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「やっ…と…みつけたのじぇー!!」 一匹の小さな子ゆっくりが、大声を張り上げて叫ぶ。 その目には、公園内に誰かが止めた自転車のタイヤが映っている。 子ゆっくりは大きく息を吸い込むと、りりしく眉毛を吊り上げ、改めてタイヤを睨みつける。 「よくもおとーしゃんをぉぉぉ!おとーしゃんのかたきぃぃぃぃぃ!ふくしゅーするのじぇぇぇ!せーさいしてあげるのじぇぇぇぇぇぇ!!」 子ゆっくりは両目に涙を潤ませながら、勇ましく叫び声をあげると、タイヤに向かって勢い良く跳ねだした。 その速度は人から見たらけして早いものではなかったが、子ゆっくりにとっては生涯最速と言ってもおかしくない程だった。 ぽよん、ぷよん、と間抜けな音を響かせながらも、その表情は鬼にでもなったつもりで顔を強張らせている。 だが、事情を知らない者が見たら、糞をするのを我慢した子ゆっくりが、頬を膨らませて跳ねているくらいにしか思わないだろう。 「くらうのじぇぇぇ!まりちゃのひっさつ!なのじぇぇぇぇ!!」 子ゆっくりはそう叫ぶと、歯を食いしばりながら勢いよくタイヤにぶつかる。 当然ながらタイヤには傷一つ付かない。 子ゆっくりは大きく頬を波打たせ、歪に体を変形させて弾かれる。 「ゆっぺ!………ゆっびゃぁぁぁぁ!いったいのじぇぇぇ!いじめるのじぇぇぇぇ!ゆるさないのじぇぇぇぇ!!」 頬を真っ赤に腫上がらせて、ぴーぴーと泣き喚く子ゆっくり。 それでも何とか身を起こすと、眉毛を吊り上げて再びタイヤを睨みつけ、まるで間合いを取るかのように、ジリジリと少しずつ這いずりながらタイヤに近づいていく。 そして大きく口を開くと、不意にタイヤに噛み付いた。 「ぼーなのべ!びばいのべ?!ぼーばんぶるのべ?!」 だらだらと涎を垂らしながらタイヤに噛り付いたままの状態で、勝ち誇ったかのように眉毛を吊り上げる子ゆっくり。 まるで吊り上げられた魚のように底部をブリブリ振りながら、タイヤに噛み付いて離そうとしない。 「げっ!ゆっくりが俺の自転車を食おうとしてる!!」 そこの現れたのは一人の少年。 自分の自転車に噛り付く子ゆっくりに少し驚いたのか、目を丸くしながら子ゆっくりを摘み上げる。 「ゆぼっぷ!…おしょらをとんで……?!なにするのじぇ!まりちゃは、かたきうちのせーしゃいのさいちゅうなのじぇ!じゃまするんじゃないのじぇ!ふくちゅーなのじぇ!」 少年の手の中でブリンブリンと体を振りながら、凛々しく眉毛を吊り上げて少年を睨みつける子ゆっくり。 少年はそんな子ゆっくりを品定めするかのように眺める。 「何言ってんだ?!何がかたきのせーシャイだ?腹が減っておかしくなったのか?」 「ゆっぷん!ぷん!このまんまるしゃんは、おと-しゃんのかたきなのじぇ!だからまりちゃが、かたきをうってるのじぇ!せーさいなのじぇ!じゃまするなのじぇ!!ゆるさないのじぇ!ぷんぷん!!」 子ゆっくりは膨れ上がって少年を威嚇すると、お下げをぶんぶん振り回して少年の手を叩いた。 少年はそんな子ゆっくりを持った手に、少しずつ力を込めていく。 「ゆっぶぶ?!ぐるじぃぃぃ!やべるのじぇぇ!まりちゃ、ぐるじいっていっでるのじぇべぇぇ!!」 「まん丸ってなんだ?もしかして自転車か?タイヤの事か?最近ゆっくりを自転車で轢いて遊んだかな?覚えてないや。昨日はゆっくり蹴りしてたけど…そうか!そんなに轢いて欲しけりゃ轢いてやるよ!」 「ゆべっべ?!」 少年はそう言うと、子ゆっくりを地面に落とした。 子ゆっくりはアスファルトの地面に顔面から着地して、歯を何本か折ってしまう。 「ゆっ…ゆっ…ゆっびぃぃぃぃ!いっだいのじぇぇぇぇ!まりちゃのおかおがぁぁぁ!はっじろにかがやくはがぁぁぁ!ゆっびゃぁぁぁぁぁぁ!!」 顔を真っ赤に腫らして、ビッタンビッタンと体をくねらせて飛び跳ね、全身でその痛みを表現しながら泣き喚く子ゆっくり。 キリッと公園のある一点を見据えると、重い体を引きずるかのように這いずり始める。 「ごぉぉぉ!ぼういやなのじぇぇぇ!まりぢゃ、おうぢがえるのじぇぇ……『グチャ!』 じょべぇ?!」 そんな子ゆっくりの体の上を、自転車のタイヤが通過する。 子ゆっくりは両目を飛び出さんばかりに見開いて、少量の餡子を吐き出した。 幸いな事に体を伸ばしていた瞬間に轢かれたので、尻を踏み潰されただけで即死には至らなかった。 それでも軽い怪我ではなく、ガタガタと体を震わせながら黒いシミとなって泣き別れた自分の尻を見る。 「ゆ…がが…ぎぃぃ…ががげぇ?!…なにごべぇ?!…までじゃのおぢり!どごいっだのぉぉぉ?!ゆっびぃぃ!ぎぎ!ががが!ごべぇ?!」 体をグネグネと大きくうねらせながら、歯を食いしばって小刻みにその身を震わせる子ゆっくり。 頭から帽子がずり落ちたのも気が付かないのか、両目をぐるぐると回して苦しそうに顔を歪める。 「ちょっと失敗したかな?小さいと難しいな…まあ、いいか」 「どぼじべべべえぇぇ!ぶぐじゅう!ぶぐじゅ!がだぎをうづのべぇぇ!じじじ!っがががあが!べべっびぃ! じがが…『グチャ!』 じゃ!!」 子ゆっくりは戻ってきた少年の自転車に踏まれ、両目と餡子を汚らしく飛び散らせて潰れた。 残された帽子が、無念そうに風に揺られて流されていった。 完 徒然あき ---- #pcomment(./comment,reply)