むきゅ、あまりたいりょくはつかいたくないけど、しかたないわね」 そう言うと、れいむとぱちゅりーは顎の下付近にあるぺにぺにを立たせた。 生殖器官であるそれは、赤まりさにとってはリンチに使われる拷問道具である。 まりさのまむまむはよく見ると潰れていた。 外側からなまくらな刃物でえぐったような傷跡だけが残っている。 それが他のゆっくりにやられたのか、人間にやられたのかは定かではない。 「ゆぴゃああ!やじゃぁぁ!まみゅまみゅ!まりちゃのまみゅまみゅいじめにゃいでぇぇぇ!だみぇなのじぇ!ゆんやぁなのじぇ!いぢめぢゃだみぇなのじぇぇぇぇ! れいみゅぅ!たしゅけちぇ!れいみゅれいみゅ!れいみゅぅぅぅううう!やじゃぁ!おかあしゃぁん!おがあじゃぁあん!おがあじゃあああああああん! おどおじゃあん!まりぢゃをだじゅげでぇ!だじゅげでほぢいのじぇ!なんでもじゅるのじぇ!おどうしゃぁぁん!おどおじゃああああああああああん!」 じたばたと暴れる赤まりさのまむまむに、れいむのぺにぺにが無理矢理突っ込まれた。 「ゆんぎぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」 凄まじい激痛に、赤まりさは舌を飛び出させて叫んだ。 その舌は真っ赤に膨れ上がり、全身の切り傷から餡子が染み出してくる。 「ゆぶぇぇぇぇ!いぢゃい!いぢゃい!びぢゃびいいいいいいいいいいいいい!!」 続いて、嫌そうな顔をしたぱちゅりーが、赤まりさの小さなあにゃるにぺにぺにを苦労して突っ込んだ。 「ゆげぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 これまでで最大級の痛みに、赤まりさは発狂した顔になって声を絞り出す。 全身の餡子が体から押し出される。 中枢餡が圧縮され、ゆん生で経験したことのない激痛が餡子の中を暴れ回る。 「げぼぉ!げぼごぉ!ゆげぇぇおおおおええええおおおえええええおおおおお!」 口と目じりから餡子を吹き出してまりさは絶叫した。 意識が飛び飛びになり、目の前がチカチカ光ったり暗くなったりする。 赤まりさはもがき、叫び、痙攣し、全身をひきつらせた。 内も外も痛みしか感じない。 もう死ぬ、と赤まりさが思ったその時だ。 「ゆがぁあああああ!ぞごにいだなぐぞばりざああああっっ!がだぎうぢだあああああっ!」 「よぐもうぢのがわいいこぶんをごろじでぐれだんだぜええええええええっ!」 「ばいがえしにきてあげたよ!ゆっくりしんでねっ!いますぐでいいよっ!」 凄惨なリンチの現場に、外から三匹のゆっくりが勢いよく飛び込んできた。 ありす、まりさ、れいむという顔ぶれだ。 口々に唾を飛ばして啖呵を切り、血走った目をぎょろつかせる様子は尋常ではない。 別のゆっくりの群れの鉄砲玉だ。 どうやら、赤まりさを制裁していた野良ゆっくりたちに、子分を殺された復讐らしい。 この街で毎日のように行われている、群れ同士の争いだ。 「はああああ!?なにいってるのおおおおおお!きょうのれいむはとってもきげんがわるいんだよおおおおおお!」 「おらおらおらああああああっ!ごみくずふぜいがなまいきなんだぜええええっ!かえりうちにしてやるのぜえええええっ!」 「むきゅきゅぅうううう!あんながきいっぴきゆっくりさせたくらいでおおげさねえええっ!いっぱいかわいがってあげるわああああ!」 命のやりとりなど日常茶飯事である野良ゆっくりたちの行動は敏速だった。 赤まりさへの制裁など即座に止めた。 れいむとぱちゅりーは赤まりさのまむまむとあにゃるからぺにぺにを引き抜き、まりさと一緒に鉄砲玉たちを迎え撃つ体勢に入る。 用済みになった赤まりさは、ゴミのように地面に叩きつけられた。 三匹の啖呵も、鉄砲玉たちの啖呵に負けず劣らぬ凄まじい迫力だ。 「じょうどうだごのぐぞぼげゆっぐりがあああああああああっ!だまぁどっでやるうううううううううううう!」 「んだどごらあああああああっ!ざんずのがわおがまぜでやるぜええええええええええええええええええっ!!」 「ここでまけたらまつだいまでのはじだよ!れいむはしぬまであきらめないからねっ!いっぱいがんばるよっ!」 売り言葉に買い言葉とはよく言ったもので、まりさたちの啖呵に刺激されて鉄砲玉たちはさらに口汚く罵る。 応酬は舌戦だけで終わるはずがない。 次々に鉄砲玉ゆっくりたちは口から尖った枝、フォーク、ドライバーを取り出して飛びかかる。 「あたってねっ!」 ジャンプした三匹の鉄砲玉に、素早くれいむが口から何かを吐き出した。 含み針のように飛んだのは、小さなネジだ。 見事にありすとまりさの目にそれは当たり、二匹はもんどりうって地面に転がった。 そこに千枚通しをくわえたまりさと、細いチェーンをくわえたぱちゅりーが襲いかかる。 唯一無事なれいむがネジを吐いたれいむをはり倒し、まりさが隙を見てその背中に体当たりする。 たちまち周囲は、餡子とカスタードと生クリームが飛び散る修羅場と化した。 六匹のゆっくりが敵を殺そうと、ルール無用の乱闘を繰り広げる。 正真正銘、ガチの殺し合いだ。 「ゆぁ……ゆわぁぁ………きょわい…のじぇ………しゅごく…きょわいのじぇぇぇぇ……」 がたがた震えて、赤まりさは後ずさった。 こんな恐ろしい光景を見るのは初めてだった。 これほど恐ろしく、血生臭く、残酷な光景を間近に見たことはなかった。 これはゆっくりのしていることじゃない。 幸い、野良ゆっくりたちはもう赤まりさに気を配る余裕などない。 赤まりさは地面にしーしーでできた線を残して、命からがらその場から逃げ出した。 野良ゆっくりの抗争に巻き込まれながらも、命を失わずにすんだのは幸運だった。 一歩間違えれば、赤まりさは六匹のゆっくりのどれかに踏み潰されていたことだろう。 死なずにすんだという点だけは、赤まりさは運が良かった。 それ以外については、不運としか言いようがないが。 *** 雑居ビルの間にある汚い廃屋の隅が、赤まりさと赤れいむのゆっくりプレイスだった。 汚水と腐敗しきったゴミの間を、自らもゴミと同化してしまったかのような汚い赤まりさが這う。 「ゆっ……くち………ただ……い…ま……なの……じぇ…………」 よくここまでたどり着いたものだ。 赤まりさの全身はぼろぼろだ。 打ち身と切り傷が体中にある。 顔のあちこちはいびつに腫れ上がり、ところどころにある大きな傷からは餡子が漏れていた。 何よりもひどいのはまむまむとあにゃるだった。 どちらも裂けて餡子を垂れ流し、もはや使い物にはならないだろう。 売ゆんで稼ぐ望みは、もはや赤まりさからは断たれた。 「れ…い……みゅ…………。かえっ……た……の…………じぇ」 錆びたクーラーの陰。 落ち葉と変色したチラシでできた不潔な巣に、赤れいむがうずくまっていた。 野良ゆっくりの生活環境は劣悪だが、ここまでひどい場所にすむ野良はほとんどいない。 赤れいむは、赤まりさと同じようにまむまむとあにゃるを引き裂かれ、全身はぼろぼろだ。 同じ野良ゆっくりたちに、勝手に売ゆんをした罪で制裁されたのだ。 「ゆっく……ち……おかえり……にゃ…………しゃ……い…………」 「れい……みゅ……れい……みゅ……れい…みゅぅぅぅ…………」 よろけつつすり寄る赤まりさのひどい姿に、赤れいむの目からぽろりと涙がこぼれた。 だが、ひどいという点では赤れいむも同レベルだ。 昨日から全身の傷の痛みでもがくばかりで、体をきれいにすることさえできない。 もっとも、この不潔極まりない巣でいくら体をぺーろぺーろしても、すぐに汚くなるのだが。 「まり…じゃぁぁぁ…………ひどい…にぇ………いぢゃい…いぢゃい……だ…にぇ…………」 「いぢゃ…い……のじぇ………。いっぱい……いっぱい………いじゃい…いぢゃいのじぇぇぇ…………」 赤れいむの開かれた口には、歯が見えない。 少しの奥歯を除いて、赤れいむの歯は全部折れていた。 赤れいむには、赤まりさの味わった制裁の詳細がよく分かった。 何しろ、自分もまったく同じ苦痛を味わったのだ。 「こりぇ……が…きょう………の……ごはんしゃん……なの……じぇ…………」 赤まりさの帽子から、二粒のゆっくりフードが落ちた。 かろうじてこれだけは持って帰ることができた。 残りは、全部野良ゆっくりたちの喧嘩に巻き込まれて踏み潰された。 赤まりさたちのためだけに用意された、素敵な美味しいゆっくりフード。 それは、無関係の野良ゆっくりたちによって無惨にも踏みにじられたのだ。 「うれちい……にぇ……。ごはん…しゃん……たべれりゅ……よ…………」 「ゆっくち…いただき……ましゅ…なのじぇ…………」 それでも、食べられるだけましだ。 一日叫んで一匹の客も取れない日もあった。 一方的にすっきりし、代金も払わずに立ち去る飼いゆっくりもいた。 たった二粒のゆっくりフードだが、それは二匹にとって輝く宝石だった。 ぼろぼろの赤まりさと赤れいむは、並んでカリカリとゆっくりフードをかじる。 どちらも歯の大半を失っているため、口いっぱいに頬張ってむーしゃむーしゃとできない。 噛み砕いたフードが舌に触れると、自然界にないほのかな甘みが伝わってくる。 だが、二匹の口から「しあわせー!」の叫びが聞こえてくることはない。 二匹は、暗い顔をして黙ったままゆっくりフードを食べている。 ゆっくりの食事はうるさく意地汚い。 口に餌を頬張ったまま「むーしゃむーしゃ!しあわせー!」と叫ぶため、口の周りと周囲を汚す。 数匹で集まって食事をすれば、常に食卓には楽しげな声が聞こえるはずだ。 しかし、赤まりさと赤れいむは黙って餌を食べている。 「しあわせー!」などこれっぽっちも感じない。 甘いご飯を食べていても、ちっとも幸せに思えない。 幸福を感じる部分が、二匹の中で死んでしまったのだ。 辛いこと、苦しいこと、痛いこと。 あまりにもそういったことが多すぎて、二匹の小さな心はもう癒えない。 「「ごちそうしゃま……………………」」 わずかなゆっくりフードは、あっと言う間に二匹の口の中に消えた。 とうてい空腹を満たすことはできず、体力を蓄えたり傷を治したりすることなど論外だ。 辛い毎日で唯一の娯楽である食事は、五分もしないで終了した。 「おとうしゃん…………」 「おかあしゃん…………」 「おねえしゃん…………」 「みんにゃ………………」 自然と、赤まりさと赤れいむはお互いの顔を見る。 生ゴミのような汚くて傷だらけの顔だ。 隣にはもう家族は一匹もいない。 一緒に悪臭を放つ腐った生ゴミを食べていた過去が、この上なく懐かしく思えてきた。 二匹にはもう何もない。 親もいない。 姉妹もいない。 友だちもいない。 餌の蓄えもない。 子供を産むこともできない。 楽しいことや幸せなこともない。 ゆっくりできることなど一つもない。 徹底的に、二匹はゆっくりを奪われたのだ。 「ゆっくち……ゆぇぇぇぇん…………ゆぇぇぇぇん……ゆっくちぃぃ……」 「ゆわぁぁぁぁん……かなちいのじぇ……ゆわぁぁぁぁん…………」 自然と二匹の目に涙が浮かび、すぐにそれは悲しみに満ちたすすり泣きに変わった。 赤まりさと赤れいむは、汚い頬と頬をくっつけてすーりすーりする。 泣くことしかできない。 涙だけが、二匹のゆん生だった。 二匹の感じているストレスと苦痛は、以前ならばあっさりと非ゆっくり症を発症しておかしくないレベルだった。 だが、もうゆっくりの数の調整は終わっている。 正気を失うことさえ、赤まりさと赤れいむには許されていない。 ゆっくりフードは二匹の餡子に吸収された。 次はたまった劣化した餡子が、体外に出ようとする時だ。 今までは、便意を催したら巣の外に出るまで我慢できた。 だが、今赤まりさと赤れいむはあにゃるを閉じることができない。 引き裂かれた下半身は、二匹の意志とは無関係に動く。 餡子の滲む裂けたあにゃるから、下痢気味のうんうんが汚らしく流れ出す。 「ゆんやぁぁ……あにゃるしゃん……とじてにぇ……きちゃにゃいよぉぉ…………」 「やめちぇにぇ……うんうん……とまっちぇ………とまるのじぇぇぇ…………」 ひどい音を立てて、その場にうんうんを排泄する二匹。 一緒にしーしーも流れ出し、ただでさえ不潔な巣が言語に絶するほどの惨状に変わっていく。 赤まりさと赤れいむは泣きながら必死にあにゃるを閉じようとするが、無駄な努力だ。 一度排泄されたうんうんは止まることはない。 うんうんとしーしーにまみれた巣と、自分たち。 寝るところも食べるところも、餡子を吐きたくなるような悪臭で覆い尽くされていく。 どんなに我慢しても、勝手にうんうんとしーしーが漏れていく。 最後のゆっくりプレイス。 ゆっくりできる所とは言えないけれど、それでも体を休められる貴重な場所。 何もかも失った二匹が、最後の希望としていたお家。 それさえも、自分たちの手で失っていく。 「やじゃよぉ……こんにゃの……やじゃぁぁ…………いちゃいよぉ……きちゃないよぉ……さびちいよぉ……くちゃいよぉ…………」 「まりちゃたち……ゆっくちなんかにゃいのじぇ……ゆっくちなんか……どこにもにゃいのじぇ……くやちいのじぇ…かなちいのじぇぇぇ……………」 二匹の目から止めどなく涙が流れる。 惨めだった。 ゆっくりできることを全部奪われ、ゴミのように扱われることが悔しくて仕方がなかった。 孤独に耐えられない。 悪臭にも耐えられない。 悔しさと悲しさに耐えられない。 何もかも、もう苦しくて苦しくて耐えられない。 ここまで追い詰められながら、それでも二匹は死ぬのが恐かった。 親のように苦しみ抜いて死ぬなんて、絶対に嫌だった。 だが、これからどうする? 唯一できる売ゆんもできず、このまま飢えて死ぬのか? その前に、湿った場所でうんうんとしーしーを垂れ流していれば、すぐにカビが生えて死ぬだろう。 「ゆっくちちたいよぉ………………おとうしゃんとおかあしゃんとおねえしゃんで………いっぱい…いっぱいゆっくちちたいよぉ………………」 「ゆっくちちたいのじぇ………しゅごく……ちあわしぇーに……ゆっくち……どうちて……まりちゃたち……ゆっくちできにゃいのじぇ…………」 雨が少しずつ降ってきた。 八方塞がりの赤まりさと赤れいむは、虚ろな目で空を見上げた。 かろうじて雨水を直接浴びることはないが、湿気は容易にカビを呼び寄せる。 ゆっくりしたい。 ただそれだけなのに、どうして叶えられないんだろうか? 答えはない。 いつまでも、二匹は寄り添って暗い空を見ていた。 その目から、止まない雨と同じように涙を流しながら。 *** 夕方の河原で、一人夕陽に向かって叫ぶ変態じみた男がいた。 変態じみた男がいた。 男がいた。 ……男。 …………俺だよ俺! 「ゆっくちちてにゃい へんしゅうしゃ はゆっくちちてにゃいでしゃっしゃとおっちねぇぇぇっ!」 腹の底から声を絞り出して俺は絶叫する。 遠くで草野球を楽しんでいる子どもたちがいるが、今の俺にはどうでもいい。 「どぼぢでええええええっ!ど!ぼ!じ!で!どぼ!じで!どぼじでどぼじでどぼぢでええええええええっっ!」 頭のどこかで「誰かに警察か救急車呼ばれても仕方がないな」と思いつつも、叫びは止まらない。 たまった不満と怒りとやるせなさが、口を通じて外に泥酔状態のゲロのように吐き出される。 「どぼじでいっじょうげんめいがいだげんごうざんがゆっぐりあづがわれないでじゃげんにざれるのおおおおおお!?おがじいよおおおおおおお!?」 皆様にも同様の経験はないだろうか? ゆっくりを飼っている方、もしくはゆっくりを虐待している方でもいい。 長い間ゆっくりと関わっていると、どうもゆっくりの口調が移ってしまうらしいのだ。 困った時には「ゆっくりできないよ……」とつぶやき、逆境に陥った時には「どぼじでごうなるのおおお!」と口走る。 ゆっくりのあのふざけた口調は、気づかないうちにこっちにまで伝染している。 ここまでいくと洗脳に近いだろう。 ご多分に漏れず、俺もついついゆっくりっぽい喋り方をしてしまう時がある。 例えば今のような、理不尽な状況に直面した時だ。 全力で怒鳴り終え、俺は河原に大の字に倒れた。 ここまで大声で叫んだのは、男子校にいた頃、ダチと連れだって応援団に所属した時以来ではないだろうか。 ただ声を口から出しただけなのに、全身が疲れた気がする。 「ごべんね………げんごうざん……ほんとにごべんねぇ………むのうなおれでぇぇぇ…………」 俺がここまで荒れているのは、自分の原稿の扱いだった。 あの力作には、四ページが約束されていたはずだったのだ。 それがただの口約束であり、楽観視に過ぎないことを、俺は原稿が完成した嬉しさですっかり忘れていた。 俺の汗とゆっくりの涙の結晶は、急遽組まれた別の特集記事によっておじゃんになった。 お情けで小さなコラムに載せることが許されたのだが、あんなところに注目する読者は少ないだろう。 俺の苦労がすべて水の泡になってしまったような思いさえする。 炎天下の中街を歩き回ってゆっくりを取材した苦労の日々が、報われずに終わった気分だ。 「………馬鹿らしいことしてんな……俺…………」 しばらくむしゃくしゃした気持ちを発散してから、俺はようやく平静になれた。 フリーの扱いなんてこんなもんだ。でもこれを承知で俺はフリーになったはずだ。 くやしいけど、これが俺の実力だ。 ちょうどいい頃合いだろう。 そろそろ帰ろう、と俺が両肘に力を入れて上体を起こそうとした時だった。 「ゆっくりーっ!おにいさん!なんだかゆっくりしてないねっ!」 いきなり近くに植わっていた桜の木の陰から、小さな子まりさが飛び出してきた。 同じ日本語を喋っているのに、ゆっくりと人間はまったく違う。 声の質が異なりすぎる。こんなに耳にキンキン響き、無遠慮で押しつけがましい声を出せるのはゆっくりだけだ。 「ゆっくりしてないおにいさんに、いっぱいゆっくりしてるまりさがゆっくりをわけてあげるねっ!ゆゆゆ~♪ゆっくり~♪していって~ね~♪まったり~♪していってね~っ♪」 いきなりまりさは、俺の前で歌を歌い上半身をゆーらゆーらと揺らし始めた。 頼みもしないのに勝手に出てきて、勝手に俺をゆっくりできていないと判断し、さらに勝手に歌を歌い出す。 完璧なコンボだ。ゆっくりがいかに自分のことしか考えていないのか、自分だけの世界に生きているのかを象徴するような出会いではないか。 子まりさは目を閉じてうっとりとした様子で、頬をちょっとだけ桜色にしている。 自分の歌に聴き惚れ、自分の姿に酔っているのが一発で分かるむかつく顔だ。 それにしてもこの子まりさ。 大きさからして、最近ようやく赤ゆっくりから子ゆっくりになったばかりだろう。 血色がよくとても健康だ。 最近まったく見かけなくなった、ゆっくりしているゆっくりと言えるだろう。 「ゆっくりゆっくり~♪まりさゆっくり~♪おにいさんもゆっくり~♪しあわせまりさ~♪おにいさんもしあわせ~♪いっしょにしあわせ~っ♪」 ああ、本当に下手な歌だ。 人間がどれだけゆっくりを真似て下手糞に歌おうとしても、ここまで音痴に歌うことなどできないだろう。 知能の低すぎる歌詞、不快なまでに大きな音量、絶望したくなるくらいに外れている音程、極めつけに人を舐めきった振り付け。 日本語で歌っているのがそれらに拍車をかけている。 どうして、ゆっくりはここまで下手に歌えるのだろうか。 そんな問いまでしたくなるくらい子まりさのお歌は一方的で、ド下手なものだっった。 そのせいで、気づくのが遅れた。 子まりさのいる位置。 このゆっくりは日なたに出ている。 日光を浴びても、苦しがる様子がまったくない。 「ゆっゆ♪ゆ~♪ゆぅ♪………………どう?おにいさん?ゆっくりできたでしょ?まりさのすてきなおうたにめろめろになってねっ!」 帽子を斜めにかぶり、キリッ!とポーズを決めるまりさなんかどうでもよかった。 「まりさっ!」 「ゆっっ!どうしたのおにいさん。まりさ、ちょっとびっくりしちゃったよ」 「おまえ、日光を浴びても大丈夫なのか?」 街のど真ん中にいても、子まりさは日なたに平気な顔で出ている。 子まりさはきょとんとした顔で俺の質問に答える。 「そうだよ!おひさまのひかりはぽーかぽーかでとってもきもちいいよ!まりさおひさまだいすき!」 もしかしたら、このまりさはA主任の言った通りのゆっくりかもしれない。 A主任が俺に寄越したメールの文面を思い出す。 『集団自殺によって数が減るとこの変化は終息し、生き延びたゆっくりから生まれる子どもは元に戻ることだろう』 確かA主任はそう書いていた。 「まりさ、お前は普段どんなものを食べているんだ?」 子まりさは「どうしてそんなこときくの?」と言いたげな顔をしてから、近くの雑草に噛み付いた。 退化によって、雑草はゆっくり限定の毒草と化している。 あの集団自殺の際に、多くのゆっくりは多量の雑草を食べて命を絶っていた。 「むーしゃむーしゃ!ちょっとにがにがだけどおいしいよ!しあわせーっ!」 子まりさは苦しむことなく、雑草を噛み砕いてから飲み込んだ。 口の周りを雑草の汁で薄緑色に汚し、子まりさはにっこりと宣言通りの幸せな顔をする。 「もう一つ聞くけど、ネコやカラスに襲われたことはあるか?」 「ないよ!ねこさんもからすさんもまりさのおともだちだよ!まりさのおうたをきいてみんなゆっくりだよ!まりさのだんすにみんなうっとりだよ!」 ゆっくりの歌を聞いてゆっくりするネコなどいないし、ましてあの不快なダンスらしき動きにうっとりするカラスがいるはずがない。 妄想に満ちた物言いだが、襲われていないのは分かった。 ゆっくりの発言から事実と空想とを分けることくらいは誰でもできる。 「ゆっゆっゆー!まりさはまいにちたのしいよ!しあわせーだよ!みんなだーいすき!まりさのこともみんなだーいすきだよね!おにいさん!」 俺と話せて嬉しいのか、子まりさはその場でぴょんぴょん跳ねて喜びを表現している。 世界のすべてを好きな子まりさ。 子まりさは同時に、自分が世界のすべてから好かれていると信じて疑っていない。 まさにA主任の言っていた通り、ゆっくりには「悪意」がない。 生きることの苦労とは縁のないその姿。 A主任の予想は当たっていた。 個体群密度の調整は終わったのだ。 「おちびちゃん……そこにいたんだね…………」 「にんげんさんだ………ゆっくり…していってね…………」 がさがさと草むらを揺らしてれいむとまりさの番が姿を現した。 俺の姿が目に入ると二匹は一瞬体を硬直させたが、すぐに子まりさに視線を移す。 子まりさの親に違いない。 「おとうさん!おかあさん!ゆーっ!まりさあいたかったよ!すーりすーりしてね!いっぱいしてねっ!」 子まりさの変わり身の早さは呆れるほどだった。 たちまち関心がそちらに移った子まりさは、目を輝かせて両親の側に跳ねていく。 俺がいたことさえ忘れたようだ。 れいむとまりさの間に少しだけできたスペースに、子まりさは飛び込んだ。 「おちびちゃん…すーりすーりだよ……すーりすーり……ゆふふふ……おちびちゃんのすべすべほっぺ……ゆっくりだよぉ……」 「ぺーろぺーろ………おちびちゃんはげんきだね………おとうさんはうれしいよ……すごく…すごくうれしいよぉ…………」 全身で喜びを現す我が子に、二匹の顔はとてつもなく嬉しそうなものになった。 あんなに幸せそうな顔をする野良ゆっくりの顔は、久しぶりに見た気がする。 子まりさをサンドイッチにし、両親は精一杯の愛情表現をする。 れいむはもみあげでそっと子まりさを抱き、自分の頬と子まりさの頬を優しく擦り合わせる。 一方まりさはお下げで子まりさの頭を撫でつつ、大きな舌で子まりさの顔を丁寧に舐めてやる。 「ゆーっっ!うれしいっ!まりさすごくうれしいっ!おかえしのすーりすーりするよ!すーりすーりっ!ぺーろぺーろもしてあげるねっ!ぺーろぺーろ!ゆっくりーっ!」 両親から無条件に注がれる愛情を一心に受け、子まりさの表情は輝くような明るいものになる。 れいむにはすーりすーりを、まりさにはぺーろぺーろを返してやり、なかなか忙しい。 すーりすーりする度に、ぺーろーぺーろする度に、子まりさはにこにこ笑って「ゆーゆーっ!」と叫ぶ。 この子まりさは両親に溺愛されているらしい。 れいむとれいむは子まりさとは違ってみすぼらしい。 二匹の飾りはあちこちが破れ、饅頭の体も痩せていて健康的とは言い難い。 しかしその顔はやつれてこそいるものの、とても幸福そうだ。 「ちょっと、いいかな」 俺は三匹に近寄った。 「ゆぅ…………」 「ゆぁ…………」 「少し、話を聞かせて欲しいんだ。あのね…………」 れいむとまりさは人間が恐いらしく少したじろいだが、幸い話を聞かせてくれた。 子まりさはと言えば、もう俺から関心を失ったようで両親の飾りを甘噛みしたり、髪の毛に体を隠してみたりと遊んでいるだけだった。 俺の方としても子まりさにインタビューする気はないんだが。 「どうして……あんなにれいむたちはしにたかったんだろ。……もう、わからないよ…………」 両親の話は予想通りだった。 れいむとまりさの番は、あの集団自殺を生き抜いた幸運なゆっくりだった。 本当は家族一緒に死ぬつもりだったが、死に場所を探しているうちに夜が来たので寝てしまい、次の日になると自殺衝動は消えていたという。 あの日の恐ろしい光景を思い出し、れいむはもみあげをぶるぶると震わせていた。 「ゆっくり……まりさたちはちょっとだけゆっくりできるようになってきたよ。すこし、まりさはうれしいよ…………」 だからといって、昔のようなゆっくりした生活が帰ってきたわけではない。 今でも家族は暗がりでゴミを漁り、乞食をして糧を得ている。 乞食は特定の群れに所属することによって街頭で行う許可がおり、場所は厳密に指定されている。 もしよそで勝手に乞食をしたら、他の群れから袋だたきにされて永遠にゆっくりしてしまうことだろう。 二匹の今の生きる希望は子まりさだけだ。 雑草を美味しく食べ、日光を恐れず、ゆっくりとしたゆっくりに育ちつつある大事な子まりさ。 集団自殺直後に生まれた子どもだったが、良好な栄養状態といっぱいのゆっくりであっという間に子まりさにまで成長したようだ れいむとまりさがどれだけ子まりさを大切にしているのか、今日出会った俺でもよく分かる。 「おちびちゃんは……れいむたちのすべてだよ……。たからものだよ……ゆんせいだよ…………」 「まりさは…おちびちゃんがいなくちゃいきていけないよ……。たいせつなたいせつな……まりさとれいむのおちびちゃんだよ……」 子まりさは番の生きる理由そのものだった。 その宝物は、そろそろ両親の側でゆっくりすることにも飽きてきたらしい。 ぴょこん、と上半身をのーびのーびさせて、子まりさは向こうを見た。 「ゆっ!むこうにもにんげんさんがいるねっ!なにしてるのかなっ?まりさとおともだちになってほしいなっ!」 どうやら、子まりさは向こうで草野球をしている子どもたちに気づいたようだ。 たちまち、新しい興味の対象を見つけた子まりさの目がきらきらと輝き始める。 「ゆっゆーっ!にんげんさんっ!まりさはまりさだよっ!いっしょにゆっくりしようねっ!」 子まりさはぴょんぴょんとジャンプしてそちらに近づこうとする。 あまりにも無邪気な姿だ。 警戒心というものが子まりさには一切ない。 脆弱なゆっくりにとって危険がいっぱいの街で、よく今まで死ななかったものだと俺は呆れた。 「ゆっくりだよっ!まりさゆっくりしてるよっ!ゆっくりまりさとおともだちになってねっ!おれいにいっぱいゆっくりさせてあげるからねっ!」 いっぱい人間さんがいるよ。なんだかとっても楽しそうなことをしてるよ。 まりさも一緒に遊びたいよ!まりさも仲間に入れてね!一緒にゆっくりしようね!一緒にゆっくりできるよね! きっとそんなことを考えているのだろう。 喜びと希望に満ちた子まりさは、大きく体を縮めてから跳躍した。 その体が、ちょうど放物線の頂点に達した時だった。 子まりさが望んだ、人間からの返答があった。 「ゆっくりーっ!まりさといっぱいゆっくりしようねっ!ゆっくりっ!ゆっぶびぼびぶっ!」 空中に餡子と饅頭皮、そして白い歯が放射状に飛び散った。 少し遅れて、地面にべちゃりと子まりさが落ちた。 放物線を描かず、突然の落下だった。 ぴくぴくと全身が痙攣している。 バッターの打ったホームランボールが、空中に跳んだまりさを直撃したのだ。 「すみませーん!ボールぶつかりませんでしたかー!」 外野の少年が走ってきた。 俺の顔を見ても変化がないことから、さっきまでの暴言は聞こえなかったと判断していいだろう。 「大丈夫だよ」 子まりさの近くに転がっていたボールを俺は拾い、草で餡子を拭うと少年に投げ返した。 ぺこりとお辞儀をしてから、少年はすぐに仲間たちの所へと戻る。 俺は子まりさに近づいた。 奇跡的な確率で、ボールは正確に子まりさの顔面に命中していた。 ちょうどジャンプしていた時にぶつかったので、避けようもなかっただろう。 子まりさは草の上で仰向けにひっくり返っていた。 帽子はすぐ脇に転がっている。 一目見て、これはもう助からないと俺は思った。 と言うより、助からない方がいいような重傷だった。 「ゆ゙っ……ゆ゙っ……い゙だっ……い゙っ………ゆ゙っ…ゆ゙あ゙っ……い゙だぁ…い゙ょ……い…だ…い…よ……」 子まりさの顔はぐちゃぐちゃだった。 激痛を訴えるために大きく開いた口には、歯がほとんど残っていない。 かろうじて歯茎に残った歯も、全部折れている。 特にひどいのは目の部分だ。 ちょうど眉間にボールはぶつかったのだろう。 衝撃で子まりさの両目の片方は飛び出し、もう片方は眼窩の中で潰れていた。 「い゙…だ…い゙…い゙だい゙…い゙だ…い゙…よ゙ぉ゙……どう…ぢ……で………おがあ…ざ………ん………お…ど……お…ざ…………ん…………」 しばらく子まりさは苦痛にもがき苦しんでいたが、やがて静かになった。 見えない目が空を睨み、口からは餡子と歯が混じったものを垂れ流して動かなくなる。 激痛と死の恐怖に怯えながら、子まりさは死んだ。 なんの意味もなく子まりさはこの世からいなくなったのだ。 「あ…………あ…………ああ………………」 「ああ…………ああ…………あ……………」 俺の足元で、れいむとまりさの番が目を飛び出さんばかりに見開いている。 二匹は見た。 最愛の我が子が死ぬのを。 自分たちの生きる希望が、木っ端微塵に砕かれるのをしっかりと見てしまった。 もう、生きる理由がない。 「………………」 「………………」 二匹の目から光が消えた。 ころん。ころん。と二匹の体は横倒しになって転がる。 れいむとまりさは死んだ。 あまりの絶望に心が死に、ただの饅頭になったのだ。 俺は爪先で二匹の体をつついたが、何の反応もない。 虚ろな目は何も見ず、半開きになった口は既に乾いていた。 呼吸もしなければ身動きもしない。 その顔は最後の希望を奪い取られた悲しみと絶望で、見るに堪えないものになっていた。 いくら退化が終わったからと言っても、ゆっくりが死にやすい饅頭であることに変わりはなかったのだ。 次anko2603 ゆっくり退化していってね!10 #pcomment(./comment,reply)